悪役令嬢 VS 悪役令嬢

らがまふぃん

文字の大きさ
上 下
10 / 117

10 ~ソフィレアインside~

しおりを挟む
 私、ソフィレアイン・ベルデシェラ・ダリアンは、ダリアン王国の第二王子として生を受けた。
 以前、お忍びで街に出たとき、不思議な少女と出会った。
 その少女ともっと関わりを持ちたくて、良くないとはわかっていたが、家を調べさせて訪ねた。ブルーエイ侯爵家の次女だった。少女はシラユキと名乗っていた。侯爵家を訪ねたその日、シラユキは何者かに攫われた。
 ブルーエイ侯爵邸からシラユキが姿を消して、ひと月。
 シラユキなどいないと突っぱねていた侯爵家は確かに正しい。彼女の名前はシラユキではなかったからだ。何故彼女は私に嘘の名を伝えたのか。突然現れた見知らぬ人間に、警戒しない方がおかしいか。本当に理由がそれであればいいが。
 「なんだ、まだ探しているのか」
 気分を変えようと、裏庭のベンチで資料片手ににらめっこをしていると、ひとつ上の兄、王太子であるウェンリアインが声をかけてきた。
 「兄上」
 立ち上がって頭を下げると、いい、と手をひらひらさせて、自分が座っていたベンチに座る。隣に座るよう促され、もう一度頭を下げて座る。兄上とは身長こそ差はあるが、双子のようにそっくりだとよく言われる。ただ、似ているのは外見だけ。頭の中身は残念なほど似ていない。優秀すぎる兄。一を言えば十を知るどころではない。二十も三十も知る。
 「年の頃は十くらいだったか」
 私の持つ資料を横からヒョイと眺めつつ、そう言った。私ははいと頷くと、兄は考える仕草をした。
 「幼い聖女ねぇ。確かに覚えがない。ブルーエイ家が優秀な聖女を隠したか?いや、そんなことをするメリットは何だ」
 考えをまとめるように呟く兄を見る。そう、聖女を隠すメリットなどない。聖女を輩出した家は、国から褒賞が出る。聖女が生きている限り、その家には定期的に安くはない金額が払われ続ける。反対に、聖女を隠すと、国に損害を与えたと見做され、罪に問われるのだ。だが、ブルーエイ家から、シラユキの失踪届が出ていない。貴族がいなくなると失踪届の義務が発生するが、平民は義務ではない。となると、彼女は貴族ではない。使用人だったのだろうか。
 「ブルーエイ家に子どもの使用人はいない。そうなると、やはりブルーエイ家の次女で間違いなさそうだが」
 兄の続く呟きに、視線を落とす。事実、届は出ていない。シラユキという名の少女も存在しない。ブルーエイ家の次女に会えれば一番早い。しかし、会う口実がない。王族が軽々しく令嬢を訪ねることは出来ない。どんな誤解を招くかわからないからだ。以前訪ねた理由も危うくはあったのだが。
 「兄上、隠したわけではなさそうです。知らなかったようです」
 「知らない?」
 目を丸くする兄に、頷いた。
 あれからもっと深く調べた。どうもシラユキはあの部屋に閉じ込められ、いない者として扱われていたようだ。ブルーエイ夫人の不貞が疑われた子どもらしいと。確かにあの一族は、青系の色味を持つ。シラユキだけ、色彩が違う。
 「どうも、冷遇されていたようです」
 そう言うと兄は、ああ、と思いついたように頷く。
 「金の髪に紫の目と言っていたか。不貞でも疑われていたのか」
 本当に優秀な人だ。思わず苦笑いしてしまう。
 「そうであれば、ますます隠す意味がわからなくなる。さっさと手放してその恩恵だけを甘受すればいい」
 そうなると、本当に知らなかったのだろうな、と鼻を鳴らした。
 「不貞の事実を知られたくなかったか。その姿が露見すれば、嫌でもそういう目で見られる。だから届も出さなかったか。子どものことより体裁を重んじたか」
 冷遇されていたことを考えると、あり得なくはない。
 「知らないとなると、鑑定にも連れて行っていないな。毎年のものは偽造だ」
 兄の言葉に驚く。何ということをしているのだ。そこまで体裁が大事か。
 「彼女のせいではないだろうに。もしかすると、自ら出て行ったのかも知れないな」
 このことは、彼女が見つかるまで私たちの胸にしまっておこう、兄はそう言って立ち去った。
 「シラユキ、自ら?」
 兄の言うことが事実なら、あり得ない話ではない。自ら身を隠しているのであれば、探すのは容易ではない。彼女自身、自分を知る者に会いたくないかも知れない。
 そうだとしても。
 「もう一度、話がしてみたいんだ、シラユキ」


*つづき*
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王女殿下のモラトリアム

あとさん♪
恋愛
「君は彼の気持ちを弄んで、どういうつもりなんだ?!この悪女が!」 突然、怒鳴られたの。 見知らぬ男子生徒から。 それが余りにも突然で反応できなかったの。 この方、まさかと思うけど、わたくしに言ってるの? わたくし、アンネローゼ・フォン・ローリンゲン。花も恥じらう16歳。この国の王女よ。 先日、学園内で突然無礼者に絡まれたの。 お義姉様が仰るに、学園には色んな人が来るから、何が起こるか分からないんですって! 婚約者も居ない、この先どうなるのか未定の王女などつまらないと思っていたけれど、それ以来、俄然楽しみが増したわ♪ お義姉様が仰るにはピンクブロンドのライバルが現れるそうなのだけど。 え? 違うの? ライバルって縦ロールなの? 世間というものは、なかなか複雑で一筋縄ではいかない物なのですね。 わたくしの婚約者も学園で捕まえる事が出来るかしら? この話は、自分は平凡な人間だと思っている王女が、自分のしたい事や好きな人を見つける迄のお話。 ※設定はゆるんゆるん ※ざまぁは無いけど、水戸○門的なモノはある。 ※明るいラブコメが書きたくて。 ※シャティエル王国シリーズ3作目! ※過去拙作『相互理解は難しい(略)』の12年後、 『王宮勤めにも色々ありまして』の10年後の話になります。 上記未読でも話は分かるとは思いますが、お読みいただくともっと面白いかも。 ※ちょいちょい修正が入ると思います。誤字撲滅! ※小説家になろうにも投稿しました。

絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので

ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。 しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。 異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。 異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。 公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。 『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。 更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。 だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。 ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。 モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて―― 奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。 異世界、魔法のある世界です。 色々ゆるゆるです。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

貴方だけが私に優しくしてくれた

バンブー竹田
恋愛
人質として隣国の皇帝に嫁がされた王女フィリアは宮殿の端っこの部屋をあてがわれ、お飾りの側妃として空虚な日々をやり過ごすことになった。 そんなフィリアを気遣い、優しくしてくれたのは年下の少年騎士アベルだけだった。 いつの間にかアベルに想いを寄せるようになっていくフィリア。 しかし、ある時、皇帝とアベルの会話を漏れ聞いたフィリアはアベルの優しさの裏の真実を知ってしまってーーー

【完結】転生したら少女漫画の悪役令嬢でした〜アホ王子との婚約フラグを壊したら義理の兄に溺愛されました〜

まほりろ
恋愛
ムーンライトノベルズで日間総合1位、週間総合2位になった作品です。 【完結】「ディアーナ・フォークト! 貴様との婚約を破棄する!!」見目麗しい第二王子にそう言い渡されたとき、ディアーナは騎士団長の子息に取り押さえられ膝をついていた。王子の側近により読み上げられるディアーナの罪状。第二王子の腕の中で幸せそうに微笑むヒロインのユリア。悪役令嬢のディアーナはユリアに斬りかかり、義理の兄で第二王子の近衛隊のフリードに斬り殺される。 三日月杏奈は漫画好きの普通の女の子、バナナの皮で滑って転んで死んだ。享年二十歳。 目を覚ました杏奈は少女漫画「クリンゲル学園の天使」悪役令嬢ディアーナ・フォークト転生していた。破滅フラグを壊す為に義理の兄と仲良くしようとしたら溺愛されました。 私の事を大切にしてくれるお義兄様と仲良く暮らします。王子殿下私のことは放っておいてください。 ムーンライトノベルズにも投稿しています。 「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

次こそあなたと幸せになると決めたのに…中々うまくいきません

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のシャレルは、第二王子のジョーンによって無実の罪で投獄されてしまう。絶望の中彼女を救ってくれたのは、ずっと嫌われていると思っていた相手、婚約者で王太子のダーウィンだった。 逃亡生活を送る中、お互い思い合っていたのにすれ違っていた事に気が付く2人。すれ違った時間を取り戻すかのように、一気に距離を縮めていく。 全てを失い絶望の淵にいたシャレルだったが、ダーウィンとの逃避行の時間は、今まで感じた事のないほど、幸せな時間だった。 新天地マーラル王国で、ダーウィンとの幸せな未来を思い描きながら、逃避行は続く。 そしていよいよ、あと少しでマーラル国というところまで来たある日、彼らの前にジョーンが現れたのだ。 天国から地獄に叩き落されたシャレルは、絶望の中生涯の幕を下ろしたはずだったが… ひょんなことから、ダーウィンと婚約を結んだ8歳の時に、戻っていた。 2度目の人生は、絶対にダーウィンと幸せになってみせる、そう決意したシャレルだったが、そううまくはいかず、次第に追い詰められていくのだった。 ※シャレルとダーウィンが幸せを掴むかでのお話しです。 ご都合主義全開ですが、どうぞよろしくお願いします。 カクヨムでも同時投稿しています。

処理中です...