悪役令嬢 VS 悪役令嬢

らがまふぃん

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105 ~影艶side~

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 「真白。外出許可が取れるなら、あの湖に行かないか」
 千年聖女の一件から落ち着きを取り戻した頃。
 そう誘うと、真白はとても嬉しそうに笑った。早速申請に行き、四日後に出掛けられることとなった。その翌日、それを知った王太子が、自分もついていきたいと駄々をこね、側近に、明日から三日間、重要な接待と視察があるでしょうと諫められていた。
 少し前に、三日間会えなくなると半泣き状態で話していたことを覚えていた。だから、真白とのデートを邪魔されないために、その日程のどこかに収まるようなタイミングで誘ってみた。
 このくらい、赦せよ。

 不思議な場所だと思った。季節に関係なく、いつでもここは名前のわからない真っ白な花が一面に咲いている。
 「ここってどうしていつも変わらないんだろうね」
 同じことを考えていたことに、自然と顔がほころぶ。
 「神域のひとつかもしれんな」
 「こういう神域もありかあ」
 ゆっくり二人、変わらない景色を眺める。
 二人並んでゆっくりほとりを歩く。時々小鳥が真白の肩や私の背中にとまる。何をするわけでもない。ずっと寄り添いながら、とても穏やかな時間を二人で過ごした。
 辺りが赤く染まりだした。日が、随分傾いている。東の空はもう薄闇色だ。そろそろ戻らなければならない時間。
 幸せな時間が、終わる。
 このまま二人で、そこまで考えて、思考を止める。
 私の望みは、真白の幸せ。それ以外、ない。
 「影艶。また、来ようね」
 私の首に抱きついて、真白がそんなことを言った。
 「影艶、一緒に、また、デート、してね」
 真白は、淋しそうに笑った。私の行動から、何かを感じ取っているのだろう。そんな顔をさせたいわけではない。私の選択は、これからしようとしていることは、長い目で見れば、真白のためになるのだ。
 「ああ、そうだな。真白」
 頭を真白にこすりつける。
 「ずっと、一緒にいてね」
 声が、微かに震えている。
 「ああ、真白。ずっと一緒だ」
 ベロリと真白の顔を舐めた。


 王太子や王子だけではなく、稀ではあるが神殿の者たちにも笑うことが出来るようになった真白。
 笑えるなら、大丈夫だ。
 真白。可愛い。笑っている真白、可愛いな。
 それが私に向けられたものではないことが、ひどく淋しい。こんな独占欲にまみれた考えは、真白の可能性を狭めてしまう。真白には自由でいて欲しい。
 私だけの真白でいて欲しいけれど。

 王太子の目にはシラユキしか映っていない。さぞ私が邪魔であろう。
 お互い様だ、王太子。
 おまえにシラユキは渡さん。

 以前は、そう考えていた。
 私は神獣とはいえ、獣でしかない。
 人は、人と。
 それが、きっと長い目で見れば幸せになれる。
 私が離れる時間が出来るようになってから少しして、影艶かげつやは、恋人でも出来たの?と悲しそうに微笑まれた。違うと否定したら、ホッとしたように笑った。だがそれは、信じたのではなく、嘘でも私が否定したことに、まだ側にいてもいいのだと認識したに過ぎないようだった。まだ、恋人よりも自分を優先してくれていると。真白がいるのに、どこをどう間違えたらそんな存在が出来るのか。もっと自分の価値を理解してくれ、真白。
 私の姿がないことに、最初は泣くだろう。真白から、誰よりも好かれていることだってわかっている。自惚れでも何でもない。そうと確信出来るほど、私たちは一緒にいた。
 だからこそ。
 私ではダメだとわかってしまった。
 私は王太子や王子のように、人との繋がりを与えてやれない。真白は人を、言葉を好まない。けれど、人との営みの中で感じた、真白に足りないもの。その、人との営みの中にこそ、真白に必要なものがあるのだ。
 真白は人の好意にもの凄く鈍感で、王妃ほど全身で好意を表わすものしか認識出来ない。これほど周りから慕われていることに、気付けない。真白にとってそれは、不幸なこと。真白には、たくさんの幸せを知って欲しい。たくさんの、いろいろな愛を、受け取って欲しい。
 可哀相なほど臆病な、私の愛しい真白。
 このままでは、たくさんの愛に気付けないまま、盲目的に私だけを見つめるだろう。こうして私が言葉を得たとて、真白はどこかで安堵している。私が人ではないことに。
 言葉を恐れる真白。
 人を、恐れる真白。
 真白、恐れなくていい。
 おまえの周りは、たくさんの愛で溢れている。
 それに、おまえ自身で気付くんだ。
 私は、おまえの幸せを願う。
 真白。
 “影艶かげつやは、私の。私に断りなく、どこかへ行くことは許さない。”
 真白。ああ、もちろんだ、真白。
 “ずっと、一緒にいてね。”
 私は真白の。ずっと一緒だ。約束した。
 ずっと一緒。ずっと、見守っている。
 どこにも行かない。
 愛している、真白。
 ずっと、一緒、同じ空の下に、いるから。
 


*つづく*
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