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レイガード新王即位編
最終話
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「ふふ」
元々の目的地であるガゼボに着くと、アリスから笑い声が漏れた。
「どうした、エルシィ」
寄り添って座ると、アリスはエリアストを見上げて少し、頬を染めた。
「国王陛下を、使ってしまいましたわ」
「使う?ああ、そういうことか、エルシィ」
アリスの言わんとすることを理解し、エリアストはアリスを抱き締めた。
「嬉しい、エルシィ。私と同じ気持ちでいてくれることが、幸せ過ぎる。どうしたらいいかわからない、エルシィ」
あまりの幸せに、エリアストは夢中でアリスを抱き締めた。
早くふたりきりになりたかった。
言外に、そう言われていると理解した。
「エル様、エル様。どうしましょう。わたくし、どんどん欲が出て来てしまうのです」
アリスが俯きながら告白をする。
「エル様との時間を邪魔されたくないと、そのためであれば、陛下を利用することさえ躊躇わない」
そこまで言って、こんなに我儘になってしまった自分に、エリアストが呆れてしまわないだろうかと不安になる。
エリアストのアリスに対する防衛本能は、恐ろしく過剰だ。それなのに、大変な目に遭った四人を心配することもなく、ただ自分の欲を口にする自分を、冷たい人間だと感じてしまわないだろうかと、アリスは不安になる。
過剰な行為をしたのはエリアストであり、その行為を見たアリスの反応に思うことがあるなど言語道断、何より絶対にあり得ないのだが、アリス自身が自分の気持ちに戸惑っているせいだろう。
アリスがエリアスト以外への興味をなくしてくれることは、エリアストにとって願ってもないことなのだが、そこまで頭が追いつかない。
「こんなわたくしを、エル様が呆れんっ」
アリスの言葉は最後まで言わせてもらえなかった。
少し強引に顎を捉えられ上向かされると、熱い舌が口内にねじ込まれた。時々、こういった余裕のないくちづけをされることがある。こういうくちづけは、あまりの熱さにいつも眩暈がする。
「私の首に両腕を回すんだ、アリス」
互いの唇を銀の糸で繋ぎながら、エリアストは囁く。そしてすぐにまた唇を塞いだ。アリスは懸命に両手を伸ばし、エリアストの首にしがみつく。エリアストはそのままアリスを抱き上げると、あろうことか、唇を重ねたまま歩き出した。だが、それを気にする余裕がアリスにはない。王城とは反対方向に歩き、どこをどう歩いたのか、気付けば馬車に乗っている。唇は、離れない。
いつの間にか、アリスはふたりの寝室のベッドに横たえられていた。ようやく離れたエリアストは、獰猛な瞳でアリスを見下ろしている。
「アリス」
するりと頬を撫でられると、アリスはゾクリと背を震わせた。
エリアストはアリスに覆い被さると、耳元に吐息と共に囁く。
「すまない。今夜は、加減が出来そうもない、アリス」
熱い舌が、アリスの耳を犯した。
………
……
…
限界を迎えた最愛が、まだ全身を淡く桃色に染めたまま、深く眠っている。髪を撫でても身動ぎ一つしない。随分無理をさせた自覚はある。
起こしてしまわないようそっと抱き上げ、湯殿へ向かう。夜目が利くので明かりは点けず、湯を張りながらアリスの体を清める。
湯に浸かりながら、眠りから目覚めないアリスを抱き締める。
苦しい。
エリアストの頬には、次から次へと涙が零れている。
幸せで、苦しい。
「アリス」
また、新たな涙が零れた。
*レイガード新王即位編おしまい*
これにてレイガード新王即位編終了です。
この後番外編を一話挟んで、最終章エリアストとアリスの形編となります。
妊娠・出産の話がありますので、苦手な方はお控えください。
最終章となりますが、引き続きお楽しみいただけるようがんばります。
ありがとうございました。
元々の目的地であるガゼボに着くと、アリスから笑い声が漏れた。
「どうした、エルシィ」
寄り添って座ると、アリスはエリアストを見上げて少し、頬を染めた。
「国王陛下を、使ってしまいましたわ」
「使う?ああ、そういうことか、エルシィ」
アリスの言わんとすることを理解し、エリアストはアリスを抱き締めた。
「嬉しい、エルシィ。私と同じ気持ちでいてくれることが、幸せ過ぎる。どうしたらいいかわからない、エルシィ」
あまりの幸せに、エリアストは夢中でアリスを抱き締めた。
早くふたりきりになりたかった。
言外に、そう言われていると理解した。
「エル様、エル様。どうしましょう。わたくし、どんどん欲が出て来てしまうのです」
アリスが俯きながら告白をする。
「エル様との時間を邪魔されたくないと、そのためであれば、陛下を利用することさえ躊躇わない」
そこまで言って、こんなに我儘になってしまった自分に、エリアストが呆れてしまわないだろうかと不安になる。
エリアストのアリスに対する防衛本能は、恐ろしく過剰だ。それなのに、大変な目に遭った四人を心配することもなく、ただ自分の欲を口にする自分を、冷たい人間だと感じてしまわないだろうかと、アリスは不安になる。
過剰な行為をしたのはエリアストであり、その行為を見たアリスの反応に思うことがあるなど言語道断、何より絶対にあり得ないのだが、アリス自身が自分の気持ちに戸惑っているせいだろう。
アリスがエリアスト以外への興味をなくしてくれることは、エリアストにとって願ってもないことなのだが、そこまで頭が追いつかない。
「こんなわたくしを、エル様が呆れんっ」
アリスの言葉は最後まで言わせてもらえなかった。
少し強引に顎を捉えられ上向かされると、熱い舌が口内にねじ込まれた。時々、こういった余裕のないくちづけをされることがある。こういうくちづけは、あまりの熱さにいつも眩暈がする。
「私の首に両腕を回すんだ、アリス」
互いの唇を銀の糸で繋ぎながら、エリアストは囁く。そしてすぐにまた唇を塞いだ。アリスは懸命に両手を伸ばし、エリアストの首にしがみつく。エリアストはそのままアリスを抱き上げると、あろうことか、唇を重ねたまま歩き出した。だが、それを気にする余裕がアリスにはない。王城とは反対方向に歩き、どこをどう歩いたのか、気付けば馬車に乗っている。唇は、離れない。
いつの間にか、アリスはふたりの寝室のベッドに横たえられていた。ようやく離れたエリアストは、獰猛な瞳でアリスを見下ろしている。
「アリス」
するりと頬を撫でられると、アリスはゾクリと背を震わせた。
エリアストはアリスに覆い被さると、耳元に吐息と共に囁く。
「すまない。今夜は、加減が出来そうもない、アリス」
熱い舌が、アリスの耳を犯した。
………
……
…
限界を迎えた最愛が、まだ全身を淡く桃色に染めたまま、深く眠っている。髪を撫でても身動ぎ一つしない。随分無理をさせた自覚はある。
起こしてしまわないようそっと抱き上げ、湯殿へ向かう。夜目が利くので明かりは点けず、湯を張りながらアリスの体を清める。
湯に浸かりながら、眠りから目覚めないアリスを抱き締める。
苦しい。
エリアストの頬には、次から次へと涙が零れている。
幸せで、苦しい。
「アリス」
また、新たな涙が零れた。
*レイガード新王即位編おしまい*
これにてレイガード新王即位編終了です。
この後番外編を一話挟んで、最終章エリアストとアリスの形編となります。
妊娠・出産の話がありますので、苦手な方はお控えください。
最終章となりますが、引き続きお楽しみいただけるようがんばります。
ありがとうございました。
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