9 / 117
9
しおりを挟む
自分とは正反対の主人公。自分にはないものを持つ人々。自分は決してその人たちのようにはなれない。人を信じ、人を愛し、人に愛される。
私は何かが欠けている。
憧れるのに。眩しいと思うのに。羨ましいと、焦がれるのに。
現実を見ると、急に冷める。
心がスウッと冷めていく。
誰にも興味を持てない自分は、
きっと、淋しい、
欠陥品に
違いない。
――ちゃんのうそつき!だいっきらい!
あのねえ、そういうのが人と違ってカッコイイとか思うかも知れないけど、目立ちたいっていうだけで、和を乱すのはやめて欲しいの。
何それ。知識ひけらかして何なの?――ってホント感じ悪い。
――さん。何度言えばわかるのかしら。あなたこの仕事向いてないんじゃない?
ホント何考えているかわからない。気持ち悪いのよあんた。
「うるせぇバーカ」
何をやっても裏目に出る人生だった。良かれと思ってやれば嫌われ、考えずにやれば疎まれる。やれと言われてやれば嗤われ、やらなければ罵倒される。聞かれたことに答えれば文句を言われ、答えなければ馬鹿にされる。表情がないと怒られ、何を考えているかわからないと呆れられ、それだから親しい友人一人いないと、すべてを否定され続けた。
何が悪いのかわからない。みんなと同じようにやっても、自分だけがみんなと違うと言われる。異端だと非難される。小さい頃は、そんなことはなかった。寧ろ好かれていたように思う。けれど成長するにつれ、徐々にそうなっていった。
いつしか私は人に対して何の感情も持てなくなった。
でも動物は違う。全身で感情を表わしてくれる。何をすれば喜び、何をすると嫌がるのか。好きも嫌いもわかり易い。だから一緒にいると、とても心が安らいだ。ペット禁止のアパートだったため、一緒に暮らすことは出来なかった。そのため、犬カフェや猫カフェ、動物園などに、よく行った。
ある日のことだ。男の子が子犬を散歩中、その子犬のリードが手から離れてしまったのだろう。子犬は走り出した。慌てて追いかける男の子。子犬が道路に飛び出した。何も考えず、咄嗟にその子犬を助けに体が動くくらいには、動物が好きだった。あの子犬はどうなっただろう。私は、助けることが出来たのだろうか。助けられていたらいいな。
諦めて、すべてが面倒になった。だから、もし生まれ変われるのなら、言葉を必要としない動物に生まれたかった。それが叶わないなら、もう生まれ変わらなくて良かったのに。
「どうして私はまた、人に生まれたんだろう」
憧れの転生ライフ。誰からも愛されて幸せいっぱいです、という様相をしていたら、異世界転生ひゃっほう、となっていたはず、なんて。本当はわかっている。そんな問題ではない。心の問題なのだ。
影艶に守るように包まれていた私は、その首筋に顔を埋めながら呟く。影艶が鼻先で頭を撫でてくれる。その行為に、どうしようもなく満たされる。
淋しい。
確かに私は淋しいのだ。
けれど、人に温もりを求めていない。
それも、確かだった。
「影艶。ずっと、一緒にいてね」
首に抱きつき、より顔を埋めながら願う。
影艶は、当然だと言うように、その頬を頭に擦り寄せた。
そのまま眠りについた私の顔を、慈しむように舌先で舐めてくれていたことに気付かなかった私は、幸せな夢を見たように思う。
*つづく*
私は何かが欠けている。
憧れるのに。眩しいと思うのに。羨ましいと、焦がれるのに。
現実を見ると、急に冷める。
心がスウッと冷めていく。
誰にも興味を持てない自分は、
きっと、淋しい、
欠陥品に
違いない。
――ちゃんのうそつき!だいっきらい!
あのねえ、そういうのが人と違ってカッコイイとか思うかも知れないけど、目立ちたいっていうだけで、和を乱すのはやめて欲しいの。
何それ。知識ひけらかして何なの?――ってホント感じ悪い。
――さん。何度言えばわかるのかしら。あなたこの仕事向いてないんじゃない?
ホント何考えているかわからない。気持ち悪いのよあんた。
「うるせぇバーカ」
何をやっても裏目に出る人生だった。良かれと思ってやれば嫌われ、考えずにやれば疎まれる。やれと言われてやれば嗤われ、やらなければ罵倒される。聞かれたことに答えれば文句を言われ、答えなければ馬鹿にされる。表情がないと怒られ、何を考えているかわからないと呆れられ、それだから親しい友人一人いないと、すべてを否定され続けた。
何が悪いのかわからない。みんなと同じようにやっても、自分だけがみんなと違うと言われる。異端だと非難される。小さい頃は、そんなことはなかった。寧ろ好かれていたように思う。けれど成長するにつれ、徐々にそうなっていった。
いつしか私は人に対して何の感情も持てなくなった。
でも動物は違う。全身で感情を表わしてくれる。何をすれば喜び、何をすると嫌がるのか。好きも嫌いもわかり易い。だから一緒にいると、とても心が安らいだ。ペット禁止のアパートだったため、一緒に暮らすことは出来なかった。そのため、犬カフェや猫カフェ、動物園などに、よく行った。
ある日のことだ。男の子が子犬を散歩中、その子犬のリードが手から離れてしまったのだろう。子犬は走り出した。慌てて追いかける男の子。子犬が道路に飛び出した。何も考えず、咄嗟にその子犬を助けに体が動くくらいには、動物が好きだった。あの子犬はどうなっただろう。私は、助けることが出来たのだろうか。助けられていたらいいな。
諦めて、すべてが面倒になった。だから、もし生まれ変われるのなら、言葉を必要としない動物に生まれたかった。それが叶わないなら、もう生まれ変わらなくて良かったのに。
「どうして私はまた、人に生まれたんだろう」
憧れの転生ライフ。誰からも愛されて幸せいっぱいです、という様相をしていたら、異世界転生ひゃっほう、となっていたはず、なんて。本当はわかっている。そんな問題ではない。心の問題なのだ。
影艶に守るように包まれていた私は、その首筋に顔を埋めながら呟く。影艶が鼻先で頭を撫でてくれる。その行為に、どうしようもなく満たされる。
淋しい。
確かに私は淋しいのだ。
けれど、人に温もりを求めていない。
それも、確かだった。
「影艶。ずっと、一緒にいてね」
首に抱きつき、より顔を埋めながら願う。
影艶は、当然だと言うように、その頬を頭に擦り寄せた。
そのまま眠りについた私の顔を、慈しむように舌先で舐めてくれていたことに気付かなかった私は、幸せな夢を見たように思う。
*つづく*
23
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説

