美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛

らがまふぃん

文字の大きさ
上 下
23 / 72
夢幻の住人編

しおりを挟む
 「おまえのような悪魔に話すことなどない。天使に会わせるなら話してやらなくもない」
 夜会から三日後の昼、ようやく現れたエリアストに、男はそう言った。
 黒い扉の向こう側。ビゲッシュ伯爵家の四人が、壁から延びた鎖に四肢を拘束されていた。
 部屋は色々なものが置かれている。だが、雑然としているわけではない。それらは、その用途に相応しくそこにある。
 見る者が見れば、それらが何であるかすぐにわかるだろう。
 そう、ディレイガルド家専用、拷問部屋だ。
 「貴様次第だ」
 エリアストは感情のない声で男にそう言った。
 「僕と天使の出会いの話を、おまえのような悪魔に話すのはもったいないけど、天使と会うためだ。仕方がない。話してあげるよ」


 伯爵家の次男に生まれ、いつも兄と比較されてきた。パーティーや夜会に出ても、いつも嗤われ虐められ。おまえらのようなくだらない連中と口をきくことももったいないから話をしないだけだ。陰気だ、社交の出来ないヤツだと嗤われる謂われなどない。バカみたいに女の話や狩りの話ばかり。もっと建設的な話でもしてみろよ。そんなくだらない話しか出来ないくせに、僕をバカにしやがって。見てろよ。今におまえたちは指を咥えて羨ましがるようになるんだからな。
 ああ、今日の夜会も面倒だ。またくだらない連中に絡まれるんだ。
 そう思っていたら。
 僕をくだらない連中から隠すように、アリス様がアリス様の取り巻きを連れて僕の前に立ってくれたんだ。
 取り巻きたちと会話をするフリをして、僕に話しかけてきてくれていたんだ。
 大丈夫ですよ、素敵ですね、素晴らしいですわ。
 そう、何度も言ってくれた。
 とても飲みやすいですわね、こちらおいしいですよ、苦手なものではありませんか。
 そうやって自分の好みを教えつつ、僕の好みにまで配慮してくれて。そうしながら、ずっと僕を嫌な連中から守ってくれていたんだ。


 「さあ、話したぞ。どうだ。これでわかっただろう?天使の心がどこにあるのか」
 勝ち誇ったように笑みを浮かべる。伯爵家の三人はもう諦めている。自分たちの命を。
 「早く天使を連れて来いよ」
 エリアストは側に控える護衛に目配せをすると、護衛は頭を下げた。
 「おい!聞いているのか!話せば会わせると言っただろう!」
 エリアストは何も言わず去って行った。
 「ふざけるな!騙したな、この悪魔!天使を解放しろ!僕の元に連れて来い!おい!おい!」
 「黙れ」
 残っていた護衛が静かに口を開いた。
 「あるじは騙してなどいない」
 「はっ。悪魔の使い魔が。話せば天使に会わせると言ったのに」
 「言っていない」
 「天使に会わせるなら話すと言ったら、貴様次第だと言ったではないか!素直に話せば会わせる、と同義だ!」
 「おまえの言葉への返答ではない」
 意味がわからず男は眉をひそめた。
 「おまえの態度次第で今後の対応が変わる、と主はおまえに親切に忠告してやったのだ」
 おまえと会話をしたのではない、と護衛は言う。
 「はあっ?!騙したな!」
 尚も喚き散らす男に、護衛はひとつ溜め息をくと、その喉を締め上げた。
 「だから違うと言っている。おまえが勝手に勘違いをしたのだ」
 男が呻き声を上げるが、その手の力は緩むどころかますます強くなる。
 「主が主の奥方様に、おまえのようなヤツを視界に入れさせるはずがないだろう。同じ空間の空気すら吸わせるはずがない」
 男の顔は赤くなり、苦しさに喘ぐが、手が外れることはない。
 「主が手を下す価値すらない。その証拠にほら」
 男の口から泡が出始め、眼球は裏返る。伯爵たちは目を瞑る。その時を見ないように。
 「おまえの処理を護衛わたしに任せたのだ」
 ゴギン
 男の喉は潰れ、首の骨が折れた。
 男の目が開くことは、二度とない。



*最終話につづく*
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。 私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。 やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。 そう自由……自由になるはずだったのに…… ※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です ※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません ※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります

