美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛

らがまふぃん

文字の大きさ
上 下
11 / 72
アリスデビュタント編

しおりを挟む
残酷な表現が強いです。
苦手な方はご注意ください。


*∽*∽*∽*∽*


 間もなく報せが届く。
 タリ家の訃報と王女サーフィアの乱心。
 「あは。折角三年生き延びたのにねぇ」
 見守ってくれていた伯爵からの報告で、タリ家はただ生きているだけ、と言うことだった。完全に精神は崩壊し、自分が人であることすら認識していないようだ、と。ならば、最期に一仕事してもらおうと、エリアストは動いた。
 「まとめて管理出来ていいと思ったんだがな」
 「折角落ち着いてきていたって言うのに。酷いコトするなあ」
 クスクスと笑うライリアスト。
 「サーフィアあの女には王の真似事をさせてやった。だからルシアあの女は平民だというのに我らの庇護下ゆえ、デビュタントをさせてもらえた。ありがたいと思われているだろう」
 エリアストは喉の奥で嗤った。
 エリアストの非情に、一度は心が壊れた王女サーフィア。サーフィアを制御出来なかったとして、自らサーフィアについて行くことを望んだ、サーフィアの女官マージ。そのマージの献身的な世話により、だいぶ回復をしていたサーフィアだったのだが。

………
……


 「王女殿下、ディレイガルド家我が主からのにございます」
 サーフィアの幽閉先を監視している護衛の一人が、そう言った。ディレイガルドの名を直接言われたわけではないが、サーフィアの顔色は酷く悪い。けれど、マージに背中を支えられる手に勇気づけられ、何とか頷く。
 「別室にてご用意しております。そちらへ」
 護衛は恭しく頭を下げながら、案内すべく扉の前で進行方向を手で示す。
 「主からの伝言です。“王族としての務めを果たすように”とのことでございます」
 サーフィアは首を傾げた。
 「こちらの部屋に、今年デビュタントを迎える者がおります。その家族と共に待っておりますので、その者の額に手をかざしてください」
 サーフィアは声帯を切られているため、話をすることが出来ない。デビュタントを迎える者に声をかけるのだが、出来ない代わりに祝福の意味を込めて、手を翳すようにと言う。
 「ああ、その者は、殿口が利けませんので、口上が出来ませんがご容赦を」
 サーフィアは頷いた。だが、マージは嫌な予感がした。殿とは、どういうことか、と。それは、口が利けない、というそのままの意味を指しているのか。それとも、を指しているのか。
 「殿下、部屋に」
 戻りましょう。そう言おうとしたが、遅かった。
 扉が、開かれる。
 玉座に見立てた椅子に向かって、四人が床に座っている。
 「いろいろと難儀な体でして。立っていられないのですがお許しを」
 背後からの護衛の言葉に、マージは冷や汗が止まらない。
 サーフィアは恐る恐る、仮の玉座に向かう。床に座る者たちの横を通り過ぎたとき。一人が突然奇声をあげた。サーフィアとマージが驚き振り向くと、奇声に触発されたように他の者も奇声をあげ、手足をバタつかせ始めた。
 「おや。薬が切れてしまったようですね。もう少し大人しくしていないと、折角主が用意してくださったデビュタントが終わりませんよ」
 護衛は、薬を取ってきます、とサーフィアたちを残して出て行ってしまった。恐ろしくて身動きがとれないでいると、四人の内、一人だけ、ジッとしている者に気付いた。白いドレスを纏う者。彼女がデビュタントを迎える者だろう。
 「あ、あなた、危ないから、こちらへ」
 暴れる者たちから離そうとして、気付いてしまった。
 ドン、と誰かの手足が彼女にぶつかった。彼女は抵抗なく前に倒れる。顔面から。
 「ヒッ」
 マージは青ざめ、両手で口を押さえた。
 転んでも、庇う手がないのだと、いや、足も、ない。
 異常な光景に、サーフィアは笑う。声は出ないが、肩がひくひくと動き、口の端からは唾液が流れている。目は、虚ろ。虚ろな目が、仮の玉座の横になぜか立てかけられている剣を見つけた。女性の細腕、片手で扱える細剣レイピア
 「で、でんか?」


