美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛

らがまふぃん

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新婚旅行編

最終話

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 旅行から戻った二人が、エリアストの仕事が始まる日の朝まで寝室から出てくることはなかった。もちろんアリスを全身で愛していたが、アリス至上主義のエリアストが、ずっとアリスに無理をさせていたということではない。
 「本当にエル様は器用ですわ」
 アリスに褒められたエリアストが微笑む。
 食事に着替えに入浴(!)まで、アリスの世話をすべてエリアストがしていた。
 仕事が始まる日までの僅かな時間、誰にも邪魔されず、二人きりで過ごしたいというエリアストの願いを叶えるためだ。
 紅茶を入れるエリアストに、アリスは感嘆の息と共にそう言った。
 エリアストはすべてを完璧に熟す。食事の用意をするためにアリスを置いて厨房に行くのはもちろん、アリスを連れて行くのも人目に晒されてしまうためイヤだったので、用意だけはしてもらい、部屋の外に置かせた。食事が運ばれると、最初エリアストはアリスに食べさせていた。恥ずかしそうに口を開けるアリスに、理性が保たないと判断。早々におとなしく二人並んで食べるだけにとどめる。それでも、ひとくちふたくちは必ず食べさせてはいるのだが。
 着替えも同様、いや、それ以上に恥ずかしがるアリスに、何度襲いかかろうとしたかわからない。しかし、着替えさせないわけにもいかず、理性を総動員して耐えた。
 入浴は、耐えられるはずもなく。あまりの羞恥に、せめて灯りは消してくれというアリスの精一杯の抵抗が、よくなかった。エリアストは夜目が利くとは言え、さすがに真っ暗では万が一アリスに何かあっては危ないので、常夜灯レベルの灯りにしたところ。詳細は割愛する。
 茹だったように全身真っ赤なアリスのスキンケアも当然、エリアスト。アリスの意識が彼方の内に丁寧且つ迅速に済ませ、アリスが気付く頃には、いつもの愛らしい夜着に身を包み、髪をこれまた丁寧に手入れをしているという状態だった。スキンケアをするときのエリアストは無我の境地。入浴で無理をさせているのだ。これ以上は我慢をしなくては、アリスが壊れてしまう。黙々と、粛々と、煩悩が挟まる余地をねじ伏せ、無我の境地へ。
 そんなエリアストだ。紅茶の入れ方だって、アリスの驚く顔と、喜ぶ顔を見るために覚えた。
 「まあ、エル様、これ、とってもおいしいです。ありがとうございます」
 アリスも心からの笑みをエリアストに向ける。
 「エルシィのその顔が見られるなら、私は何でも出来る」
 アリスの頭にくちづけると、カップを持ったままのアリスは真っ赤になった。
 「エルシィ、私の、私だけのエルシィ」
 アリスの持つカップを、そっとエリアストが攫う。カップを持つ手とは反対の手でアリスの顎を持ち上げると、その唇を重ねた。
 守れる。これからも、ずっと、アリスを守ることが出来る。
 ずっと、この手で。

 こうして二人の、婚約期間これまで以上に幸せな時間が始まった。



*新婚旅行編おしまい*

これにて新婚旅行編終了です。
新婚旅行なので、甘々なお話しにしました。エル様の残酷冷酷部分はほぼ封印。ですが、この後の番外編は、ちょっとそんな部分があります。
そんな番外編を一話挟んで、新章アリスデビュタント編となります。
結構残酷な話がありますので、苦手な方はさらに次の章夢幻の住人編でお会い出来ると嬉しいです。
で、でも、夢幻の住人編も残酷表現ありますが、アリスデビュタント編よりソフトです。
引き続きお楽しみいただけるようがんばります。
ありがとうございました。
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