悪役令嬢 VS 悪役令嬢

らがまふぃん

文字の大きさ
上 下
60 / 117

60

しおりを挟む
 「どこに行くの、シラユキ」
 千年聖女を瀕死にしたのだ。国から追われることになる。さっさと姿を消そう。殺せなかったのは誤算。弟ごと消し飛ばしてやれば良かったのだ。それが出来ない程度には、弟に情があったのだろう。目的を成せないまま追われる身となってしまったことは、己の不甲斐なさからだ。
 ケルベロスに、なれなかった。
 一旦引いて態勢を整えようと影艶かげつやに跨がると、兄がどこか楽しそうな声でそう言った。
 「千年聖女様を害した者です。国に追われる身となりましょう」
 「いいや、シラユキ。千年聖女は魔物に襲われたんだ」
 兄がそう言った。
 「見回りの聖女に、手に負えない魔物がいると呼び出されて急行。他の聖女たちと共になんとか魔物を倒すも、他の聖女を守り、瀕死の重傷。そうだな」
 騒ぎに駆けつけた者たちも大勢いた。そんな周囲に微笑む。
 「は、はい、はい、左様にございます。サリュア様は、聖女たちを守り、名誉の負傷となりました」
 神官長が頭を下げながら告げる。他の者たちも、それに追随すべく頭を下げた。
 「神の使いである神獣をしいする気でいたとは。千年聖女には、本来であれば厳しい罰を受けてもらわねばならん。だが、千年聖女が神の使いを弑するために動いたなど、市井に伝わることなどもってのほか。千年聖女は療養の名目で、半年の自宅謹慎を命じる」
 確かに苦しむ影艶は殺されかけていたように見える。魅了魔法に抗っていたとは、禁忌魔法を知る者にしかわからない。
 「かしこまりました。ここでは何も起きておりません。いつも通りでございます」
 「その通りだ」
 兄がそう言うと、兄を中心に巨大な魔方陣が床に描かれた。この騒ぎを知る者すべてが陣に取り込まれている。その陣が、ゆっくりと天井に向かって浮かび上がる。天井に到達すると、陣は一瞬強く輝き、霧散した。
 誓約魔法。
 何も見ていない。何も知らない。影艶の本来の姿も、私の魔法も、なんにも。今まで通りの日常が営まれていく。この誓いが破られることは、ない。破れる者は、兄よりも優れた魔法の使い手のみ。魔法をかけられた者が、そうでなくてはならない。第三者の干渉は出来ない。ここに、兄より優れた者はいない。
 かなり高度な魔法だと聞く。それをあっさり、それもこれ程の規模で。
 「シラユキ、おいで」
 何事もなかったように微笑む兄。差し伸べられる手に、仕方なく従う。だが今後、あの女サリュアが近くにいて、自分を抑えきれるだろうか。何の大義名分もないまま襲いかかったら、今度こそ追われる身となる。覚悟の上だったし、今回は兄のお陰でそうはならなかっただけ。けれど、追われずに済むなら、それに越したことはないのだ。
 「可哀相に。たった一人の家族を奪われそうになったのに、健気に追われる身になろうとしたの?大丈夫だよ、シラユキ。あんなにも献身的にお務めに励んでいる子に、国はそこまで無慈悲じゃない。安心して?」
 優しい声音で、私を抱き締めて撫でた。どさくさに紛れて私の頭にくちづけている。本当に読めない人だ。私を庇うメリットなんてないだろうに。
 「ご温情に感謝いたします。ですが、それでは他の方々に示しがつきません。なんなりと罰を。甘受いたします」
 「本当に健気な子だね。いいよ、わかった。でも今は思いつかないから、また後でね」
 頬にキスをされた。状況的に、殴り飛ばすことも避けることも出来ないのを見越しただろ、おまえ。しかし長いな。いい加減にしろや。不穏なオーラを感じたのか、渋々と言った様子で、兄が離れる。離れる際に、少し強めに吸われた上に舐められた。鎮まれ、黄金の両手両足。唸るんじゃない、黄金の両手両足。


