美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛

らがまふぃん

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レイガード新王即位編

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 「いや、見た目の話ではないだろう」
 少し焦ったドゥネアツェルトがそう言うと、
 「何にしても、だ。化け物に変わりはない。そこに直れ。その首ね落としてくれる」
 右手を差し出すと、エリアストの護衛がその手に剣を渡す。
 護衛!余計なことをするんじゃない!
 ドゥネアツェルトはさらに焦る。
 「待て待て待て!褒め言葉だ!褒めているのだ!」
 「早くしろ」
 聞く耳を持たない。
 たすけて。
 誰かに助けを求めるため、振り返ってすがるような目を向ける。しかし、すべての人々は、ぎゅん、と音がする勢いで、あからさまに目を逸らした。
 いやあああああっ!
 心で叫びながら涙目になるドゥネアツェルト。
 そこに女神が降臨した。
 「ふふ。旦那様、ご冗談も程々になさいませ。殿下が本気にされますよ」
 「ああ。一厘方いちりんがた冗談だ」
 アリスの言葉にエリアストは頷き、ドゥネアツェルトにそんなことを言った。
 一厘。九割九分九厘本気じゃん!それって冗談になるの?それこそ冗談だよね?

………
……


 「ねぇねぇ、カルセド殿」
 野性味のある美丈夫が、しょんぼりと肩を落としてカルセドの側にやって来た。
 「どうされました、ドゥネアツェルト殿下」
 第三王子カルセドは、そっと近くの椅子を勧める。カルセドの周りにいた者たちは、気を遣って二人から離れた。滅多にお目にかかれないシュヴァルタイン帝国の皇族と、是非とも交流したい、と思っている者はもちろん大勢いる。だが、空気の読めない者は、絶対に相手にされない。それをわかっているので、みんな大人しく引き下がる。今ではない、と。
 「ディレイガルドの息子と普通に会話がしたいのにさ、出来ないんだよ」
 何て無謀な挑戦をしているんだ、この人は。そして何故子どものような話し方になっているのだろう。
 「父上や兄上たちからも、無理はしなくていいけど、ディレイガルドと仲良く出来たらいいねって言われたんだけど」
 そんなこと、他国の、しかもディレイガルドがいる本家レイガードの人間にぶっちゃけてはいけないのではないだろうか。
 「政治的なそういうこと関係なしに、仲良くなりたいんだよ」
 「政治的そういうことではなく仲良くですか。事情をお伺いしても?」
 「カッコイイ」
 なんて?
 「怖いけど、すごくカッコイイ。初めて見た、あんなにもカッコイイ人。一目惚れ」
 「あー、なるほど?」
 何と返せばいいのだ。
 「もちろん恋愛の意味ではないよ。見た目もそうだし酷薄なところもそう。すごく私の憧れている理想像そのもの」
 ワイルド系な彼とは見た目は確かに真逆だ。イケメンに違いはないが。酷薄になりたいの?まあ、なろうと思って冷たくなれるわけではないよね。持って生まれたものもあることだし。彼はどちらかというと、見た目ワイルドだけど、中身わんこ系だな。そんな彼の理想が服を着て歩いていると。
 こうしてとりあえずカルセドは、恋愛相談のような話をしばらく、だいぶ、相当、黙って聞くことになった。それが終わる頃には、ドゥネアツェルトから親友扱いとなっていたのは、なんとも迷わk、んん、ありがたい話であった。

 こうしてカルセドとドゥネアツェルトが親交を深めている頃。

 バシャン
 重いものが、水に落ちる音がした。
 「あ、あ、ぁぅ」
 その声は、噴水の中にいる女のもの。
 声にならない声を出す。カチカチと、歯の根が合わないほど震えているのは、全身ずぶ濡れのせいではない。目の前の恐怖に、怯えている。女と一緒にいた男は噴水の側で倒れて気を失い、もう一人の女もその側で全身の痛みに呻いている。もう一人の男は気を失って、噴水の中で仰向けに浮かんでいた。
 女は目の前の恐怖に竦んで動けない。
 こんなはずではなかった。
 彼を怒らせるなんて、本当にそんなつもりではなかったのだ。
 「誰にそんな目を向けている」
 月に照らされ、冴え冴えとした殺意を纏うエリアストがいた。



*つづく*

 九割九分九厘本気じゃん!それって冗談になるの?それこそ冗談だよね?の部分ですが、一厘しかないけど冗談だ、ということを冗談にすると、本気になってしまいますよ、ドゥネアツェルト様。
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