悪役令嬢 VS 悪役令嬢

らがまふぃん

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 「湖っ、湖行こっ、影艶かげつや!」
 久しぶりの自由に、自分の声が弾んでいるのがわかる。影艶もご機嫌に鳴いた。
 「影艶、ついにこの時が来たよ」
 弟と再会する前に出来上がった魔法。次に湖に行くときに試そうと思っていたが、叶わなかった。城に行く前に湖には来たけど、試している場合ではなかったからね。
 「行こう、影艶」
 私と影艶を球体の多重結界で包む。歩くとコロコロと結界もついてくる。大きな透明のボールに入って水の上を歩く遊戯と同じだ。違うのは浮くのではなく、ちゃんと沈むところ。これで湖底の散歩をしてみたかったのだ。水の中なので、沈ませることと、酸素の確保に手間取った。試行錯誤の末、結界の魔物忌避の作用を水を忌避させることで浮力を殺した。酸素は、圧縮してピンポン球サイズの結界内に一時間分の酸素を閉じ込めることに成功。そこから一時間かけて酸素を外に排出する仕様だ。酸素を選り分けるのが大変だったんだよ。この酸素をポケットに五個詰めた。湖畔をゆっくり歩いて三十分程度の湖。万が一を考えて五時間分あれば充分すぎるほど充分だろう。お昼に一旦戻ることを考えて、長くて二時間が精々。午後にまた戻って来て探検の続きをするのもいい。
 湖にゆっくり沈んでいく。影艶が守るように私を全身で包んでくれる。微笑んで影艶のもふもふに抱きついた。あー、ホント癒されるわー。
 少しして湖底についた。影艶が背中に乗れと私を引っ張る。背中に跨がると、影艶が歩き出した。恐ろしく透明度の高い湖だ。湖底からでも空が見える。ゆらゆらと揺れる外の景色が、ひどく幻想的だ。音のない、静かな世界。綺麗すぎる水には、生物は棲めないという。美しいのに、悲しく淋しい世界。
 「綺麗。でも、淋しい世界だね」
 私がそう言うと、影艶が振り返った。戻るか、と言われているようだ。
 「もう少し、見ていたい」
 影艶が再び歩き出す。何もない。静寂だけがある世界に、前世の自分が重なる。けれど、ここには影艶がいる。独りじゃない。前世の自分が慰められているようで、嬉しかった。いつも、ずっと側にいてくれる影艶。
 「いつも、ありがとう、影艶」
 背に跨がりながら、首に抱きつく。嬉しそうに影艶の喉が鳴った。
 しばらく水中散歩を満喫していると、湖が輝きだした。太陽が湖に映り込み始めたようだ。お昼が近い。視界が白くなり始める。
 「これじゃあ何も見えないね。仕方ない、上がろう」
 水の忌避魔法を少しずつ解除していく。湖面に出ると、完全に忌避魔法を解除する。水面をコロコロと歩き、湖畔に上がると、結界魔法も解除した。
 「午後は、思い切り体を動かそう、影艶」
 とても、充実した一日になった。兄のせいで自由が奪われたけど、気遣ってくれていることには一応感謝してやろう。


*つづく*
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