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「どの話でも、私は死ぬ。主人公と攻略対象、ああ、主人公の相手のことです。二人の愛をより強固なものにするための、噛ませ犬」
「ちょ、待って待って。え、私はその攻略対象というものだよね?」
「はい」
兄が信じられないという顔をした後、考える仕草をした。
「今となっては考えられないけれど、真白と出会わなければ、私はサリュアと結婚していただろうな」
そう言って兄は顔を顰めた。
「私とサリュアで真白を処刑するの?どんな理由で?」
「んー、何でしょうね。この話、ほぼ覚えていないんですよね」
兄が、まあ真白だからね、って顔した。ケンカ売ってんのかコラ。
「では私は?まさかあの女が主人だったのか?」
影艶がもの凄く嫌そうな顔で聞いてきた。私は首を振る。
「殆ど覚えていないけど、影艶と王子様は、間違いなくいなかった。最初、王子様が攻略対象だと思ったんだよ」
影艶が思いきり安堵の表情を浮かべた。
「ねえ真白。殆ど覚えていないのに、何故私たちのことがわかるの?」
「えーと、絵、ですね。たくさん絵がありまして、その絵を覚えていました。それから、名前を聞いて、攻略対象だと。言われるまで名前も思い出せませんでしたが」
「なるほど。だけどその物語とは全然違うよね。私は真白に夢中だよ」
「いないはずの私が、物語に恐らく重要人物である真白の側にいるのもおかしな話だろうしな」
そんな物語は物語でしかない、と私に言い聞かせるように、現実は今あることがすべてだとゲームを否定してくれる。
「私は処刑される役割。でもただでは死なない。噛ませ犬なんて優しい存在ではなく、ケルベロスになって、ヒロインに瀕死の爪痕を残して死んでやろう、そう思っていた」
ジッと影艶を見る。
「影艶に出会った。私の世界が変わった。死にたくない、影艶と生きていきたい、そう思った」
影艶が目を見開く。
「攻略対象だから、いつか私を処刑する人。そのはずなのに、私を助けてくれるリィン様。リィン様が、ここは物語ではない、現実の世界で、血の通った人間たちが生きて存在しているのだと教えてくれた」
兄を見つめてそう言うと、兄も目を見開いた。
「私は幸せ。幸せになった。幸せを手放したくないと思ってしまった」
影艶も兄も言葉を挟まず私の話を聞いてくれている。
「余計に千年聖女の存在が怖くなった。いつか、この幸せを奪われるかも知れない。ゲームの強制力が働いて、シナリオを元に戻そうとするかも知れない」
人間になった影艶と兄が、挟むように私を抱き締めてくれた。
「でも、私が死んで、大切なものが守れるなら、それでもいいと思っていた。大切なものが幸せなら、その幸せの中に交ぜてもらえなくても、私は幸せだと思った」
二人が、私を抱き締める腕に力を込めた。
「影艶が苦しむのを見て、私の中で考えが変わった。千年聖女が存在する限り、幸せは守れないと。自分が幸せになるための通過儀礼で千年聖女を排除しようと思っていた。違う。私は千年聖女を何が何でも排除しなくては。通過儀礼ではない。あの女の存在は、私の大切なものを幸せにしない。私の大切なものを幸せにしないどころか、害するものなど不要。あってはならない。だからあの女を殺したかった」
二人の頬に、涙が伝っている。
「ただ、それだけの話だったんですよ」
難しいことなど何もない。言葉にすると、あっさりと、本当にただそれだけの話。
結局のところ、自分が幸せになりたかった、それだけ。
「ただの、自己満足です」
兄の指先が、私のクチに触れた。いくつも涙を落としながら、優しく微笑んだ。
「真白。話してくれて、ありがとう。真白の気持ち、よくわかった。よく、伝わったよ」
「真白。守ってくれて、ありがとう。ずっとずっと、守ってくれていて、ありがとう」
影艶が私の髪に顔を埋めながら、そう言った。
*~*~*~*~*
「もうさ、幸せにするしかないよね」
「それ以外あり得んな」
「幸せの中に交ぜてもらえなくても、なんて言えないほど幸せにするからね、真白」
