美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛

らがまふぃん

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レイガード新王即位編

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 「子どもだからと容赦してくれるとは思えないですね。接触しないとは思いますが」
 第二王子メラルディが眉間に皺を寄せながら、兄であり王太子であるディアンと、サロンでそんな話をした。
 レイガード王国の王族は、六歳になると昼の公式の場に姿を見せる。十五になれば、夜会にも参加をするようになる。ディアンの末の息子とメラルディの双子の娘は現在六歳、もうすぐ七歳になる。昨年、第三王子カルセドの生誕祭で初めて公式の場に姿を見せ、ディアンの王太子として最後の生誕祭に続き、今回はディアンの即位式が控えている。生誕祭の昼の部は、平民に向けたものだ。だが、レイガード国の王がディアンへと交代する、新国王誕生の式典は、昼も貴族が参列する。二人の苦悩は、子どもたちが緊張で失敗をしないだろうか、などと言う可愛いものではない。
 レイガード王国筆頭公爵家ディレイガルド。
 その存在が、二人を悩ませていた。正確には、筆頭公爵家嫡男エリアスト・カーサ・ディレイガルドの存在が、である。
 ディレイガルドは、レイガード王国最古の貴族。建国当初から、実に八百年以上貴族として存続し、筆頭となって五百年以上というとんでもない歴史の貴族なのだ。だが、考え方が古く厳格、ということはない。むしろゆるい。歴代当主たちは、必ず国の要職に就いており、時には兼任する者もいたほど優秀な家系だ。それでも驕ることはなく、大抵のことに寛容であった。
 ただし。
 彼らには、必ず、逆鱗がある。
 この逆鱗に、決して触れてはならない。逆鱗だ。誰しも激しく感情を昂ぶらせるだろう。けれど、ディレイガルドの逆鱗は桁違い。下手をすると、国が滅ぶ。大袈裟ではない。逆鱗に触れた一族郎党根絶やしは当たり前。それに荷担した者も当然滅びの一択。
 およそ三年前に、王家がエリアスト・カーサ・ディレイガルドにやらかし、国が滅びかけたが、エリアストの妻であり、当時は婚約者であったアリスのお陰で事なきを得た。しかしこの出来事をきっかけに、王も王妃も側妃も大ダメージを受けたため、今年、ディアンへと王位が移る。
 代々ディレイガルドの逆鱗は、伴侶。これに何かあれば、やべぇことになる。プラスで、趣味嗜好を邪魔された時だ。これが厄介。趣味嗜好が何なのか、それを把握出来ないと、知らずに地雷を踏み抜いてしまう。
 さて、エリアストの場合。
 趣味嗜好が妻アリス。エリアストのすべてが、アリスに全フリしている。
 逆鱗がわかりやすくて良かったのだが、アリスに関するすべてに恐ろしいまでに神経を張り巡らせなくてはならない。名前を呼ぶだけでアウトだ。アリスの名を呼べるのは、家族のみ。
 昼に即位式、夜に祝賀会だが、昼の式典が問題だ。子どもたちがディレイガルドと同じ時間を過ごすのだ。子どもたちだけでディレイガルドに遭遇する確率は、ほぼない。だが、何が起こるかわからないことも事実。
 「常々子どもたちには言い聞かせているだろう?ディレイガルドの危険性は」
 ディアンの言葉に、メラルディは頷く。
 「もちろんです。サーフィアの二の舞は御免です。あんな恐ろしい思い、一度で充分ですよ」
 側妃の娘、サーフィア。歳の離れた義妹を、みんなが可愛がっていた。頭の出来は良くなかったが、知らないものを知らないと言えるその素直さに、みんなが癒されていた。愛すべきおバカさんだと思っていたが、とんでもない。害ある無能だと知った時には、王家存続の危機となっていた。
 「聞かせているだけでは何とも心許ないと言うのはわかる。メルの子どもは娘だ。より心配だろう」



*つづく*
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