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新婚旅行編
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初夜。
緊張のためか、固まってしまったエルシィに、心が追いついていないなら待つから怖がらないで、と伝えると、妻になりたい、と真っ赤な顔で答えてくれた。これ程まで愛しい存在に出会えたことに、感謝する。
私とひとつになると、つらいはずなのに、エルシィは心からの笑みを零してくれた。
なんという存在だろう。愛しくて愛しくて、愛しすぎて。涙が零れた。
エルシィを深く深く堪能し、まだまだ足りないと思いながらも、これ以上は負担になるだろうと我慢をする。ゆるゆると微睡み始めるエルシィを包み込み、額にキスをする。
エルシィが、この腕の中にいる。
これからは、ずっと、こうして眠ることが出来る。
もう、独りで、眠ることはない。
「愛している、エルシィ」
エルシィが幸せそうに笑った。
「エル様、愛しています、エル様」
私の胸に擦り寄るエルシィが愛しくて。
「おやすみ、エルシィ」
「おやすみなさいませ、えるさま」
幸せを抱いて、眠った。
*~*~*~*~*
「エルシィ、本当に大丈夫か。体、つらくないか」
旅行に出掛ける当日。昨日からずっとアリスの体を心配するエリアスト。昨夜は今日出掛けることがわかっていたため、ただアリスを抱き締めて眠るに止めた。それだけでも、ひどく満たされた。
「エル様、大丈夫ですわ。ずっとエル様が気遣ってくださっているお陰で、本当に何ともありません。ありがとうございます、エル様」
頬を染めて微笑むアリスを、エリアストは愛おしく抱き締める。
「少しでもつらくなったら言ってくれ。絶対だ、約束してくれ、エルシィ」
「はい、必ず。エル様も、何かありましたら必ず教えてくださいね」
「ああ、ああ、そうする。約束しよう、エルシィ」
これから二人で旅行に行くはずなのだが、何故暫く会えない恋人同士のような会話が繰り広げられているのだろう。ディレイガルド家に仕える誰もがそんな心持ちで、生温かく見守っていると。
「まーあ。まだこんなところでもたもたして。もう馬車の用意はとっくに出来ているのよ。いい加減アリスちゃんを解放してあげなさい、エリアスト」
呆れたディレイガルド公爵夫人アイリッシュによって、なんとか出発をすることが出来た。
………
……
…
「エル様、エル様は、これから行くところへ、何度かお義父様と訪れていらっしゃるのですよね」
楽しそうに、キラキラと目を輝かせるアリスが、子どものようでとても愛らしい。そんなアリスと穏やかに会話をしながら、そろそろ初日の宿に着こうという頃。突然馬車が急停止した。エリアストは瞬時にアリスをその胸に抱え込む。スピードは出ていないとはいえ、危険極まりない。
「エルシィッ、大丈夫か?どこか痛めなかったか?」
胸に抱えたアリスをくまなく調べる。
「ありがとうございます、エル様。わたくしはエル様のお陰で何ともありません。エル様こそ何事もありませんか?」
心配そうにエリアストの顔を覗き込むアリスが愛おしくて堪らない。このままこの腕に閉じ込めておきたいけれど、これ程までに愛おしい存在を危険な目に遭わせた原因を突き止めなくては。
「何事だ」
絶対零度の声で、御者に問う。
「申し訳ございませんっ。子どもが突然馬車の前にっ」
青ざめるアリスの肩を抱く。
「こ、こども、は、どう、どうなって」
震えながら子どもの安否を尋ねるアリスが、酷く痛ましい。アリスをこんな状態にした原因が憎々しい。
「大丈夫です。停止が間に合いました」
「何があった」
「それが、」
御者が説明をしようとすると、子どもに罵声を浴びせる声が聞こえてきた。元凶の声のようだ。エリアストは、震えるアリスを置いておくことなど出来るはずがないし、元凶を放置することも出来ず、少し考える。そして、馬車を降りた。
