美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛

らがまふぃん

文字の大きさ
上 下
30 / 72
レイガード新王即位編

幕間 ~エル様の葛藤~

しおりを挟む
 「「お二人の邪魔をしてしまって申し訳ありません」」
 新国王となったディアンの式典の夜会に参加するため、夜会の衣装に着替えて馬車を降りると、小さいのが二ついた。小さいのは、私のエルシィをうっとりと見つめている。腹立たしい。だが、エルシィの手前、この子どもたちを壊すわけにもいかないので仕方がない、おとなしくする。
 「でも、本当にステキですわ」
 「ウワサよりも、ずっとずっとステキですわ」
 「アリス様、女神ですわ」
 「本当に、女神様っていたのね」
 小さいのがそんなことを囁いている。エルシィを崇めているのは我慢をする。誰にもエルシィに興味を持って欲しくない。例えそれが信仰だとしても。だが、エルシィだから崇め奉られることは仕方がないことは理解している。
 「「アリス様と、ディレイガルド小公爵様、とってもお似合いですわ」」
 ふむ。見る目はあるようだ。
 私はエルシィに少しでも近付けるよう、日々研鑽を積んでいる。エルシィと似合いだと言うのはさすがに言い過ぎだとは思うが、小さいのにはまだ世の中が見えていないであろうから、とりあえず褒め言葉として受け取っておこう。
 それにしても、エルシィを名前で呼ばせないためにはどうしたものか。孤児院のもエルシィの名を呼んでいた。昔からの付き合いだから我慢をしていたが、この小さいのはどうしてくれよう。さっさとエルシィを連れてこの場を離れたいが、子どもと交流をするエルシィの邪魔をすることは出来ない。孤児院でもそうだったが、極力私は存在感を消すようにしている。子どもに囲まれたエルシィは、聖母だ。神聖な儀式を誰が邪魔出来よう。
 ふむ。色々考えている間に、エルシィと小さいのの距離が縮んでしまっている。エルシィが喜んでいることはとてもいい。だが、その喜びをもたらしたのが私ではなく、この小さいのだということが腹立たしいな。
 そんなことを考えていると、ディアンのすぐ下の弟がやって来た。
 「ディ、レイガルド、小公爵殿、夫人殿、私の、娘が、すみません」
 貴様の娘か。
 「「あっ、お父様あ」」
 おい弟。早くこの小さいのを連れて行け。私には聖母エルシィの邪魔など出来ない。そう思って弟を見るが、あからさまに私から視線を逸らしている。役立たずが。
 「殿下、ご機嫌麗しく。勝手ながら、トーナ姫様とトゥーラ姫様にご挨拶をさせていただいておりました」
 チッ。エルシィに声をかけさせてしまった。
 「あ、ああ、迷惑をかけました。ナディ、ラディ、こちらへおいで。ディレイガルド小公爵様方にご迷惑をかけてはいけないよ」
 もうかかっている。わかっているならさっさと去れ。
 「「いやあ。アリス様ともっと一緒にいたいぃ」」
 私の方が一緒にいたい。そろそろ口を開いてもいいだろうか。エルシィの邪魔にならないだろうか。ああ、弟が話をしているのだ。もういいだろう。そう思ったら。
 「夜会が始まる。お二人が遅れてしまうよ、ナディ、ラディ。困らせたいわけではないだろう?」
 弟の言葉に、小さいのはエルシィの手を握り締めて見上げた。エルシィが優しく微笑んでいる。天使か。女神か。その微笑みを私にくれ。見惚れて話を切るタイミングを逃した。やはり小さいのは油断ならん。小さいだけでエルシィの庇護対象だからな。舌打ちを堪えていると、小さいのが私を見た。
 「ディレイガルド小公爵様、次はいつアリス様といらっしゃいますか?」
 「ディレイガルド小公爵様とご一緒でしたら、アリス様と遊んでもいいですか?」
 エルシィに懐いているのは心の底から気に入らないが、エルシィは子どもが好きだから非常に納得出来かねるが仕方がないと思うことにする。まあこの小さいのは、幼いながらも立ち位置というものを理解しているようだ。エルシィとお似合いと言われた礼くらいはしてもいい。“次”と言っていることから、一度だけの許可を求めていると言うことか。私も一緒ならという確認を自らしていることは、評価に値する。何よりも、エルシィが嬉しそうだ。エルシィを喜ばせるのはああ、これは本当に堂々巡りだ。だがやはりエルシィが喜ぶのならば。
 「ああ」
 「「わあああ!ありがとうございます、ディレイガルド小公爵様。アリス様、次に登城したとき、ご本を読んでくださいませ」」
 小さいのが向かい合わせで互いの両手を握り締め、嬉しそうに笑い合っている姿に、エルシィも嬉しそうに微笑んでいる。
 私がさせた表情ではないことに歯ぎしりをしたくなる。だが、やはりエルシィが愛おしくて堪らない。
 小さいのから解放されると、エルシィが堪らなく愛らしい笑顔を向けてくれた。
 「わたくしの気持ちを優先させてくださって、ありがとうございます、エル様」
 その言葉だけで、私は満たされる。
 愛しく唇を重ねる。
 ああ、やはり、閉じ込めておきたい、アリス。