王女殿下のモラトリアム
あとさん♪
恋愛
「君は彼の気持ちを弄んで、どういうつもりなんだ?!この悪女が!」
突然、怒鳴られたの。
見知らぬ男子生徒から。
それが余りにも突然で反応できなかったの。
この方、まさかと思うけど、わたくしに言ってるの?
わたくし、アンネローゼ・フォン・ローリンゲン。花も恥じらう16歳。この国の王女よ。
先日、学園内で突然無礼者に絡まれたの。
お義姉様が仰るに、学園には色んな人が来るから、何が起こるか分からないんですって!
婚約者も居ない、この先どうなるのか未定の王女などつまらないと思っていたけれど、それ以来、俄然楽しみが増したわ♪
お義姉様が仰るにはピンクブロンドのライバルが現れるそうなのだけど。
え? 違うの?
ライバルって縦ロールなの?
世間というものは、なかなか複雑で一筋縄ではいかない物なのですね。
わたくしの婚約者も学園で捕まえる事が出来るかしら?
この話は、自分は平凡な人間だと思っている王女が、自分のしたい事や好きな人を見つける迄のお話。
※設定はゆるんゆるん
※ざまぁは無いけど、水戸○門的なモノはある。
※明るいラブコメが書きたくて。
※シャティエル王国シリーズ3作目!
※過去拙作『相互理解は難しい(略)』の12年後、
『王宮勤めにも色々ありまして』の10年後の話になります。
上記未読でも話は分かるとは思いますが、お読みいただくともっと面白いかも。
※ちょいちょい修正が入ると思います。誤字撲滅!
※小説家になろうにも投稿しました。

やさしい・悪役令嬢
きぬがやあきら
恋愛
「そのようなところに立っていると、ずぶ濡れになりますわよ」
と、親切に忠告してあげただけだった。
それなのに、ずぶ濡れになったマリアナに”嫌がらせを指示した張本人はオデットだ”と、誤解を受ける。
友人もなく、気の毒な転入生を気にかけただけなのに。
あろうことか、オデットの婚約者ルシアンにまで言いつけられる始末だ。
美貌に、教養、権力、果ては将来の王太子妃の座まで持ち、何不自由なく育った箱入り娘のオデットと、庶民上がりのたくましい子爵令嬢マリアナの、静かな戦いの火蓋が切って落とされた。

絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので
ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。
しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。
異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。
異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。
公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。
『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。
更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。
だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。
ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。
モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて――
奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。
異世界、魔法のある世界です。
色々ゆるゆるです。
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
貴方だけが私に優しくしてくれた
バンブー竹田
恋愛
人質として隣国の皇帝に嫁がされた王女フィリアは宮殿の端っこの部屋をあてがわれ、お飾りの側妃として空虚な日々をやり過ごすことになった。
そんなフィリアを気遣い、優しくしてくれたのは年下の少年騎士アベルだけだった。
いつの間にかアベルに想いを寄せるようになっていくフィリア。
しかし、ある時、皇帝とアベルの会話を漏れ聞いたフィリアはアベルの優しさの裏の真実を知ってしまってーーー
【完結】転生したら少女漫画の悪役令嬢でした〜アホ王子との婚約フラグを壊したら義理の兄に溺愛されました〜
まほりろ
恋愛
ムーンライトノベルズで日間総合1位、週間総合2位になった作品です。
【完結】「ディアーナ・フォークト! 貴様との婚約を破棄する!!」見目麗しい第二王子にそう言い渡されたとき、ディアーナは騎士団長の子息に取り押さえられ膝をついていた。王子の側近により読み上げられるディアーナの罪状。第二王子の腕の中で幸せそうに微笑むヒロインのユリア。悪役令嬢のディアーナはユリアに斬りかかり、義理の兄で第二王子の近衛隊のフリードに斬り殺される。
三日月杏奈は漫画好きの普通の女の子、バナナの皮で滑って転んで死んだ。享年二十歳。
目を覚ました杏奈は少女漫画「クリンゲル学園の天使」悪役令嬢ディアーナ・フォークト転生していた。破滅フラグを壊す為に義理の兄と仲良くしようとしたら溺愛されました。
私の事を大切にしてくれるお義兄様と仲良く暮らします。王子殿下私のことは放っておいてください。
ムーンライトノベルズにも投稿しています。
「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる