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「名前」
なんて?
「シラユキの、本当の名前が聞きたい」
本当の名前って。前世の名前が本当の名前ってわけじゃないでしょう。まあ、今世の名前なんて、あってないようなものだから、あながち間違いではないか。
「シラユキも似合っているよ。でも、本当の名前を教えて」
「変な人ですね。もっとあるでしょう。どんな世界だったのかとか、どんな世界だったのかとか、どんな世界だったのかとか」
「全部違いがわからないけれど、そうだね。だけどそんなことより、シラユキのことが知りたい」
そう言うと、兄は影艶を見た。
「ねえ、影艶殿だって知りたいでしょう?」
グルゥ、と肯定するように影艶の喉が鳴る。前世の話は影艶にはしてあった。世間話程度に。でも名前は言っていなかったな。
「別の世界、別の人生の記憶。胡散臭いことこの上ないですけどね」
何を根拠に本当であると判断するのだろう。
「シラユキを見ていると、あり得ると感じてしまう。ふふ、感覚だよ、シラユキ」
直感とか野生の勘とかの類いじゃん。
ひとつ息を吐く。
「真白」
兄が目を丸くした。
「真白、ですよ。別の人生での名前」
尤も、その名前だって、近年呼んでくれる人は家族だけだったけどね。
「ま、しろ」
蕩けるような笑顔を向けられた。
「ああ、なんて美しい。文字は?どんな文字なの?」
首に回された兄の腕を解き、地面にぞりぞりと指で書いた。
「なんて不思議な文字なんだろう。これで、ましろ、と読むのか。真白、真白。ふふ」
何だか兄が、とても嬉しそうだ。
「もしかして、シラユキというのも、この文字で書けるのかい?」
頷いてまた、白雪、とぞりぞりする。
「へえ。この、白、という文字が同じだ。本当の名前に似た名前を使ったんだね」
「いいえ。それは本当に偶々です。物語に出てくる主人公の名前を使いました」
「そう。真白」
ニコニコと兄が呼ぶ。
「何ですか」
「ふふ、真白」
「はい」
「真白」
子どもみたいな人だな、本当に。
影艶が不満そうに喉を鳴らす。影艶を覗き込むと、面白くなさそうに目を細めていた。
「影艶も呼んでくれるの?」
影艶が話をするなんて、考えたこともなかった。話さないのが当然だと思っていたから。
動物はいい。全身で、感情を表わしてくれる。
言葉を話さない。それは嘘をつかないということ。騙さないということ。傷つけないということ。安心出来る、ということ。
でも。
「影艶が、呼んでくれたら嬉しい。影艶との話なら、とても楽しそうだね」
微笑んで、影艶の鼻先にくちづけた。
すると、影艶の喉の辺りが、キラキラとしたかと思うと、影艶の舌が私の唇を舐めた。
「真白。望んでくれて、ありがとう、真白」
ん?
「兄よ。何か言ったかね?」
隣を見ると、兄はなぜか地面に蹲っている。どうした、兄。まあいい。兄は寝ていると言うことは。
「影艶?」
「真白が望んでくれたから、制約が外れた。これで思う存分、おまえを呼べる。真白」
また、ペロリと唇を舐められた。
マジか。驚きすぎた。そんな制約があったのか。他にもありそうだけど、それはまた追々。それにしても、超イケボだよ、影艶さん。
*つづく*
なんて?
「シラユキの、本当の名前が聞きたい」
本当の名前って。前世の名前が本当の名前ってわけじゃないでしょう。まあ、今世の名前なんて、あってないようなものだから、あながち間違いではないか。
「シラユキも似合っているよ。でも、本当の名前を教えて」
「変な人ですね。もっとあるでしょう。どんな世界だったのかとか、どんな世界だったのかとか、どんな世界だったのかとか」
「全部違いがわからないけれど、そうだね。だけどそんなことより、シラユキのことが知りたい」
そう言うと、兄は影艶を見た。
「ねえ、影艶殿だって知りたいでしょう?」
グルゥ、と肯定するように影艶の喉が鳴る。前世の話は影艶にはしてあった。世間話程度に。でも名前は言っていなかったな。
「別の世界、別の人生の記憶。胡散臭いことこの上ないですけどね」
何を根拠に本当であると判断するのだろう。
「シラユキを見ていると、あり得ると感じてしまう。ふふ、感覚だよ、シラユキ」
直感とか野生の勘とかの類いじゃん。
ひとつ息を吐く。
「真白」
兄が目を丸くした。
「真白、ですよ。別の人生での名前」
尤も、その名前だって、近年呼んでくれる人は家族だけだったけどね。
「ま、しろ」
蕩けるような笑顔を向けられた。
「ああ、なんて美しい。文字は?どんな文字なの?」
首に回された兄の腕を解き、地面にぞりぞりと指で書いた。
「なんて不思議な文字なんだろう。これで、ましろ、と読むのか。真白、真白。ふふ」
何だか兄が、とても嬉しそうだ。
「もしかして、シラユキというのも、この文字で書けるのかい?」
頷いてまた、白雪、とぞりぞりする。
「へえ。この、白、という文字が同じだ。本当の名前に似た名前を使ったんだね」
「いいえ。それは本当に偶々です。物語に出てくる主人公の名前を使いました」
「そう。真白」
ニコニコと兄が呼ぶ。
「何ですか」
「ふふ、真白」
「はい」
「真白」
子どもみたいな人だな、本当に。
影艶が不満そうに喉を鳴らす。影艶を覗き込むと、面白くなさそうに目を細めていた。
「影艶も呼んでくれるの?」
影艶が話をするなんて、考えたこともなかった。話さないのが当然だと思っていたから。
動物はいい。全身で、感情を表わしてくれる。
言葉を話さない。それは嘘をつかないということ。騙さないということ。傷つけないということ。安心出来る、ということ。
でも。
「影艶が、呼んでくれたら嬉しい。影艶との話なら、とても楽しそうだね」
微笑んで、影艶の鼻先にくちづけた。
すると、影艶の喉の辺りが、キラキラとしたかと思うと、影艶の舌が私の唇を舐めた。
「真白。望んでくれて、ありがとう、真白」
ん?
「兄よ。何か言ったかね?」
隣を見ると、兄はなぜか地面に蹲っている。どうした、兄。まあいい。兄は寝ていると言うことは。
「影艶?」
「真白が望んでくれたから、制約が外れた。これで思う存分、おまえを呼べる。真白」
また、ペロリと唇を舐められた。
マジか。驚きすぎた。そんな制約があったのか。他にもありそうだけど、それはまた追々。それにしても、超イケボだよ、影艶さん。
*つづく*
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