*本編につづく*

エル様の葛藤でした。
引き続き本編をお楽しみください。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。 私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。 やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。 そう自由……自由になるはずだったのに…… ※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です ※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません ※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります

はずれのわたしで、ごめんなさい。

ふまさ
恋愛
 姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。  婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。  こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。  そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。

【完結】余命三年ですが、怖いと評判の宰相様と契約結婚します

佐倉えび
恋愛
断罪→偽装結婚(離婚)→契約結婚 不遇の人生を繰り返してきた令嬢の物語。 私はきっとまた、二十歳を越えられないーー  一周目、王立学園にて、第二王子ヴィヴィアン殿下の婚約者である公爵令嬢マイナに罪を被せたという、身に覚えのない罪で断罪され、修道院へ。  二周目、学園卒業後、夜会で助けてくれた公爵令息レイと結婚するも「あなたを愛することはない」と初夜を拒否された偽装結婚だった。後に離婚。  三周目、学園への入学は回避。しかし評判の悪い王太子の妾にされる。その後、下賜されることになったが、手渡された契約書を見て、契約結婚だと理解する。そうして、怖いと評判の宰相との結婚生活が始まったのだが――? *ムーンライトノベルズにも掲載

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

【完結】記憶が戻ったら〜孤独な妻は英雄夫の変わらぬ溺愛に溶かされる〜

凛蓮月
恋愛
【完全完結しました。ご愛読頂きありがとうございます!】  公爵令嬢カトリーナ・オールディスは、王太子デーヴィドの婚約者であった。  だが、カトリーナを良く思っていなかったデーヴィドは真実の愛を見つけたと言って婚約破棄した上、カトリーナが最も嫌う醜悪伯爵──ディートリヒ・ランゲの元へ嫁げと命令した。  ディートリヒは『救国の英雄』として知られる王国騎士団副団長。だが、顔には数年前の戦で負った大きな傷があった為社交界では『醜悪伯爵』と侮蔑されていた。  嫌がったカトリーナは逃げる途中階段で足を踏み外し転げ落ちる。  ──目覚めたカトリーナは、一切の記憶を失っていた。  王太子命令による望まぬ婚姻ではあったが仲良くするカトリーナとディートリヒ。  カトリーナに想いを寄せていた彼にとってこの婚姻は一生に一度の奇跡だったのだ。 (記憶を取り戻したい) (どうかこのままで……)  だが、それも長くは続かず──。 【HOTランキング1位頂きました。ありがとうございます!】 ※このお話は、以前投稿したものを大幅に加筆修正したものです。 ※中編版、短編版はpixivに移動させています。 ※小説家になろう、ベリーズカフェでも掲載しています。 ※ 魔法等は出てきませんが、作者独自の異世界のお話です。現実世界とは異なります。(異世界語を翻訳しているような感覚です)

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

王弟殿下の番様は溺れるほどの愛をそそがれ幸せに…

ましろ
恋愛
見つけた!愛しい私の番。ようやく手に入れることができた私の宝玉。これからは私のすべてで愛し、護り、共に生きよう。 王弟であるコンラート公爵が番を見つけた。 それは片田舎の貴族とは名ばかりの貧乏男爵の娘だった。物語のような幸運を得た少女に人々は賞賛に沸き立っていた。 貧しかった少女は番に愛されそして……え?

【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!

高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。 7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。 だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。 成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。 そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る 【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】

処理中です...