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サファ帝国編 *片思い?*
前編
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新しい話始めました。
今回は、ひとつの世界観の元、各国でひっそり育まれた?愛にスポットをあてています。
最初に世界観をお読みいただきましたら、あとはどの章からお読みいただいても差し支えありません。
どのような内容かは、章の横にサブタイトルのようについたタグでご判断ください。
*~*~*~*~*
大陸の覇者、サファ帝国。広大な地を持ち、驚異的な軍事力で大陸を支配してきた。領土の三分の一が砂漠であるが故か、水の女神クアを深く信仰していた。
今帝の二代前から領土を広げることを止め、国政に力を入れるようになった。様々な国を併呑した結果、多種多様な文化が花開き、目覚ましい発展をし続けている。
今帝カナンは、浅黒い肌に輝く金色の髪、深い青色の鋭い目をした美丈夫だ。太陽王と呼ばれ、自国民から熱烈な支持を受けている。だが齢三十を疾うに超えているというのに、一向に花嫁を迎える気配のない帝王カナンに、周囲はやきもきしていた。
「王、カナン王。どうか花嫁を。次代にあなた様の血をお残しください」
宰相の言葉に、カナンは顔を顰める。
「王の素質は血ではない。花嫁など必要なかろう」
サファ帝国の王は、神の声を聞く者の中から選ばれる。血を繋げたところで、子や孫が神の声を聞けるかどうかなどわからない。
「王の血を継ぐ者が欲しいのです。あなた様の優秀な血を残してはくださらないのですか」
軍の最高指揮官も困ったように眉を下げる。
カナンはサファ帝国史上、最も優秀だと言われている。政治をさせれば、一つの政策で三つも四つも効果を生み、魔物の討伐に向かえば、誰一人傷つくことなく帰還する。王にならなくとも、その血を受け継ぐ者を欲することは当然と言えよう。だが、カナンは決して首を縦に振らない。なぜなら。
「水の女神クア、私の呼びかけに応えて欲しい。女神クア、私の女神」
信仰の女神、クアを心から愛しているからだった。
カナンは非常に敬虔な女神信仰者であった。物心ついた頃から既に女神は身近な存在であった。女神と交信するため、毎日の禊ぎや祈りは欠かすことがない。穢れを落として真っ新な自分となり、神と交信するひとときが、カナンにとって極上の幸せの時間だった。以前は姿を見せてくれていたのだが、成長するにつれ、クアは声だけを届けるようになった。
ある日、それに耐えきれなくなったカナンは、クアに激情をぶつけた。
「クア、女神クア、お願いだ、一目でいい。姿を見せてください。クア、私のクア」
一晩中泣きながら懇願し、夜が明ける頃には涙も声も枯れ果てていた。それでも、血を吐くように、吐息だけで懇願し続けるカナンに、ようやくクアは姿を顕す。その姿に、枯れたと思っていた涙が再び溢れた。その姿を一秒でも長く目に焼き付けようと、瞬きすら惜しんで凝視するカナンに、クアは呆れたように溜め息をついた。
「おまえに会うと、襲われそうで嫌なんだよ」
「否定はしません」
掠れた声できっぱり言い切るカナンに、クアは嫌そうな顔をした。
「どうすればあなたの伴侶になれる?どうすればあなたは私を欲してくれる?教えてくれ、クア。私の女神」
「おまえ、なぜそこまで私に拘る。現実に目を向けろ」
水の気配漂う静謐な空気を纏う、美しい、少女のような女神。
「あなたはここにいる。現実だ。私はあなたを初めて見たときから夢中です」
「もうさあ、眷属にしちゃえばあ?」
精霊神セレスティナが言う。
「あーんなに愛されてるのに、何が不満なのよあんた」
不満なんてない。
「おまえはあんなに一途に想われることはなさそうだな、セレス」
セレスティナの言葉に、ifという風変わりな男が口を挟む。セレスティナはそんなことないもんと、涙目になっている。
「百回」
ボソリと呟くクアの言葉に、二人はクアを見た。
「百回、生まれ変わっても、気持ちが変わらなかったら、考えてもいい」
セレスティナは呆れたように溜め息をついた。
「これはまた随分。まあ、それぞれだしな」
ifはそう言って姿を消した。
「あんたがそう決めたならあたしが言うことじゃないしね」
