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レイガード新王即位編
幕間 ~エル様の葛藤~
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「「お二人の邪魔をしてしまって申し訳ありません」」
新国王となったディアンの式典の夜会に参加するため、夜会の衣装に着替えて馬車を降りると、小さいのが二ついた。小さいのは、私のエルシィをうっとりと見つめている。腹立たしい。だが、エルシィの手前、この子どもたちを壊すわけにもいかないので仕方がない、おとなしくする。
「でも、本当にステキですわ」
「ウワサよりも、ずっとずっとステキですわ」
「アリス様、女神ですわ」
「本当に、女神様っていたのね」
小さいのがそんなことを囁いている。エルシィを崇めているのは我慢をする。誰にもエルシィに興味を持って欲しくない。例えそれが信仰だとしても。だが、エルシィだから崇め奉られることは仕方がないことは理解している。
「「アリス様と、ディレイガルド小公爵様、とってもお似合いですわ」」
ふむ。見る目はあるようだ。
私はエルシィに少しでも近付けるよう、日々研鑽を積んでいる。エルシィと似合いだと言うのはさすがに言い過ぎだとは思うが、小さいのにはまだ世の中が見えていないであろうから、とりあえず褒め言葉として受け取っておこう。
それにしても、エルシィを名前で呼ばせないためにはどうしたものか。孤児院のもエルシィの名を呼んでいた。昔からの付き合いだから我慢をしていたが、この小さいのはどうしてくれよう。さっさとエルシィを連れてこの場を離れたいが、子どもと交流をするエルシィの邪魔をすることは出来ない。孤児院でもそうだったが、極力私は存在感を消すようにしている。子どもに囲まれたエルシィは、聖母だ。神聖な儀式を誰が邪魔出来よう。
ふむ。色々考えている間に、エルシィと小さいのの距離が縮んでしまっている。エルシィが喜んでいることはとてもいい。だが、その喜びをもたらしたのが私ではなく、この小さいのだということが腹立たしいな。
そんなことを考えていると、ディアンのすぐ下の弟がやって来た。
「ディ、レイガルド、小公爵殿、夫人殿、私の、娘が、すみません」
貴様の娘か。
「「あっ、お父様あ」」
おい弟。早くこの小さいのを連れて行け。私には聖母エルシィの邪魔など出来ない。そう思って弟を見るが、あからさまに私から視線を逸らしている。役立たずが。
「殿下、ご機嫌麗しく。勝手ながら、トーナ姫様とトゥーラ姫様にご挨拶をさせていただいておりました」
チッ。エルシィに声をかけさせてしまった。
「あ、ああ、迷惑をかけました。ナディ、ラディ、こちらへおいで。ディレイガルド小公爵様方にご迷惑をかけてはいけないよ」
もうかかっている。わかっているならさっさと去れ。
「「いやあ。アリス様ともっと一緒にいたいぃ」」
私の方が一緒にいたい。そろそろ口を開いてもいいだろうか。エルシィの邪魔にならないだろうか。ああ、弟が話をしているのだ。もういいだろう。そう思ったら。
「夜会が始まる。お二人が遅れてしまうよ、ナディ、ラディ。困らせたいわけではないだろう?」
弟の言葉に、小さいのはエルシィの手を握り締めて見上げた。エルシィが優しく微笑んでいる。天使か。女神か。その微笑みを私にくれ。見惚れて話を切るタイミングを逃した。やはり小さいのは油断ならん。小さいだけでエルシィの庇護対象だからな。舌打ちを堪えていると、小さいのが私を見た。
「ディレイガルド小公爵様、次はいつアリス様といらっしゃいますか?」
「ディレイガルド小公爵様とご一緒でしたら、アリス様と遊んでもいいですか?」
エルシィに懐いているのは心の底から気に入らないが、エルシィは子どもが好きだから非常に納得出来かねるが仕方がないと思うことにする。まあこの小さいのは、幼いながらも立ち位置というものを理解しているようだ。エルシィとお似合いと言われた礼くらいはしてもいい。“次”と言っていることから、一度だけの許可を求めていると言うことか。私も一緒ならという確認を自らしていることは、評価に値する。何よりも、エルシィが嬉しそうだ。エルシィを喜ばせるのはああ、これは本当に堂々巡りだ。だがやはりエルシィが喜ぶのならば。
「ああ」
「「わあああ!ありがとうございます、ディレイガルド小公爵様。アリス様、次に登城したとき、ご本を読んでくださいませ」」
小さいのが向かい合わせで互いの両手を握り締め、嬉しそうに笑い合っている姿に、エルシィも嬉しそうに微笑んでいる。
私がさせた表情ではないことに歯ぎしりをしたくなる。だが、やはりエルシィが愛おしくて堪らない。
小さいのから解放されると、エルシィが堪らなく愛らしい笑顔を向けてくれた。
「わたくしの気持ちを優先させてくださって、ありがとうございます、エル様」
その言葉だけで、私は満たされる。
愛しく唇を重ねる。
