悪役令嬢 VS 悪役令嬢

らがまふぃん

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 「ああ、違う。言い間違えた。マリー・・・ではなかった。メリー・・・だったよ。ふふ。本当に知らないんだね」
 さすがにシラユキという名ではないと思っていたようですが。
 「騙したな!」
 「騙される内容ではないよ。その様子だと、メリー嬢は虐待によって死亡、かな」
 子どもの名前を知らないのだ。そう思われても仕方がない。あくまでも私とメリーは別人だという前提で話が進む。そのことに、侯爵は半狂乱状態だ。犯してもいない殺人罪を問われているのだ。無理もない。
 「違う違う違う違う!そこの娘が私たちの子だ!その子が私たちの子どもなんだ!」
 「では証拠は?」
 おお。同じ台詞に首絞められとる。
 「あんなに自分の子ではないと主張していたではないか。その主張通り、確かに似ていない。この子は本当にメリーなのか?」
 親だと認めない、と私の容姿を逆手にとっての反撃。
 「旦那様は信じてくださらないけれど!本当にわたくしと旦那様との子なのです、この子は!」
 不貞を疑われています、と叫んでいるようなものですね、夫人。
 「だから証拠だよ、ブルーエイ侯爵夫人。二人の子である証明をしてくれと言っているんだよ」
 それが出来たら私はこんな扱い受けていなかったよね。
 「そ、んな、無茶な」
 「ではシラユキがあなたたちの娘だというなら、なぜシラユキの好きなものを知らない?」
 兄が侯爵たちに背を向け、こちらに戻りながら言葉を重ねる。
 「なぜ、シラユキは自分の名を知らなかったんだ」
 兄の声に、怒りが滲んでいるように感じる。
 「おまえたちさえ覚えていない名だ。シラユキが知るはずもない」
 兄が私のところへ来た。座る私をそっと抱き締める。
 「なぜ、シラユキは、笑わないんだ」
 ギュッと、抱き締められた腕に力が入る。少し、その腕が震えている。怒ってくれているの。気にしてないから、気にしなくていいんだよ、兄。
 「鑑定義務を怠り、国に損害を与えた。長い間義務を怠ったことは、相当な損害を与えたと判断する」
 イケオジの王様が、素敵ボイスでまとめに入った。今年のみならず、毎年鑑定に連れて行っていなかったことになってる。まあその通りだけど。
 「失踪届義務違反に偽証、公文書偽造まで。子は国の宝。それを大人のくだらん事情でその命を蔑ろにしたことも、相応の罰が下ると覚悟せよ」
 連れて行け、と王様が衛兵に合図をすると、二人は項垂れながら大人しく連れて行かれた。
 おお、殺人罪にはしないか。まあそうだね。でもこんなたくさんの耳目の中、えらい恥かいたね、あの二人。貴族は体裁をめっちゃ気にする生き物だからね。社会的に抹殺されたようなものですな。でも殺人罪だともっとヤバいんだろう?貴族怖あ。
 「さて、シラユキ」
 「はい」
 なーにー、王様ー。帰っていい?
 本当なら私はこっそり侯爵家に復讐するつもりだったんだよ。地味にストレス溜まらせて、全員脱毛してくれれば良かっただけ。頭つるつるになってくれれば良かったの。早く帰って元の大きさに戻った影艶かげつやさんに癒されなくちゃ。触り心地は変わらないが、やはりもふもふ感が足りぬ。
 「つらい目に遭ったな。よく、がんばった」
 「ありがとう、ございます」
 何がつらい目かはわからないが、とりあえず礼を言っておく。兄がなぜか離してくれないので、立ち上がれないしお辞儀も出来ぬ。不敬になるのか、これ。
 「殿下、離してください。殿下が邪m、んん、そこにいらっしゃると、お辞儀のひとつも出来ないのですが」
 「うん、そうだね。よくがんばった、シラユキ。いいこいいこ」
 聞く気ねぇな、コイツ。
 抱き締めたままの兄が、そう言って私の頭にくちづける。
 危うく浄化魔法をかけてキレイにするところだった。聖女に認定されたら、候補より自由がなくなるじゃん。あっぶね。
 影艶さんや、噛みついてもいいがここではダメだよ。闇夜にこっそりね。


*つづく*
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