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アリスデビュタント編
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王への挨拶が終わると、みんなそれぞれの社交へと移る。
アリスとエリアストを囲い、アリスの級友たちがうっとりとティアラを見つめる。
主を一層引き立てるよう考え抜かれたデザインのティアラ。アリスを囲むみんなが賛辞を口にする中、何だかとんでもないことに気付いた一人が、少々引き攣った顔でアリスに尋ねる。
「あ、あの、ディレイガルド、小公爵夫人様?その、ティアラなのですが、ええ、と、継ぎ目、と申しましょうか、そういうものが、ない、よう、な?」
その言葉に、ティアラを見ていた令嬢たちは、瞬きを忘れ、食い入るように見る
令嬢たちが身につけるティアラは、銀や金の台座に、ダイヤモンドを散りばめる。中央に大きなダイヤを据え、周囲に小さなダイヤで飾るなど、そのデザインは様々。だが、共通していることは、大小のダイヤモンドを使用している、という点だ。
アリスは微笑む。
「そうなのです。旦那様が、特別に作ってくださったものなのです」
いやいやいやいや。作ろうと思って作れるものではないですよね。
ご令嬢たちは、ゴクリと息を呑む。
そう、その素材がとんでもない。一つのダイヤを削って、ティアラにしている。おわかりだろうか。ティアラに出来るほどの大きさのダイヤモンドだ。カラットで言うと、どのくらいの桁になるのか不明。それを、惜しみなくティアラの形へ削り出しているのである。国宝も霞むほどの国宝級。任された職人の、胃や髪の毛は無事だろうか。
つまり、アリスのティアラは継ぎ目のない、台座までもがダイヤモンドという、ダイヤ以外一切使用されていない、混じりっけなし、純度百パーセントのダイヤモンドティアラだった。
「何かに使えればと置いておいて良かった。悔しいが、母上の見立てはさすがとしか言いようがない。とても似合っている。綺麗だ、エルシィ」
周りに人がいても気にすることなく賛辞を贈り、アリスの頭にくちづける。
この規模のダイヤの原石と言うだけで、計り知れない価値があるのだが。しかしエリアストは、丁度いいもの見つけた☆のように、軽い感じで言うのだ。
ディレイガルドの財力が怖い。
周囲は相変わらずの溺愛ぶりに真っ赤になりつつも、顔を引き攣らせる。
「お義母様こそ、何かお作りになればよろしかったのに、いつもわたくしばかりを優先してくださって」
真っ赤になりながら微笑むアリスが尊い。
「ふむ。母上には、もっとエルシィに関わらないように注意しているが、一向に聞き入れない。私が仕事に行っている間にエルシィとのああいや止めておこう」
ゆらりと立ち上りかけた不穏な空気が治まる。
ディレイガルド公爵夫人様、すげぇ。
アリスを囲む者たちが、再びゴクリと息を呑んだ。
こうしてささやかかどうかはわからないが、静かに波紋を広げる出来事がいくつかあれど、平穏無事に、アリスのデビュタントは幕を閉じた。
表向きは。
帰りの馬車にて。
「エルシィ、エルシィ」
朝からずっと我慢をし通しのエリアストの理性は崩壊寸前。アリスの唇を離さず、深く、浅く、アリスを翻弄している。
ここは馬車で、アリスの肌を人目に晒すことなど出来ない。アリスのその時の声を誰かに聞かせるなんてあり得ない。それだけが、その恐ろしいまでの独占欲が、エリアストの脆い理性を繋いでいた。
邸に着くと、アリスを抱えるエリアストが風のように寝室に消えた。出迎えた者たちは、エリアストの唇についた口紅に気付かないフリをして、また仕事に戻るのだった。
こうして、平穏無事とは言えない夜を迎えたアリスだった。
*最終話につづく*
アリスとエリアストを囲い、アリスの級友たちがうっとりとティアラを見つめる。
主を一層引き立てるよう考え抜かれたデザインのティアラ。アリスを囲むみんなが賛辞を口にする中、何だかとんでもないことに気付いた一人が、少々引き攣った顔でアリスに尋ねる。
「あ、あの、ディレイガルド、小公爵夫人様?その、ティアラなのですが、ええ、と、継ぎ目、と申しましょうか、そういうものが、ない、よう、な?」
その言葉に、ティアラを見ていた令嬢たちは、瞬きを忘れ、食い入るように見る
令嬢たちが身につけるティアラは、銀や金の台座に、ダイヤモンドを散りばめる。中央に大きなダイヤを据え、周囲に小さなダイヤで飾るなど、そのデザインは様々。だが、共通していることは、大小のダイヤモンドを使用している、という点だ。
アリスは微笑む。
「そうなのです。旦那様が、特別に作ってくださったものなのです」
いやいやいやいや。作ろうと思って作れるものではないですよね。
ご令嬢たちは、ゴクリと息を呑む。
そう、その素材がとんでもない。一つのダイヤを削って、ティアラにしている。おわかりだろうか。ティアラに出来るほどの大きさのダイヤモンドだ。カラットで言うと、どのくらいの桁になるのか不明。それを、惜しみなくティアラの形へ削り出しているのである。国宝も霞むほどの国宝級。任された職人の、胃や髪の毛は無事だろうか。
つまり、アリスのティアラは継ぎ目のない、台座までもがダイヤモンドという、ダイヤ以外一切使用されていない、混じりっけなし、純度百パーセントのダイヤモンドティアラだった。
「何かに使えればと置いておいて良かった。悔しいが、母上の見立てはさすがとしか言いようがない。とても似合っている。綺麗だ、エルシィ」
周りに人がいても気にすることなく賛辞を贈り、アリスの頭にくちづける。
この規模のダイヤの原石と言うだけで、計り知れない価値があるのだが。しかしエリアストは、丁度いいもの見つけた☆のように、軽い感じで言うのだ。
ディレイガルドの財力が怖い。
周囲は相変わらずの溺愛ぶりに真っ赤になりつつも、顔を引き攣らせる。
「お義母様こそ、何かお作りになればよろしかったのに、いつもわたくしばかりを優先してくださって」
真っ赤になりながら微笑むアリスが尊い。
「ふむ。母上には、もっとエルシィに関わらないように注意しているが、一向に聞き入れない。私が仕事に行っている間にエルシィとのああいや止めておこう」
ゆらりと立ち上りかけた不穏な空気が治まる。
ディレイガルド公爵夫人様、すげぇ。
アリスを囲む者たちが、再びゴクリと息を呑んだ。
こうしてささやかかどうかはわからないが、静かに波紋を広げる出来事がいくつかあれど、平穏無事に、アリスのデビュタントは幕を閉じた。
表向きは。
帰りの馬車にて。
「エルシィ、エルシィ」
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ここは馬車で、アリスの肌を人目に晒すことなど出来ない。アリスのその時の声を誰かに聞かせるなんてあり得ない。それだけが、その恐ろしいまでの独占欲が、エリアストの脆い理性を繋いでいた。
邸に着くと、アリスを抱えるエリアストが風のように寝室に消えた。出迎えた者たちは、エリアストの唇についた口紅に気付かないフリをして、また仕事に戻るのだった。
こうして、平穏無事とは言えない夜を迎えたアリスだった。
*最終話につづく*
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