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エリアストとアリスの形編

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 「アリス、私たちに、子どもを、授けて、くれないだろうか」
 エリアストがそう言ったのは、アリスが二十一歳、エリアストが二十三歳の誕生日の夜。子どもの話をした、三年以上経ってからの出来事だった。

 成人を迎えた貴族は、誕生日には盛大なパーティーを開く。
 しかし、ディレイガルドは少々違う。現当主夫妻は気が向いたときにしか開かないし、嫡男エリアストは騒がしいことを嫌うので、開いたことはない。今後アリスが何かを言えば開くかもしれないが、今のところ、ない。アリスは、ファナトラタ家を交えた食事会を希望するのみ。
 今年もまたエリアストの誕生日は、家族のみで祝った。
 「エル様、お誕生日、おめでとうございます」
 家族での祝いが終わり、入浴なども済ませて眠るための準備をすべて調えたエリアストとアリス。部屋で二人きりになると開口一番、アリスはもう一度エリアストにそう告げた。そしてそっと、エリアストに寄り添うように抱き締める。
 「ああ、ああ、ありがとう、エルシィ。ありがとう」
 エリアストも、愛しく抱き締めた。
 エリアストは、アリスと出会って初めて誕生日の意味を知った。そして、自分が生まれたことに、自分を生んでくれた両親に、感謝をした。

 生まれていなかったら、ここまでの喜びを知らなかった。
 生まれていなかったら、こんなにも幸せになれなかった。
 生まれていなかったら、これほど愛する存在を知らなかった。

 生まれてきたから、アリスに、出会えた。

 「アリス、アリス。伝えたいことが、ある」
 アリスをソファーに座らせ、両手を取ってその前に膝をつく。アリスを見上げるように見つめる。美しい黎明の瞳が、柔らかく見つめている。
 「アリスに出会うまで、誕生日が、特別な日だと、知らなかった」
 「はい」
 ただ消化するだけの日々。誕生日だって、何が祝い事なのかわからなかった。
 「アリスと出会って、この世に生を受けた、特別な日だと知った」
 「はい」
 真っ直ぐにアリスを見つめる。
 「だが、それでも、きちんと理解をしていなかった」
 アリスの目が、微かに潤んでいる。これから何の話をするのか、察したのだろう。
 「いや、今でも、きちんと理解しているわけではないのだが」
 少し困ったような顔をして、また、真っ直ぐにアリスを見つめる。
 「うまく言えないけれど、生まれるということの意味が、少しだけ、わかった」
 アリスは、許してくれた。
 どうしようもなくアリスでいっぱいの自分を、それでいい、と微笑んでくれた。
 だから、こんなにも早く決心出来たのだ。
 「アリス、私たちに、子どもを、授けて、くれないだろうか」

 死ぬときは、一緒に。

 アリスが、それを許してくれたのだ。
 生と死と。
 アリスの手が、ギュッとエリアストの手を握る。
 夜明け色の瞳が、涙に濡れた。



*つづく*
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