美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛

らがまふぃん

文字の大きさ
上 下
28 / 72
レイガード新王即位編

しおりを挟む
 メラルディの子どもは双子の娘だった。より、サーフィアの出来事が思い起こされてしまう。
 「だが私のところは三人とも男とは言え、それはそれで恐ろしいよ」
 アリスは見た目だって美しい。見た目に関して言えば上には上がいるが、アリスは内面も美しく、その心を現わしたかのように、素晴らしく美しい声の持ち主でもあるのだ。万が一にもアリスに懸想したらと思うと、命がいくつあっても足りない。幸い上二人、十歳ともうすぐ九歳の息子はきちんとディレイガルドの危険性を理解し、近付かないよう気を付けてくれている。
 二人は、一昨年、アリスのデビュタントの前に起きた一件を思い浮かべ、揃って溜め息をいた。
 生きている限り、ディレイガルドの脅威からは逃れられない。
 それなのに。

………
……


 えっと。
 何でこうなったのかな。
 メラルディの視線の先には、エリアスト・カーサ・ディレイガルドとその逆鱗、アリス・カーサ・ディレイガルド。に、抱きつく、愛娘。
 なんだろう。
 悲しくも嬉しくもないのに、ふふ。
 涙で前が見えないなあ。


*~*~*~*~*


 王太子ディアンの三男イアムと、第二王子メラルディの双子姫トーナとトゥーラ。初めてディレイガルドと同じ時間を共有したが、貴族たちに正式に挨拶をするのは夜会に参加出来る十五歳になってから。何事もなく式典が終わり、それぞれ自室に戻る。
 「「イアムちゃん、今日はわたくしたちをエスコートしてくれてありがとう」」
 「ちゃん付けで呼ぶな。そのくらいお安いご用だ」
 「「また明日、遊びましょうね、イアムちゃん」」
 「ちゃん付けで呼ぶな。何して遊ぶか考えておこう」
 三人は手を振って別れると、それぞれの部屋に入っていった。
 双子姫の部屋は、部屋同士で行き来が出来る。着替えを終えると、双子姫は仲良く手を繋いで、トーナの部屋のソファーに座る。
 「ナディ」
 トゥーラがトーナを呼ぶと、トーナはわかっているというように頷く。
 「ディレイガルドこうりゃくには、情報が大事よ、ラディ」
 トゥーラも頷く。
 「決して近付かないように」
 「遠くからどんな人物か見極める」
 双子姫の見た目は、とてもおっとりしている。
 それ故、油断を誘うのだ。

………
……


 昼間の式典とは一転、夜会の煌びやかな衣装を身につけた貴族が、続々と集まり始めている。
 次々と馬車から降りて、会場へ向かう貴族たちを見つめる二対の目。植え込みに隠れてジッと観察を続けている、二つの小さな人影。ほぼすべての貴族たちが会場入りしたのだろう。馬車を見なくなってしばし。小さな人影が、見落としたのだろうかと不安になった頃。
 馬車の音が近付いて来た。
 小さな人影は、緊張に身を固くする。
 止まった馬車は、自分たちでさえ立派だと思えるほどの馬車。家紋を見て、間違いないと、小さな人影は頷く。王家以外で、最初に徹底的に叩き込まれる家紋が、ディレイガルド家の家紋だ。そこから降りてきた人物に、まあ、と弾んだ声が上がる。
 「「本当に、とてもキレイね」」
 とても穏やかそうな男性と、少し気の強そうな、美しい女性。現当主ライリアスト・カーサ・ディレイガルドと、妻アイリッシュに、二人は頬を染めた。当主夫妻が二人を見た気がしたが、すぐに通り過ぎたので、気のせいだと思う。
 そして、二台目の馬車から降りてきた人物に、二人は息をのむ。
 恐ろしく美しい、とは聞いていた。昼間に遠目で見た時も、初めて見るが、すぐにディレイガルドだとわかった。それでも、これほど美しい存在があるのか、と二人は震える。
 そして。
 ディレイガルドに、エスコートされた女性が、お礼を述べてその手を取った瞬間。
 「「女神だわ」」
 そう言って、小さな人影、双子姫は、無意識に植え込みから手を繋いだまま飛び出していた。



*つづく*
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

はずれのわたしで、ごめんなさい。

ふまさ
恋愛
 姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。  婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。  こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。  そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。

番は君なんだと言われ王宮で溺愛されています

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私ミーシャ・ラクリマ男爵令嬢は、家の借金の為コッソリと王宮でメイドとして働いています。基本は王宮内のお掃除ですが、人手が必要な時には色々な所へ行きお手伝いします。そんな中私を番だと言う人が現れた。えっ、あなたって!? 貧乏令嬢が番と幸せになるまでのすれ違いを書いていきます。 愛の花第2弾です。前の話を読んでいなくても、単体のお話として読んで頂けます。

氷の公爵と契約結婚したら、いつの間にか溺愛されていました 〜冷徹な夫が“絶対に手放さない”と言って離してくれません〜

ゆる
恋愛
「この結婚に愛は不要だ」 ——そう言い放ったのは、王国随一の冷徹な公爵・ヴァレリウス・フォン・アイゼンベルク。 辺境の子爵家の娘アドリアナ・ローランは、家の存続のために彼との政略結婚を強いられる。 冷たく距離を取る夫との結婚生活は、まるで契約のようなもの。 ——そう思っていたのに、いつの間にか状況は一変!? そんな中、アドリアナの実家ローラン子爵領で疫病が発生! 夫に頼るわけにはいかない——そう決意して故郷へ向かうが、そこには陰謀を巡らす貴族たちの罠が待ち受けていた……! 「お前は俺の妻だ。だから、もう一人で背負うな」 冷たかったはずの夫は、まるで別人のように甘くなり、時には公然と独占欲を隠さない!? 愛などない契約結婚だったはずが、いつの間にか溺愛されていました——! -

【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!

高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。 7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。 だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。 成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。 そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る 【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】

処理中です...