*~*~*~*~*


 「生活、保障してやった。サーフィア同居人が蛮行に及ぶことはあずかり知らぬことだ」
 衣食住すべて生活に必要なものは調えてやったというのに台無しにするとは、本当に不快な連中だ。



*つづく*
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。 私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。 やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。 そう自由……自由になるはずだったのに…… ※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です ※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません ※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります

【完結】余命三年ですが、怖いと評判の宰相様と契約結婚します

佐倉えび
恋愛
断罪→偽装結婚(離婚)→契約結婚 不遇の人生を繰り返してきた令嬢の物語。 私はきっとまた、二十歳を越えられないーー  一周目、王立学園にて、第二王子ヴィヴィアン殿下の婚約者である公爵令嬢マイナに罪を被せたという、身に覚えのない罪で断罪され、修道院へ。  二周目、学園卒業後、夜会で助けてくれた公爵令息レイと結婚するも「あなたを愛することはない」と初夜を拒否された偽装結婚だった。後に離婚。  三周目、学園への入学は回避。しかし評判の悪い王太子の妾にされる。その後、下賜されることになったが、手渡された契約書を見て、契約結婚だと理解する。そうして、怖いと評判の宰相との結婚生活が始まったのだが――? *ムーンライトノベルズにも掲載

はずれのわたしで、ごめんなさい。

ふまさ
恋愛
 姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。  婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。  こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。  そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

【完結】記憶が戻ったら〜孤独な妻は英雄夫の変わらぬ溺愛に溶かされる〜

凛蓮月
恋愛
【完全完結しました。ご愛読頂きありがとうございます!】  公爵令嬢カトリーナ・オールディスは、王太子デーヴィドの婚約者であった。  だが、カトリーナを良く思っていなかったデーヴィドは真実の愛を見つけたと言って婚約破棄した上、カトリーナが最も嫌う醜悪伯爵──ディートリヒ・ランゲの元へ嫁げと命令した。  ディートリヒは『救国の英雄』として知られる王国騎士団副団長。だが、顔には数年前の戦で負った大きな傷があった為社交界では『醜悪伯爵』と侮蔑されていた。  嫌がったカトリーナは逃げる途中階段で足を踏み外し転げ落ちる。  ──目覚めたカトリーナは、一切の記憶を失っていた。  王太子命令による望まぬ婚姻ではあったが仲良くするカトリーナとディートリヒ。  カトリーナに想いを寄せていた彼にとってこの婚姻は一生に一度の奇跡だったのだ。 (記憶を取り戻したい) (どうかこのままで……)  だが、それも長くは続かず──。 【HOTランキング1位頂きました。ありがとうございます!】 ※このお話は、以前投稿したものを大幅に加筆修正したものです。 ※中編版、短編版はpixivに移動させています。 ※小説家になろう、ベリーズカフェでも掲載しています。 ※ 魔法等は出てきませんが、作者独自の異世界のお話です。現実世界とは異なります。(異世界語を翻訳しているような感覚です)

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

王弟殿下の番様は溺れるほどの愛をそそがれ幸せに…

ましろ
恋愛
見つけた!愛しい私の番。ようやく手に入れることができた私の宝玉。これからは私のすべてで愛し、護り、共に生きよう。 王弟であるコンラート公爵が番を見つけた。 それは片田舎の貴族とは名ばかりの貧乏男爵の娘だった。物語のような幸運を得た少女に人々は賞賛に沸き立っていた。 貧しかった少女は番に愛されそして……え?

【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!

高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。 7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。 だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。 成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。 そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る 【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】

処理中です...