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王城の一室。報告を終え、与えられた部屋で考えていた。
私は処刑される役割。でもただでは死なない。噛ませ犬なんて優しい存在ではなく、ケルベロスになって、ヒロインに瀕死の爪痕を残して死んでやろう、そう思っていた。
影艶に出会った。私の世界が変わる。
死にたくない。影艶と、生きていきたい。
殺られる前に殺る。それが、自分が幸せになるための通過儀礼だと思った。
影艶を奪われかけた。影艶を苦しめた。
自分が幸せになるための通過儀礼?どうでもいい。私の影艶を奪おうと、苦しめた。
殺さないと。
コイツが生きている限り、私の影艶を苦しめる可能性がある。そんな可能性、潰すしかない。私の影艶を苦しめた報いを受けろ。私の手で直々に。
“あんたは私を殺せなかった”
“私の勝ちよ”
“ざまあみなさい”
最期までクソムカツク女だった。
私はあの女を殺せなかった。
殺したくても、もうあの女はいない。
あの女の言う通り、私は負けたのだ。
影艶が、言葉なく寄り添ってくれる。
寝そべる影艶の首に、自分の頭を乗せて考える。
我が儘ばかりで自尊心ばかりが育ちまくったサリュアは、正に悪役令嬢。そして、サリュアを全国民に知らしめる悪役に仕立て上げることになった私も、悪役令嬢を作り上げた悪役令嬢。
悪役令嬢VS悪役令嬢。
死ぬはずではなかったが、最期を自分で選んで笑った者。死ぬはずだったが、目的を果たせず生かされた者。
果たして軍配はどちらに上がったのか。
あれほどこの手で殺すことを望んでいた。それが、目前で絶たれた。よりにもよって、殺したい相手の手によって。最初こそ何が起きたのか理解出来なかった。したくなかった。
だけど。
兄に謝られた。兄が、辛そうな顔をして、謝ったのだ。影艶が、心配そうに私を見つめていた。大切な存在が、そこにいる。元凶はもういない。今あるものを大切にしないでどうする。何に拘る。
そう考えたら、独り善がりの蟠りが解けて消えた。
サリュアは死んだ。
通常罪人は罪人として処理される。だがサリュアは罪人ではあるが、これまでの功績に鑑みて、その遺体は家族の元に返された。本来であれば、千年聖女の葬儀となれば、国を挙げてのものとなっていたはず。これほど静かに終わることなどあり得なかったが、罪状を考えると、この待遇でもかなり厚い恩情と言えた。
刑を嫌がり、逃亡の末、神の御遣いである神獣に天罰を与えられ死亡。
そう、国民には伝えられた。
聖女は神に選ばれた存在。その聖女が、国家転覆という国民を危機に陥れようとしたばかりか、罪を認めず挙げ句逃げ出し、神獣の怒りを買ったのだ、と。千年前の、凄まじい魔法の使い手であった聖女の再来と言われるほどの力を神から授かったにもかかわらず、神の期待に応えなかった千年聖女。慈悲深い聖女の仮面に騙されていた、と国民は怒り、稀代の悪女と呼ぶようになった。
国民は、サリュアに何かされたのだろうか。
国家転覆を謀ったことになってはいても、実際は何も起きていない。何もなかったからいいと言うわけではないが、散々サリュアに頼って助けてもらったのに、あっさりと手のひらを返す。あんな女、国民に嫌われようが何だろうが、どうでもいい。
どれだけ自分を犠牲にしても、どれだけ人のために尽くしても、ひとつ、理想から外れたことをすると、人はあっさり見限る。その落差があればあるほど。
あれほど慕われていた千年聖女。
非常に美しい容姿に、慈悲深い性格。その微笑みは、魔物をも改心させると言わしめる。正に聖女の名に相応しい、素晴らしい方だとみんなに口々に褒め称えられていた千年聖女。それが今では、我欲に溺れた稀代の悪女、仮面聖女。
「影艶。少し、眠りたい」
そう言うと、影艶が全身で私を包んでくれた。
「おやすみ、真白」
影艶の鼻先が、そっと私のおデコに触れた。
