悪役令嬢 VS 悪役令嬢

らがまふぃん

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 「徐々に捜索範囲を広げてはおりますが、相手は千年聖女。魅了が使えないとは言え、油断なりません」
 会議室にて。
 逃がしてしまったことは、痛恨の極みと言わんばかりの兄の表情。まさか、やったことに対して軟禁という軽すぎる刑さえ嫌がるとは、とおじさんたちがざわついている。
 「王太子殿下。殿下はサリュア殿と懇意にしておられた。まさか情が湧いて、などと言うことはありますまいな」
 「私を公私混同する愚か者だと言いたいわけか、ゼルエセルン侯爵」
 「とんでもない。殿下ほどの優秀な方と、この国屈指の護衛がついて逃げられるなどと、誰も思わないでしょう。余程の何かがおありになったのかと」
 狐と狸の化かし合いみたいだよね。貴族とかのやり取りって。
 「余程の、と言うわけではないなあ。単純に本当にうっかりしていたと言うべきかな。彼女が女性であるということを失念していたんだよ」
 意味がわからん。おじさんたちもハテナが浮かんでいる。
 「女性の護衛がいれば良かったよ。生理現象のことまで頭が回らなかったなあ」
 トイレ事情で逃げられた、と。いくら罪人とはいえ、男の護衛がさすがにそこまで配慮しないということはない。おじさんたちも微妙な顔をしている。
 「私の落ち度であることに変わりはない。この面子めんつから逃げるとも思わなかったし、あれほど軽い刑に不服があるとも思わなかった。いや、言い訳だな。失礼。全力で探します。陛下、二週間の猶予をください」
 王様が頷くと、解散となった。
 「わざとあの女が国境の方へ行くように仕向けていませんか」
 会議室を出て私が借りている部屋まで送ってくれた兄にそう言うと、兄が笑った。
 兄は、影艶がいないときは、影艶が戻るまで一緒にいて、色々な話を聞かせてくれる。
 「国外逃亡だなんて、どうなるかわかっているはずなのにねぇ。本当に困っちゃうね」
 いや、そうしているように見せようとしているのは兄だろ。
 「あのバングルにね、私の魔力を込めているから、どこにいるかわかるんだよ。だから安心していいよ、真白」
 マジでチートだな。
 「もう少し泳がせて、もう少し国境に近付いたら動こう。もう少しだよ、真白。もう少しで、真白の憂いを晴らせる」
 兄が私の頬を優しく撫でる。サラリと私の髪を耳にかけると、柔らかく微笑んだ。晒された頬にそっとくちづけ、照れたように笑った。
 私は穏やかに笑う人が好きだ。
 影艶かげつやは狼だけど、私より余程表情豊かだ。いつも私を優しく穏やかな眼差しで見つめてくれている。兄は、出会った頃はともかく、少し前から笑顔に胡散臭さがなくなって、優しく微笑まれることが増えた。
 二人が笑うと、私の心が間違いなく温かくなる。
 心が温かくなる人が、今は二人も、私の近くにいてくれる。
 とても、恵まれた今世だと思う。
 「遅くなってすまない、真白」
 ぼんやりそんなことを考えていると、窓から影艶の声がした。影艶に駆け寄り、思いきりもふる。
 「おかえり、おかえり、影艶」
 「ああ、ただいま、真白」
 顔中を私に擦りつけてくれる影艶に、安堵の息が漏れた。
 「影艶殿、今、今後の話をしようとしていたんだ。少し話そうか」
 「ああ」


*つづく*
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