【完結】余命三年ですが、怖いと評判の宰相様と契約結婚します

佐倉えび
恋愛
断罪→偽装結婚(離婚)→契約結婚 不遇の人生を繰り返してきた令嬢の物語。 私はきっとまた、二十歳を越えられないーー  一周目、王立学園にて、第二王子ヴィヴィアン殿下の婚約者である公爵令嬢マイナに罪を被せたという、身に覚えのない罪で断罪され、修道院へ。  二周目、学園卒業後、夜会で助けてくれた公爵令息レイと結婚するも「あなたを愛することはない」と初夜を拒否された偽装結婚だった。後に離婚。  三周目、学園への入学は回避。しかし評判の悪い王太子の妾にされる。その後、下賜されることになったが、手渡された契約書を見て、契約結婚だと理解する。そうして、怖いと評判の宰相との結婚生活が始まったのだが――? *ムーンライトノベルズにも掲載

はずれのわたしで、ごめんなさい。

ふまさ
恋愛
 姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。  婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。  こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。  そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

【完結】記憶が戻ったら〜孤独な妻は英雄夫の変わらぬ溺愛に溶かされる〜

凛蓮月
恋愛
【完全完結しました。ご愛読頂きありがとうございます!】  公爵令嬢カトリーナ・オールディスは、王太子デーヴィドの婚約者であった。  だが、カトリーナを良く思っていなかったデーヴィドは真実の愛を見つけたと言って婚約破棄した上、カトリーナが最も嫌う醜悪伯爵──ディートリヒ・ランゲの元へ嫁げと命令した。  ディートリヒは『救国の英雄』として知られる王国騎士団副団長。だが、顔には数年前の戦で負った大きな傷があった為社交界では『醜悪伯爵』と侮蔑されていた。  嫌がったカトリーナは逃げる途中階段で足を踏み外し転げ落ちる。  ──目覚めたカトリーナは、一切の記憶を失っていた。  王太子命令による望まぬ婚姻ではあったが仲良くするカトリーナとディートリヒ。  カトリーナに想いを寄せていた彼にとってこの婚姻は一生に一度の奇跡だったのだ。 (記憶を取り戻したい) (どうかこのままで……)  だが、それも長くは続かず──。 【HOTランキング1位頂きました。ありがとうございます!】 ※このお話は、以前投稿したものを大幅に加筆修正したものです。 ※中編版、短編版はpixivに移動させています。 ※小説家になろう、ベリーズカフェでも掲載しています。 ※ 魔法等は出てきませんが、作者独自の異世界のお話です。現実世界とは異なります。(異世界語を翻訳しているような感覚です)

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

王弟殿下の番様は溺れるほどの愛をそそがれ幸せに…

ましろ
恋愛
見つけた!愛しい私の番。ようやく手に入れることができた私の宝玉。これからは私のすべてで愛し、護り、共に生きよう。 王弟であるコンラート公爵が番を見つけた。 それは片田舎の貴族とは名ばかりの貧乏男爵の娘だった。物語のような幸運を得た少女に人々は賞賛に沸き立っていた。 貧しかった少女は番に愛されそして……え?

第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行「婚約破棄ですか? それなら昨日成立しましたよ、ご存知ありませんでしたか?」完結

まほりろ
恋愛
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行中。 コミカライズ化がスタートしましたらこちらの作品は非公開にします。 「アリシア・フィルタ貴様との婚約を破棄する!」 イエーガー公爵家の令息レイモンド様が言い放った。レイモンド様の腕には男爵家の令嬢ミランダ様がいた。ミランダ様はピンクのふわふわした髪に赤い大きな瞳、小柄な体躯で庇護欲をそそる美少女。 対する私は銀色の髪に紫の瞳、表情が表に出にくく能面姫と呼ばれています。 レイモンド様がミランダ様に惹かれても仕方ありませんね……ですが。 「貴様は俺が心優しく美しいミランダに好意を抱いたことに嫉妬し、ミランダの教科書を破いたり、階段から突き落とすなどの狼藉を……」 「あの、ちょっとよろしいですか?」 「なんだ!」 レイモンド様が眉間にしわを寄せ私を睨む。 「婚約破棄ですか? 婚約破棄なら昨日成立しましたが、ご存知ありませんでしたか?」 私の言葉にレイモンド様とミランダ様は顔を見合わせ絶句した。 全31話、約43,000文字、完結済み。 他サイトにもアップしています。 小説家になろう、日間ランキング異世界恋愛2位!総合2位! pixivウィークリーランキング2位に入った作品です。 アルファポリス、恋愛2位、総合2位、HOTランキング2位に入った作品です。 2021/10/23アルファポリス完結ランキング4位に入ってました。ありがとうございます。 「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」

処理中です...