悪役令嬢 VS 悪役令嬢

らがまふぃん

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 兄の執務室の扉が叩かれた。
 「殿下。ソフィレアイン殿下がお見えです」
 兄はつまらなそうに息を吐いた。
 「いいよ」
 兄の了承の返事に、失礼します、と弟が入ってきた。そして固まる。そうだな。今私は絶賛床ドンされ中。兄も私も慌てる様子すらなく、通常運転。え、おかしなところしかありませんが何か?みたいに弟を見つめる私に、弟は顔を真っ赤にしながら視線を彷徨さまよわせている。
 「どうした、ソフィ」
 兄も普通に話しかける。いや、どけよ。お巫山戯ふざけの時間は終わりだ。
 「ああああああ、あの、兄上、シラユキに、何を」
 動揺が凄い。
 「見ての通りだよ、ソフィ。千年聖女の逃亡先について」
 見ての通り?見ての通り?
 「は、え、あ、そ、うです、か」
 そうですかじゃねえ。騙されんな。
 「リィン様、王子様の反応は面白いですが、とりあえずどいてください。王子様も千年聖女のことで来たんですよね」
 「あ、うん、そうだよ、シラユキ。兄上、国王陛下が戻られました。会議室まで来るように、とのことです」
 兄は私を抱き締めると、起き上がらせてくれた。そしてそのまま抱き上げられる。なぜだ。はよ会議室へ行け。そんな目で見ていると、兄が笑う。
 「いやだな白雪。一緒に行くに決まっているでしょ」
 「私は話すことなどありませんが。状況だってわからないです」
 「だから一緒に聞いてもらうんだよ。色々と・・・対策が出来るでしょう、白雪」
 それもそうか。
 「ほら、危ないからちゃんと私の首に抱きついて」
 言い方。下ろせばいいだろ。どうせ聞いてくれないだろうから言わないけど。抵抗として、首ではなく兄の後ろで束ねられた髪につかまった。
 「そういう一筋縄じゃ行かないところも大好きだよ、白雪」
 そう言って頬にくちづける。謹慎中の頃から兄はよく、好きだと口にする。王妃様の好きは素直に嬉しいと受け止められるのに、兄の好きは、どう捉えたらいいかわからない。何かを意図して言っているのか、ただのペット枠なのか。わからないから考えるのをやめて、そうですか、とだけ返事をしている。
 影艶に声をかけようとして、思い出す。
 そうだ。影艶は今お出かけ中だった。
 弟の誕生パーリーの後くらいからだろうか。影艶が時々一人でフラリと出掛けるようになった。最初は短い時間だったけど、最近では四、五時間は側にいない。聞いてみると、元の姿に戻る時間を作っていると言っていた。
 直感的に、嘘だと思った。
 嘘をかれた、とは思わなかった。
 嘘をかせてしまった、と思った。
 恋人でも出来たのかと誤魔化すように、冗談交じりに聞いてみた。嘘をかせてしまった気まずさから出た言葉に、勝手に心がきしんだ。違うと否定されて、ホッとしてしまった。本当は、本当に恋人が出来たのかも知れない。でも影艶は否定した。だから、まだ側にいても大丈夫。一緒に、いられる。
 私は、何かを、してしまったのではない。
 まだ、私は、側にいても、大丈夫。


*つづく*
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