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レイガード新王即位編
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レイガード王国新王即位の祝いに、各国から要人が訪れる。
レイガード王国は、中小国に分類される国であったが、シュヴァルタイン帝国が、最も重きを置いている国。今回、新王即位の祝いに出席したのは、シュヴァルタイン帝国第二十八代皇帝リッヒツェルト・クローネル・ライン・シュヴァルタイン。
五十を迎えようという年齢だというのに、軍隊に身を置く、それも上位の者たちと比肩する体躯に、覇者の気を纏い威風堂々、若々しい。燃えるような赤い髪に、金色の目、琥珀色の肌、どれもが太陽を連想させる鮮烈な、まさに覇王。
その付き添いとして今回訪れたのは、第四王子ドゥネアツェルト。輝く黄金の髪に、琥珀色の肌。サファイアのように青い瞳は切れ長で美しい。
二人の登場に、全員が畏敬の念と共に感嘆の吐息を漏らす。
昼間の荘厳な衣装とは異なり、贅をこらした煌びやかな衣装は、二人の魅力を最大限に引き出している。滅多にお目にかかれない人物たちに、誰もの視線が釘付けとなった。
「ああ、そなたがディレイガルド殿の秘宝か。会えて光栄だ」
ドゥネアツェルトがエリアストとアリスの下へ訪れた。
通常、帝国の人間から近付くことはないのだが、ドゥネアツェルトはエリアストと、少しでも長く会話がしたかった。エリアストを待っていても一向に挨拶に来ない故、帝王と視線を交わすと帝王が頷いたので、行動に移した。
エリアストと挨拶を交わした後、野性味のある笑みを見せたドゥネアツェルトは、アリスの手に挨拶のキスをしようと自身の手を伸ばす。
ベヂンッ
ドゥネアツェルトの手が叩かれた。いや、叩かれた、と言うには音が聞き慣れない。手を見る。手袋の上から見てもわかる。腫れている。折れて、は、いないようだ。次にドゥネアツェルトは、エリアストを見る。絶対零度の眼差しがある。
そうでした。逆鱗に文字通り触れたら命がいくつあっても足りませんでしたね。結婚して二年経つって言うけど、まだまだ新婚さんだもんね。すみません。
「えーと、まあ、あれだ。な。うん」
よろしく、と言っても、何をよろしくするつもりだ、と切り捨てられそう。下手なことを言えない。怖い。手が痛い。
ドゥネアツェルトは少しだけ涙目になりながら、腫れた手をそっと後ろに庇う。
「お初にお目にかかります。エリアスト・カーサ・ディレイガルドが妻、アリスにございます。本日は、ようこそおいでくださいました」
美しいお辞儀と共に発された声に、ドゥネアツェルトは驚く。噂では聞いていた。心に響く、深く美しい声であると。
「本当に何と美しい。まるでセイレーンの歌声のようではないか」
ドゥネアツェルトが感嘆の息と共に、心からの称賛を込めてそう言った。
の、だが。
「我が妻を化け物に例えるとは、余程死に急いでいると見える」
ドゥネアツェルトはエリアストを見た。エリアストの極寒の眼差しがそこにある。少しの間、見つめ合った。
*つづく*
レイガード王国は、中小国に分類される国であったが、シュヴァルタイン帝国が、最も重きを置いている国。今回、新王即位の祝いに出席したのは、シュヴァルタイン帝国第二十八代皇帝リッヒツェルト・クローネル・ライン・シュヴァルタイン。
五十を迎えようという年齢だというのに、軍隊に身を置く、それも上位の者たちと比肩する体躯に、覇者の気を纏い威風堂々、若々しい。燃えるような赤い髪に、金色の目、琥珀色の肌、どれもが太陽を連想させる鮮烈な、まさに覇王。
その付き添いとして今回訪れたのは、第四王子ドゥネアツェルト。輝く黄金の髪に、琥珀色の肌。サファイアのように青い瞳は切れ長で美しい。
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「ああ、そなたがディレイガルド殿の秘宝か。会えて光栄だ」
ドゥネアツェルトがエリアストとアリスの下へ訪れた。
通常、帝国の人間から近付くことはないのだが、ドゥネアツェルトはエリアストと、少しでも長く会話がしたかった。エリアストを待っていても一向に挨拶に来ない故、帝王と視線を交わすと帝王が頷いたので、行動に移した。
エリアストと挨拶を交わした後、野性味のある笑みを見せたドゥネアツェルトは、アリスの手に挨拶のキスをしようと自身の手を伸ばす。
ベヂンッ
ドゥネアツェルトの手が叩かれた。いや、叩かれた、と言うには音が聞き慣れない。手を見る。手袋の上から見てもわかる。腫れている。折れて、は、いないようだ。次にドゥネアツェルトは、エリアストを見る。絶対零度の眼差しがある。
そうでした。逆鱗に文字通り触れたら命がいくつあっても足りませんでしたね。結婚して二年経つって言うけど、まだまだ新婚さんだもんね。すみません。
「えーと、まあ、あれだ。な。うん」
よろしく、と言っても、何をよろしくするつもりだ、と切り捨てられそう。下手なことを言えない。怖い。手が痛い。
ドゥネアツェルトは少しだけ涙目になりながら、腫れた手をそっと後ろに庇う。
「お初にお目にかかります。エリアスト・カーサ・ディレイガルドが妻、アリスにございます。本日は、ようこそおいでくださいました」
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ドゥネアツェルトが感嘆の息と共に、心からの称賛を込めてそう言った。
の、だが。
「我が妻を化け物に例えるとは、余程死に急いでいると見える」
ドゥネアツェルトはエリアストを見た。エリアストの極寒の眼差しがそこにある。少しの間、見つめ合った。
*つづく*
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