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レイガード新王即位編
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メラルディの子どもは双子の娘だった。より、サーフィアの出来事が思い起こされてしまう。
「だが私のところは三人とも男とは言え、それはそれで恐ろしいよ」
アリスは見た目だって美しい。見た目に関して言えば上には上がいるが、アリスは内面も美しく、その心を現わしたかのように、素晴らしく美しい声の持ち主でもあるのだ。万が一にもアリスに懸想したらと思うと、命がいくつあっても足りない。幸い上二人、十歳ともうすぐ九歳の息子はきちんとディレイガルドの危険性を理解し、近付かないよう気を付けてくれている。
二人は、一昨年、アリスのデビュタントの前に起きた一件を思い浮かべ、揃って溜め息を吐いた。
生きている限り、ディレイガルドの脅威からは逃れられない。
それなのに。
………
……
…
えっと。
何でこうなったのかな。
メラルディの視線の先には、エリアスト・カーサ・ディレイガルドとその逆鱗、アリス・カーサ・ディレイガルド。に、抱きつく、愛娘。
なんだろう。
悲しくも嬉しくもないのに、ふふ。
涙で前が見えないなあ。
*~*~*~*~*
王太子ディアンの三男イアムと、第二王子メラルディの双子姫トーナとトゥーラ。初めてディレイガルドと同じ時間を共有したが、貴族たちに正式に挨拶をするのは夜会に参加出来る十五歳になってから。何事もなく式典が終わり、それぞれ自室に戻る。
「「イアムちゃん、今日はわたくしたちをエスコートしてくれてありがとう」」
「ちゃん付けで呼ぶな。そのくらいお安いご用だ」
「「また明日、遊びましょうね、イアムちゃん」」
「ちゃん付けで呼ぶな。何して遊ぶか考えておこう」
三人は手を振って別れると、それぞれの部屋に入っていった。
双子姫の部屋は、部屋同士で行き来が出来る。着替えを終えると、双子姫は仲良く手を繋いで、トーナの部屋のソファーに座る。
「ナディ」
トゥーラがトーナを呼ぶと、トーナはわかっているというように頷く。
「ディレイガルドこうりゃくには、情報が大事よ、ラディ」
トゥーラも頷く。
「決して近付かないように」
「遠くからどんな人物か見極める」
双子姫の見た目は、とてもおっとりしている。
それ故、油断を誘うのだ。
………
……
…
昼間の式典とは一転、夜会の煌びやかな衣装を身につけた貴族が、続々と集まり始めている。
次々と馬車から降りて、会場へ向かう貴族たちを見つめる二対の目。植え込みに隠れてジッと観察を続けている、二つの小さな人影。ほぼすべての貴族たちが会場入りしたのだろう。馬車を見なくなってしばし。小さな人影が、見落としたのだろうかと不安になった頃。
馬車の音が近付いて来た。
小さな人影は、緊張に身を固くする。
止まった馬車は、自分たちでさえ立派だと思えるほどの馬車。家紋を見て、間違いないと、小さな人影は頷く。王家以外で、最初に徹底的に叩き込まれる家紋が、ディレイガルド家の家紋だ。そこから降りてきた人物に、まあ、と弾んだ声が上がる。
「「本当に、とてもキレイね」」
とても穏やかそうな男性と、少し気の強そうな、美しい女性。現当主ライリアスト・カーサ・ディレイガルドと、妻アイリッシュに、二人は頬を染めた。当主夫妻が二人を見た気がしたが、すぐに通り過ぎたので、気のせいだと思う。
そして、二台目の馬車から降りてきた人物に、二人は息をのむ。
恐ろしく美しい、とは聞いていた。昼間に遠目で見た時も、初めて見るが、すぐにディレイガルドだとわかった。それでも、これほど美しい存在があるのか、と二人は震える。
そして。
ディレイガルドに、エスコートされた女性が、お礼を述べてその手を取った瞬間。
「「女神だわ」」
そう言って、小さな人影、双子姫は、無意識に植え込みから手を繋いだまま飛び出していた。
*つづく*
「だが私のところは三人とも男とは言え、それはそれで恐ろしいよ」
アリスは見た目だって美しい。見た目に関して言えば上には上がいるが、アリスは内面も美しく、その心を現わしたかのように、素晴らしく美しい声の持ち主でもあるのだ。万が一にもアリスに懸想したらと思うと、命がいくつあっても足りない。幸い上二人、十歳ともうすぐ九歳の息子はきちんとディレイガルドの危険性を理解し、近付かないよう気を付けてくれている。
二人は、一昨年、アリスのデビュタントの前に起きた一件を思い浮かべ、揃って溜め息を吐いた。
生きている限り、ディレイガルドの脅威からは逃れられない。
それなのに。
………
……
…
えっと。
何でこうなったのかな。
メラルディの視線の先には、エリアスト・カーサ・ディレイガルドとその逆鱗、アリス・カーサ・ディレイガルド。に、抱きつく、愛娘。
なんだろう。
悲しくも嬉しくもないのに、ふふ。
涙で前が見えないなあ。
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「「イアムちゃん、今日はわたくしたちをエスコートしてくれてありがとう」」
「ちゃん付けで呼ぶな。そのくらいお安いご用だ」
「「また明日、遊びましょうね、イアムちゃん」」
「ちゃん付けで呼ぶな。何して遊ぶか考えておこう」
三人は手を振って別れると、それぞれの部屋に入っていった。
双子姫の部屋は、部屋同士で行き来が出来る。着替えを終えると、双子姫は仲良く手を繋いで、トーナの部屋のソファーに座る。
「ナディ」
トゥーラがトーナを呼ぶと、トーナはわかっているというように頷く。
「ディレイガルドこうりゃくには、情報が大事よ、ラディ」
トゥーラも頷く。
「決して近付かないように」
「遠くからどんな人物か見極める」
双子姫の見た目は、とてもおっとりしている。
それ故、油断を誘うのだ。
………
……
…
昼間の式典とは一転、夜会の煌びやかな衣装を身につけた貴族が、続々と集まり始めている。
次々と馬車から降りて、会場へ向かう貴族たちを見つめる二対の目。植え込みに隠れてジッと観察を続けている、二つの小さな人影。ほぼすべての貴族たちが会場入りしたのだろう。馬車を見なくなってしばし。小さな人影が、見落としたのだろうかと不安になった頃。
馬車の音が近付いて来た。
小さな人影は、緊張に身を固くする。
止まった馬車は、自分たちでさえ立派だと思えるほどの馬車。家紋を見て、間違いないと、小さな人影は頷く。王家以外で、最初に徹底的に叩き込まれる家紋が、ディレイガルド家の家紋だ。そこから降りてきた人物に、まあ、と弾んだ声が上がる。
「「本当に、とてもキレイね」」
とても穏やかそうな男性と、少し気の強そうな、美しい女性。現当主ライリアスト・カーサ・ディレイガルドと、妻アイリッシュに、二人は頬を染めた。当主夫妻が二人を見た気がしたが、すぐに通り過ぎたので、気のせいだと思う。
そして、二台目の馬車から降りてきた人物に、二人は息をのむ。
恐ろしく美しい、とは聞いていた。昼間に遠目で見た時も、初めて見るが、すぐにディレイガルドだとわかった。それでも、これほど美しい存在があるのか、と二人は震える。
そして。
ディレイガルドに、エスコートされた女性が、お礼を述べてその手を取った瞬間。
「「女神だわ」」
そう言って、小さな人影、双子姫は、無意識に植え込みから手を繋いだまま飛び出していた。
*つづく*
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