悪役令嬢 VS 悪役令嬢

らがまふぃん

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5 ~ソフィレアインside~

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 見たことのない魔法だった。結界魔法だということはわかったのだが、そんな使い方を見たことがなかった。
 ちょっとしたお忍びで、城下町を散策中のことだった。女性の悲鳴が聞こえたので、護衛たちと共にその場所へ急ぐ。すると、薄い金色の髪を短く切り揃えた美しい少女がそこにはいた。少女を助けようとしたが、悲鳴のぬしではなかったようだ。もう一人いた女性を守るように、少女が魔法を使ったからだ。その魔法が、結界魔法。結界魔法が使えるということは、聖女だ。あの幼さで、もう聖女として務めを果たしているのか。いや、そんなはずはない。聖女候補に挙がる者たちは、必ず王族に挨拶に来る。全員を覚えているわけではないが、あの幼さであれば、嫌でも目につく。つまり彼女は聖女候補ではない。それなのに、聖女と認められる一つ、結界魔法を使って見せた。護衛たちは結界魔法だとわからなかったようだが。
 どういうことだ。
 「ロイ、あの子を調べろ」
 姿の見えない影にそう呟く。夜までには彼女の素性がわかるだろう。
 「すごいね。そんな魔法、初めて見た」
 声をかけて反応を見る。
 「そうですか?あの娘さんが無事で良かったです。ではわたくしはこれで」
 狼狽うろたえる様子のない彼女に、違和感を覚える。あれ程の魔法を当然の様に使い、隠す様子さえない。あんな魔法、王宮の魔導師にだって出来ない。それなのに、それを惜しげもなく人前で披露するとは。彼女は一体何者なのか。
 「待って!」
 行ってしまう。そう思ったら、咄嗟に引き止めていた。制止を聞かず、そのまま去ってしまうかと思ったら、意外にも彼女は振り返ってくれた。
 「また、会えるかな」
 そう口からこぼれた。
 「会えるといいですねー」
 声は弾んでいるのに、表情筋が動いていない。何だろう。本音か建て前かわからない。
 「来週。来週のこの時間、また、ここで」
 次の約束をしたくなった。
 「まあ、よろしいのですか?それでは楽しみにしておりますわ」
 やはり顔と声が一致しない。面白い。
 「本当?来なかったら家に行くよ?迎えに行くよ?」
 思わずそう言っていた。
 「はい。必ず参ります」
 そうだ。名前を。
 「私はソフィレアイン。名を。キミの名を教えてくれ」
 「当ててください」
 面食らった。十二年の人生で、一番難しい問いだ。
 「ふふ。随分変わった子だね、キミ」
 「白雪です」
 考える間も与えない、だと?そして、聞いたことのない不思議な音の名だ。
 「シラ、ユキ?変わった名前だね。でも、とてもキミに似合っている。シラユキ」
 そう言って微笑むが、シラユキの表情はやはり変わらなかった。
 「またね、シラユキ」
 「はい、また来週」
 そう言って、無表情のまま手を振ってくれた。
 言葉遣いが平民より丁寧で、貴族のように嫌らしさがない。短い髪からして貴族ではなく裕福な平民、と言ったところだろうか。だが、その家が聖女を隠す意味がわからない。聖女を隠匿すると罪になる。知らないはずがない。隠すなら、こんなところで魔法など使わせるはずがない。
 なんて不思議な少女。もっと彼女を知りたい。


*つづく*
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