美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛

らがまふぃん

文字の大きさ
上 下
2 / 72
新婚旅行編

しおりを挟む
 初夜。
 緊張のためか、固まってしまったエルシィに、心が追いついていないなら待つから怖がらないで、と伝えると、妻になりたい、と真っ赤な顔で答えてくれた。これ程まで愛しい存在に出会えたことに、感謝する。
 私とひとつになると、つらいはずなのに、エルシィは心からの笑みを零してくれた。
 なんという存在だろう。愛しくて愛しくて、愛しすぎて。涙が零れた。
 エルシィを深く深く堪能し、まだまだ足りないと思いながらも、これ以上は負担になるだろうと我慢をする。ゆるゆると微睡まどろみ始めるエルシィを包み込み、額にキスをする。
 エルシィが、この腕の中にいる。
 これからは、ずっと、こうして眠ることが出来る。

 もう、独りで、眠ることはない。

 「愛している、エルシィ」
 エルシィが幸せそうに笑った。
 「エル様、愛しています、エル様」
 私の胸に擦り寄るエルシィが愛しくて。
 「おやすみ、エルシィ」
 「おやすみなさいませ、えるさま」

 幸せを抱いて、眠った。

*~*~*~*~*

 「エルシィ、本当に大丈夫か。体、つらくないか」
 旅行に出掛ける当日。昨日からずっとアリスの体を心配するエリアスト。昨夜は今日出掛けることがわかっていたため、ただアリスを抱き締めて眠るにとどめた。それだけでも、ひどく満たされた。
 「エル様、大丈夫ですわ。ずっとエル様が気遣ってくださっているお陰で、本当に何ともありません。ありがとうございます、エル様」
 頬を染めて微笑むアリスを、エリアストは愛おしく抱き締める。
 「少しでもつらくなったら言ってくれ。絶対だ、約束してくれ、エルシィ」
 「はい、必ず。エル様も、何かありましたら必ず教えてくださいね」
 「ああ、ああ、そうする。約束しよう、エルシィ」
 これから二人で旅行に行くはずなのだが、何故暫く会えない恋人同士のような会話が繰り広げられているのだろう。ディレイガルド家に仕える誰もがそんな心持ちで、生温かく見守っていると。
 「まーあ。まだこんなところでもたもたして。もう馬車の用意はとっくに出来ているのよ。いい加減アリスちゃんを解放してあげなさい、エリアスト」
 呆れたディレイガルド公爵夫人アイリッシュによって、なんとか出発をすることが出来た。

………
……


 「エル様、エル様は、これから行くところへ、何度かお義父様と訪れていらっしゃるのですよね」
 楽しそうに、キラキラと目を輝かせるアリスが、子どものようでとても愛らしい。そんなアリスと穏やかに会話をしながら、そろそろ初日の宿に着こうという頃。突然馬車が急停止した。エリアストは瞬時にアリスをその胸に抱え込む。スピードは出ていないとはいえ、危険極まりない。
 「エルシィッ、大丈夫か?どこか痛めなかったか?」
 胸に抱えたアリスをくまなく調べる。
 「ありがとうございます、エル様。わたくしはエル様のお陰で何ともありません。エル様こそ何事もありませんか?」
 心配そうにエリアストの顔を覗き込むアリスが愛おしくて堪らない。このままこの腕に閉じ込めておきたいけれど、これ程までに愛おしい存在を危険な目に遭わせた原因を突き止めなくては。
 「何事だ」
 絶対零度の声で、御者に問う。
 「申し訳ございませんっ。子どもが突然馬車の前にっ」
 青ざめるアリスの肩を抱く。
 「こ、こども、は、どう、どうなって」
 震えながら子どもの安否を尋ねるアリスが、酷く痛ましい。アリスをこんな状態にした原因が憎々しい。
 「大丈夫です。停止が間に合いました」
 「何があった」
 「それが、」
 御者が説明をしようとすると、子どもに罵声を浴びせる声が聞こえてきた。元凶の声のようだ。エリアストは、震えるアリスを置いておくことなど出来るはずがないし、元凶を放置することも出来ず、少し考える。そして、馬車を降りた。



*つづく*
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【忘れるな、憎い君と結婚するのは亡き妻の遺言だということを】 男爵家令嬢、ジェニファーは薄幸な少女だった。両親を早くに亡くし、意地悪な叔母と叔父に育てられた彼女には忘れられない初恋があった。それは少女時代、病弱な従姉妹の話し相手として滞在した避暑地で偶然出会った少年。年が近かった2人は頻繁に会っては楽しい日々を過ごしているうちに、ジェニファーは少年に好意を抱くようになっていった。 少年に恋したジェニファーは今の生活が長く続くことを祈った。 けれど従姉妹の体調が悪化し、遠くの病院に入院することになり、ジェニファーの役目は終わった。 少年に別れを告げる事もできずに、元の生活に戻ることになってしまったのだ。 それから十数年の時が流れ、音信不通になっていた従姉妹が自分の初恋の男性と結婚したことを知る。その事実にショックを受けたものの、ジェニファーは2人の結婚を心から祝うことにした。 その2年後、従姉妹は病で亡くなってしまう。それから1年の歳月が流れ、突然彼から求婚状が届けられた。ずっと彼のことが忘れられなかったジェニファーは、喜んで後妻に入ることにしたのだが……。 そこには残酷な現実が待っていた―― *他サイトでも投稿中

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

番は君なんだと言われ王宮で溺愛されています

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私ミーシャ・ラクリマ男爵令嬢は、家の借金の為コッソリと王宮でメイドとして働いています。基本は王宮内のお掃除ですが、人手が必要な時には色々な所へ行きお手伝いします。そんな中私を番だと言う人が現れた。えっ、あなたって!? 貧乏令嬢が番と幸せになるまでのすれ違いを書いていきます。 愛の花第2弾です。前の話を読んでいなくても、単体のお話として読んで頂けます。

妹の身代わり人生です。愛してくれた辺境伯の腕の中さえ妹のものになるようです。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
タイトルを変更しました。 ※※※※※※※※※※※※※ 双子として生まれたエレナとエレン。 かつては忌み子とされていた双子も何代か前の王によって、そういった扱いは禁止されたはずだった。 だけどいつの時代でも古い因習に囚われてしまう人達がいる。 エレナにとって不幸だったのはそれが実の両親だったということだった。 両親は妹のエレンだけを我が子(長女)として溺愛し、エレナは家族とさえ認められない日々を過ごしていた。 そんな中でエレンのミスによって辺境伯カナトス卿の令息リオネルがケガを負ってしまう。 療養期間の1年間、娘を差し出すよう求めてくるカナトス卿へ両親が差し出したのは、エレンではなくエレナだった。 エレンのフリをして初恋の相手のリオネルの元に向かうエレナは、そんな中でリオネルから優しさをむけてもらえる。 だが、その優しささえも本当はエレンへ向けられたものなのだ。 自分がニセモノだと知っている。 だから、この1年限りの恋をしよう。 そう心に決めてエレナは1年を過ごし始める。 ※※※※※※※※※※※※※ 異世界として、その世界特有の法や産物、鉱物、身分制度がある前提で書いています。 現実と違うな、という場面も多いと思います(すみません💦) ファンタジーという事でゆるくとらえて頂けると助かります💦

【完結】王太子殿下が幼馴染を溺愛するので、あえて応援することにしました。

かとるり
恋愛
王太子のオースティンが愛するのは婚約者のティファニーではなく、幼馴染のリアンだった。 ティファニーは何度も傷つき、一つの結論に達する。 二人が結ばれるよう、あえて応援する、と。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

処理中です...