悪役令嬢 VS 悪役令嬢

らがまふぃん

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27 ~ブルーエイ侯爵side~

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 どういうことだ。
 「大至急王城へ。陛下並びに王太子殿下がお待ちです」
 朝食が終わってすぐのことだ。使者がやって来てそんなことを言う。
 頭が回らない。使者は何と言った。五年程前に誘拐された娘が見つかった、と。それから、なんだ。聖女候補、と言ったか。あの娘が。
 「あ、あなた、い、急がないと」
 「わかっている!」
 落ち着こうと煙草に火を着ける。
 そもそもなぜあの娘が誘拐されたことになっている。第二王子殿下が来た日のことは、誤魔化せたはずだ。あの部屋で悲鳴を聞いたと殿下たちは言っていたが、部屋にいたのはメイド。私の長女と勘違いされて攫われたと報告をしたではないか。貴族が誘拐だの失踪だので行方不明になったら失踪届を出さなくてはならない。不貞の子どもなど、表沙汰にさせるわけにいかない。だが今回はメイド。平民が攫われたことにしたから届けも出していなかったんだぞ。それが今頃なんだというのだ。あの王子、まったく信じていなかったということか。なぜ、そこまであの娘に執着するのだ。何があったというのか。
 それに、聖女候補だと?妻を睨みつける。不貞の子どもがまさかの聖女候補。私には関係がないのだ。わざわざ鑑定になど連れて行く必要もない。どうせ表に出ることのない娘だ。鑑定結果の書類を改ざんしていたことがバレてしまう。バレたら義務を怠っていた咎を受けねばならない。なんて忌々しい!
 「どこまでも私に恥をかかせおって!」
 イライラと机を拳で叩く。不貞を働いた時点で追い出されてもおかしくないものを、情けをかけてやったらこれだ。疫病神でしかない女だ。
 「あなたが鑑定に連れて行く必要はないとおっしゃ」
 「私に口答えするのか!」
 妻はグッと口をつぐんで俯く。まったくどこまでも忌々しい!
 「さっさと子どもたちにも用意をさせろっ。一時間後には出る!」



 これは、一体誰だ。
 王城に着いて案内された部屋に入ると、なんと王太子殿下と第二王子殿下がソファに座っていた。そしてもう一人。顎のラインで切り揃えられた金の髪に、赤みの強い紫の瞳をした美しい少女が、二人に挟まれるように座っていた。
 一枚の絵画のように美しい光景だった。
 「ああ、来たね。ご苦労だった、ブルーエイ侯爵殿。夫人もキミたちもね」
 家族たちも見とれていたようで、王太子殿下の声に我に返る。慌てて臣下の礼をとると、王太子殿下は立ち上がった。そしてその美しい少女の手を取り立ち上がらせると、第二王子も一緒に立ち上がる。
 「で、殿下、その方は」
 息子が不敬にも口を開く。私が慌てて注意をすると、二人の王子は微笑んだ。
 「ああ、この子が気になるかい?まあ、その内わかるよ」
 不敬に問われなかったことに安堵する。それにしても、本当にあの令嬢は一体誰なのだろう。確かに美しい。だが、精巧な人形のように表情がない。本当に生きているのだろうか。
 そんなことを思っていると、少女の足下で伏せていた真っ白な犬も立ち上がり、少女に体を擦り寄せた。
 「では行こうか。ああ、キミたちはここにいてくれ。ここの者たちとおしゃべりでもしているといい。その内迎えに来る」
 王太子殿下が扉近くに控えている者たちを示しながら、子どもたちにそう言った。王子たちの側近たちではないか。もしかしたら娘に婚約話でも持ち上がるかも知れないな。だとしたら今ある話を蹴らなくてはいかん。上手くやれよ。そう考えていると。
 「侯爵夫妻は私たちについてくるように」
 王太子殿下は少女の腰に手を回し、その頭にくちづける。その行動に、婚約者であると悟る。少女は王太子殿下を見上げると、何か言ったようだ。その言葉に、王太子殿下が微笑む。驚いた。あんなに柔らかく笑う顔を初めて見た。そんな婚約者同伴で、一体どこへ行こうというのか。
 そんなことを考えていると、宮廷裁判が行われる場所に辿り着く。
 そうか。あの娘のことで呼び出されたのだった。また忌ま忌ましさが込み上げてくる。
 私に責はないと、しっかり主張させてもらわなくては。確かに次女として籍を入れてやった時点で、親としての義務は発生する。だが、いくらでも言い逃れなど出来る。
 あれは、私の子ではないのだから。


*つづく*
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