*つづく*
私は処刑される役割。でもただでは死なない。噛ませ犬なんて優しい存在ではなく、ケルベロスになって、ヒロインに瀕死の爪痕を残して死んでやろう、そう思っていた。
影艶に出会った。私の世界が変わる。
死にたくない。影艶と、生きていきたい。
殺られる前に殺る。それが、自分が幸せになるための通過儀礼だと思った。
影艶を奪われかけた。影艶を苦しめた。
自分が幸せになるための通過儀礼?どうでもいい。私の影艶を奪おうと、苦しめた。
殺さないと。
コイツが生きている限り、私の影艶を苦しめる可能性がある。そんな可能性、潰すしかない。私の影艶を苦しめた報いを受けろ。私の手で直々に。
“あんたは私を殺せなかった”
“私の勝ちよ”
“ざまあみなさい”
最期までクソムカツク女だった。
私はあの女を殺せなかった。
殺したくても、もうあの女はいない。
あの女の言う通り、私は負けたのだ。
影艶が、言葉なく寄り添ってくれる。
寝そべる影艶の首に、自分の頭を乗せて考える。
我が儘ばかりで自尊心ばかりが育ちまくったサリュアは、正に悪役令嬢。そして、サリュアを全国民に知らしめる悪役に仕立て上げることになった私も、悪役令嬢を作り上げた悪役令嬢。
悪役令嬢VS悪役令嬢。
死ぬはずではなかったが、最期を自分で選んで笑った者。死ぬはずだったが、目的を果たせず生かされた者。
果たして軍配はどちらに上がったのか。
あれほどこの手で殺すことを望んでいた。それが、目前で絶たれた。よりにもよって、殺したい相手の手によって。最初こそ何が起きたのか理解出来なかった。したくなかった。
だけど。
兄に謝られた。兄が、辛そうな顔をして、謝ったのだ。影艶が、心配そうに私を見つめていた。大切な存在が、そこにいる。元凶はもういない。今あるものを大切にしないでどうする。何に拘る。
そう考えたら、独り善がりの蟠りが解けて消えた。
サリュアは死んだ。
通常罪人は罪人として処理される。だがサリュアは罪人ではあるが、これまでの功績に鑑みて、その遺体は家族の元に返された。本来であれば、千年聖女の葬儀となれば、国を挙げてのものとなっていたはず。これほど静かに終わることなどあり得なかったが、罪状を考えると、この待遇でもかなり厚い恩情と言えた。
刑を嫌がり、逃亡の末、神の御遣いである神獣に天罰を与えられ死亡。
そう、国民には伝えられた。
聖女は神に選ばれた存在。その聖女が、国家転覆という国民を危機に陥れようとしたばかりか、罪を認めず挙げ句逃げ出し、神獣の怒りを買ったのだ、と。千年前の、凄まじい魔法の使い手であった聖女の再来と言われるほどの力を神から授かったにもかかわらず、神の期待に応えなかった千年聖女。慈悲深い聖女の仮面に騙されていた、と国民は怒り、稀代の悪女と呼ぶようになった。
国民は、サリュアに何かされたのだろうか。
国家転覆を謀ったことになってはいても、実際は何も起きていない。何もなかったからいいと言うわけではないが、散々サリュアに頼って助けてもらったのに、あっさりと手のひらを返す。あんな女、国民に嫌われようが何だろうが、どうでもいい。
どれだけ自分を犠牲にしても、どれだけ人のために尽くしても、ひとつ、理想から外れたことをすると、人はあっさり見限る。その落差があればあるほど。
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非常に美しい容姿に、慈悲深い性格。その微笑みは、魔物をも改心させると言わしめる。正に聖女の名に相応しい、素晴らしい方だとみんなに口々に褒め称えられていた千年聖女。それが今では、我欲に溺れた稀代の悪女、仮面聖女。
「影艶。少し、眠りたい」
そう言うと、影艶が全身で私を包んでくれた。
「おやすみ、真白」
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