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兄が立ち上がり、コツコツと侯爵たちに近付きながら、冷たく嗤う。
「そもそも呼び出された事案が、おまえたちの娘が見つかったというものだったではないか。最初からおまえたちは、何のことかと我々に問わないことがおかしいのだ」
殺害であれ誘拐であれ、そうなるとメリーはいないはず。いないのに、メイドを身代わりにしたため、いることになっているのだ。いなくなったのはメリーではなく、メイド。ならば何が何でもメリーはいることにしなくてはならなかった。まあ本当に殺していたとしたら、保護されること自体あり得ないから、何のことだ、と言えていただろうけど。そこにも気付けないほど動転しているんだろうね。
「失踪届も出ていない。鑑定にも連れて行っていない。それなのに、いないことに違和感を覚えていない。ならば、やはりおまえたちの次女であるマリー・ブルーエイ嬢はどこへ行った、となるではないか」
兄が侯爵たちの前に立つ。少し前屈みになり、下から侯爵を覗くように、冷たい目が細められる。
「まさか、誘拐自体、おまえたちが企てたのではないだろうな。どこぞに攫って消してくれ、と」
いや、兄よ。何遊んでるの。そんな自作自演なら、私が絶対見つからないことを知っているから失踪届出すでしょ。そうすれば鑑定義務も発生しないし。たとえ見つかっても死体だから、もう不貞の娘に煩わされることもなくなるし。でももう侯爵、考えられないんだろうな。殺人という言葉が重たいんだろう。私を見捨てていた時点でもう殺人に近いんだけどね。直接か間接的かで精神の負担はまったく違うのもわかるけどさ。
でも、そんなに殺人罪はイヤなの?なんか貴族って、人を人とも思っていなさそうっていうか。コソッと弟に聞いてみると、なるほど。何が何でも殺人罪に問われたくないな、それは。
まず、殺人にも階級が存在する。平民が平民を、平民が貴族を、貴族が平民を、貴族が貴族を殺めてしまった場合で、罪がまったく違う。今回は貴族が貴族を、にあたるのだが、まあザックリ言うと、すべて失う。この裁判みたいなもので、赤裸々にすべてを語り、関係ないことまで語らされ、あらゆるすべてが丸裸。恥を晒す上に、財産どころか爵位も没収なんだとか。現在恥を晒していますが、もっともっと私生活に踏み込まれるんだって。そして爵位含む全財産没収、と。それは何が何でも私に縋るわいな。でもそれなら私の扱い、もっとどうにかした方が良かったのではなかろうかと思わなくもない。
「違う!ここにいる!私の娘はここにいる!」
侯爵は震えながら私にジリジリと近付いてくる。うーん、怖い、と言うかキモい。
「殺してなどいない!あの子が、あの子が私たちの娘だ!間違いない!なあ、そうだろう、マリー!」
兄が嗤った。
*つづく*
「そもそも呼び出された事案が、おまえたちの娘が見つかったというものだったではないか。最初からおまえたちは、何のことかと我々に問わないことがおかしいのだ」
殺害であれ誘拐であれ、そうなるとメリーはいないはず。いないのに、メイドを身代わりにしたため、いることになっているのだ。いなくなったのはメリーではなく、メイド。ならば何が何でもメリーはいることにしなくてはならなかった。まあ本当に殺していたとしたら、保護されること自体あり得ないから、何のことだ、と言えていただろうけど。そこにも気付けないほど動転しているんだろうね。
「失踪届も出ていない。鑑定にも連れて行っていない。それなのに、いないことに違和感を覚えていない。ならば、やはりおまえたちの次女であるマリー・ブルーエイ嬢はどこへ行った、となるではないか」
兄が侯爵たちの前に立つ。少し前屈みになり、下から侯爵を覗くように、冷たい目が細められる。
「まさか、誘拐自体、おまえたちが企てたのではないだろうな。どこぞに攫って消してくれ、と」
いや、兄よ。何遊んでるの。そんな自作自演なら、私が絶対見つからないことを知っているから失踪届出すでしょ。そうすれば鑑定義務も発生しないし。たとえ見つかっても死体だから、もう不貞の娘に煩わされることもなくなるし。でももう侯爵、考えられないんだろうな。殺人という言葉が重たいんだろう。私を見捨てていた時点でもう殺人に近いんだけどね。直接か間接的かで精神の負担はまったく違うのもわかるけどさ。
でも、そんなに殺人罪はイヤなの?なんか貴族って、人を人とも思っていなさそうっていうか。コソッと弟に聞いてみると、なるほど。何が何でも殺人罪に問われたくないな、それは。
まず、殺人にも階級が存在する。平民が平民を、平民が貴族を、貴族が平民を、貴族が貴族を殺めてしまった場合で、罪がまったく違う。今回は貴族が貴族を、にあたるのだが、まあザックリ言うと、すべて失う。この裁判みたいなもので、赤裸々にすべてを語り、関係ないことまで語らされ、あらゆるすべてが丸裸。恥を晒す上に、財産どころか爵位も没収なんだとか。現在恥を晒していますが、もっともっと私生活に踏み込まれるんだって。そして爵位含む全財産没収、と。それは何が何でも私に縋るわいな。でもそれなら私の扱い、もっとどうにかした方が良かったのではなかろうかと思わなくもない。
「違う!ここにいる!私の娘はここにいる!」
侯爵は震えながら私にジリジリと近付いてくる。うーん、怖い、と言うかキモい。
「殺してなどいない!あの子が、あの子が私たちの娘だ!間違いない!なあ、そうだろう、マリー!」
兄が嗤った。
*つづく*
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