ああ、やはり、閉じ込めておきたい、アリス。
*本編につづく*
エル様の葛藤でした。
引き続き本編をお楽しみください。
新国王となったディアンの式典の夜会に参加するため、夜会の衣装に着替えて馬車を降りると、小さいのが二ついた。小さいのは、私のエルシィをうっとりと見つめている。腹立たしい。だが、エルシィの手前、この子どもたちを壊すわけにもいかないので仕方がない、おとなしくする。
「でも、本当にステキですわ」
「ウワサよりも、ずっとずっとステキですわ」
「アリス様、女神ですわ」
「本当に、女神様っていたのね」
小さいのがそんなことを囁いている。エルシィを崇めているのは我慢をする。誰にもエルシィに興味を持って欲しくない。例えそれが信仰だとしても。だが、エルシィだから崇め奉られることは仕方がないことは理解している。
「「アリス様と、ディレイガルド小公爵様、とってもお似合いですわ」」
ふむ。見る目はあるようだ。
私はエルシィに少しでも近付けるよう、日々研鑽を積んでいる。エルシィと似合いだと言うのはさすがに言い過ぎだとは思うが、小さいのにはまだ世の中が見えていないであろうから、とりあえず褒め言葉として受け取っておこう。
それにしても、エルシィを名前で呼ばせないためにはどうしたものか。孤児院のもエルシィの名を呼んでいた。昔からの付き合いだから我慢をしていたが、この小さいのはどうしてくれよう。さっさとエルシィを連れてこの場を離れたいが、子どもと交流をするエルシィの邪魔をすることは出来ない。孤児院でもそうだったが、極力私は存在感を消すようにしている。子どもに囲まれたエルシィは、聖母だ。神聖な儀式を誰が邪魔出来よう。
ふむ。色々考えている間に、エルシィと小さいのの距離が縮んでしまっている。エルシィが喜んでいることはとてもいい。だが、その喜びをもたらしたのが私ではなく、この小さいのだということが腹立たしいな。
そんなことを考えていると、ディアンのすぐ下の弟がやって来た。
「ディ、レイガルド、小公爵殿、夫人殿、私の、娘が、すみません」
貴様の娘か。
「「あっ、お父様あ」」
おい弟。早くこの小さいのを連れて行け。私には聖母エルシィの邪魔など出来ない。そう思って弟を見るが、あからさまに私から視線を逸らしている。役立たずが。
「殿下、ご機嫌麗しく。勝手ながら、トーナ姫様とトゥーラ姫様にご挨拶をさせていただいておりました」
チッ。エルシィに声をかけさせてしまった。
「あ、ああ、迷惑をかけました。ナディ、ラディ、こちらへおいで。ディレイガルド小公爵様方にご迷惑をかけてはいけないよ」
もうかかっている。わかっているならさっさと去れ。
「「いやあ。アリス様ともっと一緒にいたいぃ」」
私の方が一緒にいたい。そろそろ口を開いてもいいだろうか。エルシィの邪魔にならないだろうか。ああ、弟が話をしているのだ。もういいだろう。そう思ったら。
「夜会が始まる。お二人が遅れてしまうよ、ナディ、ラディ。困らせたいわけではないだろう?」
弟の言葉に、小さいのはエルシィの手を握り締めて見上げた。エルシィが優しく微笑んでいる。天使か。女神か。その微笑みを私にくれ。見惚れて話を切るタイミングを逃した。やはり小さいのは油断ならん。小さいだけでエルシィの庇護対象だからな。舌打ちを堪えていると、小さいのが私を見た。
「ディレイガルド小公爵様、次はいつアリス様といらっしゃいますか?」
「ディレイガルド小公爵様とご一緒でしたら、アリス様と遊んでもいいですか?」
エルシィに懐いているのは心の底から気に入らないが、エルシィは子どもが好きだから非常に納得出来かねるが仕方がないと思うことにする。まあこの小さいのは、幼いながらも立ち位置というものを理解しているようだ。エルシィとお似合いと言われた礼くらいはしてもいい。“次”と言っていることから、一度だけの許可を求めていると言うことか。私も一緒ならという確認を自らしていることは、評価に値する。何よりも、エルシィが嬉しそうだ。エルシィを喜ばせるのはああ、これは本当に堂々巡りだ。だがやはりエルシィが喜ぶのならば。
「ああ」
「「わあああ!ありがとうございます、ディレイガルド小公爵様。アリス様、次に登城したとき、ご本を読んでくださいませ」」
小さいのが向かい合わせで互いの両手を握り締め、嬉しそうに笑い合っている姿に、エルシィも嬉しそうに微笑んでいる。
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小さいのから解放されると、エルシィが堪らなく愛らしい笑顔を向けてくれた。
「わたくしの気持ちを優先させてくださって、ありがとうございます、エル様」
その言葉だけで、私は満たされる。
愛しく唇を重ねる。
ああ、やはり、閉じ込めておきたい、アリス。
*本編につづく*
エル様の葛藤でした。
引き続き本編をお楽しみください。
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