「真白の存在が私たちの幸せだと、いい加減気付いてもらわんとな」
*最終話につづく*
「ちょ、待って待って。え、私はその攻略対象というものだよね?」
「はい」
兄が信じられないという顔をした後、考える仕草をした。
「今となっては考えられないけれど、真白と出会わなければ、私はサリュアと結婚していただろうな」
そう言って兄は顔を顰めた。
「私とサリュアで真白を処刑するの?どんな理由で?」
「んー、何でしょうね。この話、ほぼ覚えていないんですよね」
兄が、まあ真白だからね、って顔した。ケンカ売ってんのかコラ。
「では私は?まさかあの女が主人だったのか?」
影艶がもの凄く嫌そうな顔で聞いてきた。私は首を振る。
「殆ど覚えていないけど、影艶と王子様は、間違いなくいなかった。最初、王子様が攻略対象だと思ったんだよ」
影艶が思いきり安堵の表情を浮かべた。
「ねえ真白。殆ど覚えていないのに、何故私たちのことがわかるの?」
「えーと、絵、ですね。たくさん絵がありまして、その絵を覚えていました。それから、名前を聞いて、攻略対象だと。言われるまで名前も思い出せませんでしたが」
「なるほど。だけどその物語とは全然違うよね。私は真白に夢中だよ」
「いないはずの私が、物語に恐らく重要人物である真白の側にいるのもおかしな話だろうしな」
そんな物語は物語でしかない、と私に言い聞かせるように、現実は今あることがすべてだとゲームを否定してくれる。
「私は処刑される役割。でもただでは死なない。噛ませ犬なんて優しい存在ではなく、ケルベロスになって、ヒロインに瀕死の爪痕を残して死んでやろう、そう思っていた」
ジッと影艶を見る。
「影艶に出会った。私の世界が変わった。死にたくない、影艶と生きていきたい、そう思った」
影艶が目を見開く。
「攻略対象だから、いつか私を処刑する人。そのはずなのに、私を助けてくれるリィン様。リィン様が、ここは物語ではない、現実の世界で、血の通った人間たちが生きて存在しているのだと教えてくれた」
兄を見つめてそう言うと、兄も目を見開いた。
「私は幸せ。幸せになった。幸せを手放したくないと思ってしまった」
影艶も兄も言葉を挟まず私の話を聞いてくれている。
「余計に千年聖女の存在が怖くなった。いつか、この幸せを奪われるかも知れない。ゲームの強制力が働いて、シナリオを元に戻そうとするかも知れない」
人間になった影艶と兄が、挟むように私を抱き締めてくれた。
「でも、私が死んで、大切なものが守れるなら、それでもいいと思っていた。大切なものが幸せなら、その幸せの中に交ぜてもらえなくても、私は幸せだと思った」
二人が、私を抱き締める腕に力を込めた。
「影艶が苦しむのを見て、私の中で考えが変わった。千年聖女が存在する限り、幸せは守れないと。自分が幸せになるための通過儀礼で千年聖女を排除しようと思っていた。違う。私は千年聖女を何が何でも排除しなくては。通過儀礼ではない。あの女の存在は、私の大切なものを幸せにしない。私の大切なものを幸せにしないどころか、害するものなど不要。あってはならない。だからあの女を殺したかった」
二人の頬に、涙が伝っている。
「ただ、それだけの話だったんですよ」
難しいことなど何もない。言葉にすると、あっさりと、本当にただそれだけの話。
結局のところ、自分が幸せになりたかった、それだけ。
「ただの、自己満足です」
兄の指先が、私のクチに触れた。いくつも涙を落としながら、優しく微笑んだ。
「真白。話してくれて、ありがとう。真白の気持ち、よくわかった。よく、伝わったよ」
「真白。守ってくれて、ありがとう。ずっとずっと、守ってくれていて、ありがとう」
影艶が私の髪に顔を埋めながら、そう言った。
*~*~*~*~*
「もうさ、幸せにするしかないよね」
「それ以外あり得んな」
「幸せの中に交ぜてもらえなくても、なんて言えないほど幸せにするからね、真白」
「真白の存在が私たちの幸せだと、いい加減気付いてもらわんとな」
*最終話につづく*
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