*つづく*
緊張のためか、固まってしまったエルシィに、心が追いついていないなら待つから怖がらないで、と伝えると、妻になりたい、と真っ赤な顔で答えてくれた。これ程まで愛しい存在に出会えたことに、感謝する。
私とひとつになると、つらいはずなのに、エルシィは心からの笑みを零してくれた。
なんという存在だろう。愛しくて愛しくて、愛しすぎて。涙が零れた。
エルシィを深く深く堪能し、まだまだ足りないと思いながらも、これ以上は負担になるだろうと我慢をする。ゆるゆると微睡み始めるエルシィを包み込み、額にキスをする。
エルシィが、この腕の中にいる。
これからは、ずっと、こうして眠ることが出来る。
もう、独りで、眠ることはない。
「愛している、エルシィ」
エルシィが幸せそうに笑った。
「エル様、愛しています、エル様」
私の胸に擦り寄るエルシィが愛しくて。
「おやすみ、エルシィ」
「おやすみなさいませ、えるさま」
幸せを抱いて、眠った。
*~*~*~*~*
「エルシィ、本当に大丈夫か。体、つらくないか」
旅行に出掛ける当日。昨日からずっとアリスの体を心配するエリアスト。昨夜は今日出掛けることがわかっていたため、ただアリスを抱き締めて眠るに止めた。それだけでも、ひどく満たされた。
「エル様、大丈夫ですわ。ずっとエル様が気遣ってくださっているお陰で、本当に何ともありません。ありがとうございます、エル様」
頬を染めて微笑むアリスを、エリアストは愛おしく抱き締める。
「少しでもつらくなったら言ってくれ。絶対だ、約束してくれ、エルシィ」
「はい、必ず。エル様も、何かありましたら必ず教えてくださいね」
「ああ、ああ、そうする。約束しよう、エルシィ」
これから二人で旅行に行くはずなのだが、何故暫く会えない恋人同士のような会話が繰り広げられているのだろう。ディレイガルド家に仕える誰もがそんな心持ちで、生温かく見守っていると。
「まーあ。まだこんなところでもたもたして。もう馬車の用意はとっくに出来ているのよ。いい加減アリスちゃんを解放してあげなさい、エリアスト」
呆れたディレイガルド公爵夫人アイリッシュによって、なんとか出発をすることが出来た。
………
……
…
「エル様、エル様は、これから行くところへ、何度かお義父様と訪れていらっしゃるのですよね」
楽しそうに、キラキラと目を輝かせるアリスが、子どものようでとても愛らしい。そんなアリスと穏やかに会話をしながら、そろそろ初日の宿に着こうという頃。突然馬車が急停止した。エリアストは瞬時にアリスをその胸に抱え込む。スピードは出ていないとはいえ、危険極まりない。
「エルシィッ、大丈夫か?どこか痛めなかったか?」
胸に抱えたアリスをくまなく調べる。
「ありがとうございます、エル様。わたくしはエル様のお陰で何ともありません。エル様こそ何事もありませんか?」
心配そうにエリアストの顔を覗き込むアリスが愛おしくて堪らない。このままこの腕に閉じ込めておきたいけれど、これ程までに愛おしい存在を危険な目に遭わせた原因を突き止めなくては。
「何事だ」
絶対零度の声で、御者に問う。
「申し訳ございませんっ。子どもが突然馬車の前にっ」
青ざめるアリスの肩を抱く。
「こ、こども、は、どう、どうなって」
震えながら子どもの安否を尋ねるアリスが、酷く痛ましい。アリスをこんな状態にした原因が憎々しい。
「大丈夫です。停止が間に合いました」
「何があった」
「それが、」
御者が説明をしようとすると、子どもに罵声を浴びせる声が聞こえてきた。元凶の声のようだ。エリアストは、震えるアリスを置いておくことなど出来るはずがないし、元凶を放置することも出来ず、少し考える。そして、馬車を降りた。
*つづく*
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