美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛

らがまふぃん

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夢幻の住人編

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 残された者たちは、呆然としていた。
 次男の愚行に言葉を無くしている。
 そんな中、エリアストの護衛が動く。
 「ミツィーネ公爵様、この者たちはディレイガルドに一任いただきたい。よろしいでしょうか」
 「あ、ああ、もちろんだ。謝罪は、後日改めてしよう」
 護衛は頭を下げた。
 いつの間にか縛り上げられ、猿轡さるぐつわをされた次男を、護衛はヒョイ、と小脇に抱えた。
 え?
 会場中が目を丸くした。エリアストとほぼ変わらない体型の護衛が、大男を子どものように小脇に抱えたのだ。
 ディレイガルドに連なる者ってどうなってんの?
 「あなたたちは、縛られなくてもついてこられますよね」
 護衛がビゲッシュ伯爵家の三人を見ると、青ざめた顔で頷いた。
 「それではみなさま、一足先に失礼いたします」
 護衛とは思えないほど優雅に一礼して、ビゲッシュ家を引き連れ会場を後にした。

………
……


 「ではあなた方は、こちらの馬車へどうぞ」
 罪人である自分たちが乗せられるとは思えないほど、豪華な馬車だった。見た目はシンプルだが、伯爵たちの乗る一番いい馬車とは比べものにならないほど、すべてにおいて質が良い。ディレイガルド家の中では一番ランクの低い馬車でこれだ。筆頭公爵家の財力に呆然としてしまう。
 「どうしました?」
 護衛の声に、我に返った三人は、用意された馬車に乗る。そんな場合ではないとわかっているが、その乗り心地の良さに、少々心が浮ついてしまう。一種の現実逃避なのかもしれない。一方護衛は、次男を小脇に抱えたまま馬に跨がる。そしてそのまま出発した。その異様な光景に、浮ついた心も忘れて三人は思わず凝視してしまった。
 ゆっくりと馬車が動き出すと、少しして、伯爵が重い口を開いた。
 「アレは、あそこまで酷かったのか」
 言葉の通じない人間だとは思っていた。だが、家の外でそれを見せることはなかった。だから、外に迷惑をかけていないのでいい、煩わされているのは自分たちだけだからもういいか、と諦めてしまっていたのだ。外に迷惑をかけていない、と言う時点で、次男自身も本当はわかっているのだと思ってしまってもいた。
 「小心者、臆病者故の、過剰な自己防衛かと思っていたのですが。本気で夢幻の住人であったのですね」
 長男が自嘲するように嗤う。劣等感など持っていなかった。心の底から、自分に都合のいい世界を生きていた。
 「どうしてあの子は、どうして、どうして、こんなことに、どうして」
 伯爵夫人は嘆き続ける。
 時間は戻らない。これから自分たちは、どうなるのだろう。
 国の宝と言われるほど美しい庭園を持つ、圧倒的な存在感のディレイガルド邸を通り過ぎ、王城へと馬車は入って行く。
 これからどれほど恐ろしいことが待ち受けているのか。
 ディレイガルド現当主であれば、温厚で人当たりも良いと聞く。だが、息子はダメだ。恐ろしい噂ばかりを耳にする。婚約者が出来てから、かなり危険度は減ったと聞く。その婚約者とは、慈悲深い女神と評判の、今は奥方となられた方だ。
 恐ろしい噂ばかりの嫡男にも、ひとつだけ、素敵な噂があった。
 婚約者を、溺愛している。
 奥方となられた今も、それは変わらない。変わらないどころか、ますます深くなる一方だという。
 そんな奥方様を、怒らせた。
 ビゲッシュ伯爵家の面々は未来を悲観した。



*つづく*
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