*つづく*
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王女殿下のモラトリアム

あとさん♪
恋愛
「君は彼の気持ちを弄んで、どういうつもりなんだ?!この悪女が!」 突然、怒鳴られたの。 見知らぬ男子生徒から。 それが余りにも突然で反応できなかったの。 この方、まさかと思うけど、わたくしに言ってるの? わたくし、アンネローゼ・フォン・ローリンゲン。花も恥じらう16歳。この国の王女よ。 先日、学園内で突然無礼者に絡まれたの。 お義姉様が仰るに、学園には色んな人が来るから、何が起こるか分からないんですって! 婚約者も居ない、この先どうなるのか未定の王女などつまらないと思っていたけれど、それ以来、俄然楽しみが増したわ♪ お義姉様が仰るにはピンクブロンドのライバルが現れるそうなのだけど。 え? 違うの? ライバルって縦ロールなの? 世間というものは、なかなか複雑で一筋縄ではいかない物なのですね。 わたくしの婚約者も学園で捕まえる事が出来るかしら? この話は、自分は平凡な人間だと思っている王女が、自分のしたい事や好きな人を見つける迄のお話。 ※設定はゆるんゆるん ※ざまぁは無いけど、水戸○門的なモノはある。 ※明るいラブコメが書きたくて。 ※シャティエル王国シリーズ3作目! ※過去拙作『相互理解は難しい(略)』の12年後、 『王宮勤めにも色々ありまして』の10年後の話になります。 上記未読でも話は分かるとは思いますが、お読みいただくともっと面白いかも。 ※ちょいちょい修正が入ると思います。誤字撲滅! ※小説家になろうにも投稿しました。

やさしい・悪役令嬢

きぬがやあきら
恋愛
「そのようなところに立っていると、ずぶ濡れになりますわよ」 と、親切に忠告してあげただけだった。 それなのに、ずぶ濡れになったマリアナに”嫌がらせを指示した張本人はオデットだ”と、誤解を受ける。 友人もなく、気の毒な転入生を気にかけただけなのに。 あろうことか、オデットの婚約者ルシアンにまで言いつけられる始末だ。 美貌に、教養、権力、果ては将来の王太子妃の座まで持ち、何不自由なく育った箱入り娘のオデットと、庶民上がりのたくましい子爵令嬢マリアナの、静かな戦いの火蓋が切って落とされた。

絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので

ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。 しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。 異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。 異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。 公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。 『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。 更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。 だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。 ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。 モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて―― 奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。 異世界、魔法のある世界です。 色々ゆるゆるです。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

貴方だけが私に優しくしてくれた

バンブー竹田
恋愛
人質として隣国の皇帝に嫁がされた王女フィリアは宮殿の端っこの部屋をあてがわれ、お飾りの側妃として空虚な日々をやり過ごすことになった。 そんなフィリアを気遣い、優しくしてくれたのは年下の少年騎士アベルだけだった。 いつの間にかアベルに想いを寄せるようになっていくフィリア。 しかし、ある時、皇帝とアベルの会話を漏れ聞いたフィリアはアベルの優しさの裏の真実を知ってしまってーーー

【完結】転生したら少女漫画の悪役令嬢でした〜アホ王子との婚約フラグを壊したら義理の兄に溺愛されました〜

まほりろ
恋愛
ムーンライトノベルズで日間総合1位、週間総合2位になった作品です。 【完結】「ディアーナ・フォークト! 貴様との婚約を破棄する!!」見目麗しい第二王子にそう言い渡されたとき、ディアーナは騎士団長の子息に取り押さえられ膝をついていた。王子の側近により読み上げられるディアーナの罪状。第二王子の腕の中で幸せそうに微笑むヒロインのユリア。悪役令嬢のディアーナはユリアに斬りかかり、義理の兄で第二王子の近衛隊のフリードに斬り殺される。 三日月杏奈は漫画好きの普通の女の子、バナナの皮で滑って転んで死んだ。享年二十歳。 目を覚ました杏奈は少女漫画「クリンゲル学園の天使」悪役令嬢ディアーナ・フォークト転生していた。破滅フラグを壊す為に義理の兄と仲良くしようとしたら溺愛されました。 私の事を大切にしてくれるお義兄様と仲良く暮らします。王子殿下私のことは放っておいてください。 ムーンライトノベルズにも投稿しています。 「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

処理中です...