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「あ、ありがとう」
素直にお礼を言って受け取る弟。黒いと思っていたが、白いな。純粋すぎて直球なだけだな。同族嫌悪ではない、反対だ。その綺麗さが、私には無いものとして嫌悪感に繋がるのか。嫉妬だな。私もまだまだ未熟だ。
「不敬に問うのはやめよう。シラユキで良い。おまえにはその名の方が似合う」
この世界、イケメンは女性を褒めなくてはいけないという法律でもあるのか。
「ではシラユキ、今回のことは、拐かされていた聖女を無事に保護した、という体裁を整えよう」
罰金も牢屋も見逃してやるからカモーン、ということか。
「お言葉ですが殿下、わたくしは聖女ではございません」
兄は笑う。続きを待つように首を僅かに傾げた。本当に面倒くせぇな。
「聖女候補となった者は王族に挨拶をし、神殿でその力を開花させるために研鑽を積む。力を開花させた者が、聖女と認められ、認定の証をその身にいただく。わたくしは、聖女候補としてご挨拶をした記憶もございません。況してこの身に証などいただいてもおりません」
そう言うと、兄は頷いた。
「そう、その通りだ。通常は、ね」
あ、コイツ、ゴリ押しする気だ。
「シラユキの能力は聞いていた。私は聖女で間違いないと認識している」
恒例は恒例。本人の意志関係なしに、国が聖女だと言えば聖女だと。原則があれば、例外もあるということか。何を言っても封じてくるな、これ。自分の思う方向へ事を進めるまで延々とこのやり取り続くぞ。ひとつひとつ論破しても意味ないな。そんな頭もない。逃げても何か面倒なことになりそうだな。私に執着するというより、自分の思い通りにならないことに対して執着しそうでイヤ。
「国のために働く人に自由がないのですね。素晴らしいシステムだ」
嫌味を言ってやった。兄の表情は変わらない。弟は目を見開いている。弟、気付いてなかったんかい。奴隷みたいな制度に。
「少々、お時間いただけますか。すぐかどうかわかりませんがすぐに戻ります」
溜め息と共に覚悟を決めて、そう言った。
「素直な子は好きだよ」
「それはそれは光栄にございます」
ムカツク王子だな。滅べ。
警戒しておくべきだったな。兄が来る前にさっさと逃げれば良かった。
「影艶。あの湖に」
それだけで通じる。背中に跨がると、風のように疾走した。一瞬で王子たちが見えなくなる。影艶に掴まりながら、弟との出会いの話を聞かせた。湖に着くと、影艶は全身で私の体に擦り寄ってくれた。
「ふふ。お陰で影艶に会えたんだ。感謝しかないよ」
影艶は嬉しそうに私の顔中を舐めた。
しばらくここには来られそうもない。影艶と見つけた、お気に入りの場所。周囲をゆっくり歩いても、三十分もかからない小さな湖。驚くほど澄んでいる。底が見えるが、その水深は深い。五十メートルは超える。その中心は、もっと深いかも知れない。
湖畔は真っ白な花が咲き誇り、風に揺れている。湖面を揺らすほどの風ではない。鏡面のようになった湖面に、空が映り込む。空以外に映り込むものがないため、地面に空があるようで、とても不思議な感覚になる。
もふもふをもふりながら、その景色を目に焼き付けるように眺めた。
「影艶」
金色の目が私を映す。
「しばらく不自由をさせる」
気にするな、と言うように体を擦り寄せてくれた。
*つづく*
素直にお礼を言って受け取る弟。黒いと思っていたが、白いな。純粋すぎて直球なだけだな。同族嫌悪ではない、反対だ。その綺麗さが、私には無いものとして嫌悪感に繋がるのか。嫉妬だな。私もまだまだ未熟だ。
「不敬に問うのはやめよう。シラユキで良い。おまえにはその名の方が似合う」
この世界、イケメンは女性を褒めなくてはいけないという法律でもあるのか。
「ではシラユキ、今回のことは、拐かされていた聖女を無事に保護した、という体裁を整えよう」
罰金も牢屋も見逃してやるからカモーン、ということか。
「お言葉ですが殿下、わたくしは聖女ではございません」
兄は笑う。続きを待つように首を僅かに傾げた。本当に面倒くせぇな。
「聖女候補となった者は王族に挨拶をし、神殿でその力を開花させるために研鑽を積む。力を開花させた者が、聖女と認められ、認定の証をその身にいただく。わたくしは、聖女候補としてご挨拶をした記憶もございません。況してこの身に証などいただいてもおりません」
そう言うと、兄は頷いた。
「そう、その通りだ。通常は、ね」
あ、コイツ、ゴリ押しする気だ。
「シラユキの能力は聞いていた。私は聖女で間違いないと認識している」
恒例は恒例。本人の意志関係なしに、国が聖女だと言えば聖女だと。原則があれば、例外もあるということか。何を言っても封じてくるな、これ。自分の思う方向へ事を進めるまで延々とこのやり取り続くぞ。ひとつひとつ論破しても意味ないな。そんな頭もない。逃げても何か面倒なことになりそうだな。私に執着するというより、自分の思い通りにならないことに対して執着しそうでイヤ。
「国のために働く人に自由がないのですね。素晴らしいシステムだ」
嫌味を言ってやった。兄の表情は変わらない。弟は目を見開いている。弟、気付いてなかったんかい。奴隷みたいな制度に。
「少々、お時間いただけますか。すぐかどうかわかりませんがすぐに戻ります」
溜め息と共に覚悟を決めて、そう言った。
「素直な子は好きだよ」
「それはそれは光栄にございます」
ムカツク王子だな。滅べ。
警戒しておくべきだったな。兄が来る前にさっさと逃げれば良かった。
「影艶。あの湖に」
それだけで通じる。背中に跨がると、風のように疾走した。一瞬で王子たちが見えなくなる。影艶に掴まりながら、弟との出会いの話を聞かせた。湖に着くと、影艶は全身で私の体に擦り寄ってくれた。
「ふふ。お陰で影艶に会えたんだ。感謝しかないよ」
影艶は嬉しそうに私の顔中を舐めた。
しばらくここには来られそうもない。影艶と見つけた、お気に入りの場所。周囲をゆっくり歩いても、三十分もかからない小さな湖。驚くほど澄んでいる。底が見えるが、その水深は深い。五十メートルは超える。その中心は、もっと深いかも知れない。
湖畔は真っ白な花が咲き誇り、風に揺れている。湖面を揺らすほどの風ではない。鏡面のようになった湖面に、空が映り込む。空以外に映り込むものがないため、地面に空があるようで、とても不思議な感覚になる。
もふもふをもふりながら、その景色を目に焼き付けるように眺めた。
「影艶」
金色の目が私を映す。
「しばらく不自由をさせる」
気にするな、と言うように体を擦り寄せてくれた。
*つづく*
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