セレスティナも消えた。
「だって」
怖いのだ。あの一途さが。あんなに想ってもらえるようなもの、自分は何も持っていない。
「なにも、ないんだ。カナン」
だから、どうか。
おまえに相応しい愛を、見つけて欲しい。
せめて、おまえの最期のときは、私が迎えに行くから。
*後編につづく*
今回は、ひとつの世界観の元、各国でひっそり育まれた?愛にスポットをあてています。
最初に世界観をお読みいただきましたら、あとはどの章からお読みいただいても差し支えありません。
どのような内容かは、章の横にサブタイトルのようについたタグでご判断ください。
*~*~*~*~*
大陸の覇者、サファ帝国。広大な地を持ち、驚異的な軍事力で大陸を支配してきた。領土の三分の一が砂漠であるが故か、水の女神クアを深く信仰していた。
今帝の二代前から領土を広げることを止め、国政に力を入れるようになった。様々な国を併呑した結果、多種多様な文化が花開き、目覚ましい発展をし続けている。
今帝カナンは、浅黒い肌に輝く金色の髪、深い青色の鋭い目をした美丈夫だ。太陽王と呼ばれ、自国民から熱烈な支持を受けている。だが齢三十を疾うに超えているというのに、一向に花嫁を迎える気配のない帝王カナンに、周囲はやきもきしていた。
「王、カナン王。どうか花嫁を。次代にあなた様の血をお残しください」
宰相の言葉に、カナンは顔を顰める。
「王の素質は血ではない。花嫁など必要なかろう」
サファ帝国の王は、神の声を聞く者の中から選ばれる。血を繋げたところで、子や孫が神の声を聞けるかどうかなどわからない。
「王の血を継ぐ者が欲しいのです。あなた様の優秀な血を残してはくださらないのですか」
軍の最高指揮官も困ったように眉を下げる。
カナンはサファ帝国史上、最も優秀だと言われている。政治をさせれば、一つの政策で三つも四つも効果を生み、魔物の討伐に向かえば、誰一人傷つくことなく帰還する。王にならなくとも、その血を受け継ぐ者を欲することは当然と言えよう。だが、カナンは決して首を縦に振らない。なぜなら。
「水の女神クア、私の呼びかけに応えて欲しい。女神クア、私の女神」
信仰の女神、クアを心から愛しているからだった。
カナンは非常に敬虔な女神信仰者であった。物心ついた頃から既に女神は身近な存在であった。女神と交信するため、毎日の禊ぎや祈りは欠かすことがない。穢れを落として真っ新な自分となり、神と交信するひとときが、カナンにとって極上の幸せの時間だった。以前は姿を見せてくれていたのだが、成長するにつれ、クアは声だけを届けるようになった。
ある日、それに耐えきれなくなったカナンは、クアに激情をぶつけた。
「クア、女神クア、お願いだ、一目でいい。姿を見せてください。クア、私のクア」
一晩中泣きながら懇願し、夜が明ける頃には涙も声も枯れ果てていた。それでも、血を吐くように、吐息だけで懇願し続けるカナンに、ようやくクアは姿を顕す。その姿に、枯れたと思っていた涙が再び溢れた。その姿を一秒でも長く目に焼き付けようと、瞬きすら惜しんで凝視するカナンに、クアは呆れたように溜め息をついた。
「おまえに会うと、襲われそうで嫌なんだよ」
「否定はしません」
掠れた声できっぱり言い切るカナンに、クアは嫌そうな顔をした。
「どうすればあなたの伴侶になれる?どうすればあなたは私を欲してくれる?教えてくれ、クア。私の女神」
「おまえ、なぜそこまで私に拘る。現実に目を向けろ」
水の気配漂う静謐な空気を纏う、美しい、少女のような女神。
「あなたはここにいる。現実だ。私はあなたを初めて見たときから夢中です」
「もうさあ、眷属にしちゃえばあ?」
精霊神セレスティナが言う。
「あーんなに愛されてるのに、何が不満なのよあんた」
不満なんてない。
「おまえはあんなに一途に想われることはなさそうだな、セレス」
セレスティナの言葉に、ifという風変わりな男が口を挟む。セレスティナはそんなことないもんと、涙目になっている。
「百回」
ボソリと呟くクアの言葉に、二人はクアを見た。
「百回、生まれ変わっても、気持ちが変わらなかったら、考えてもいい」
セレスティナは呆れたように溜め息をついた。
「これはまた随分。まあ、それぞれだしな」
ifはそう言って姿を消した。
「あんたがそう決めたならあたしが言うことじゃないしね」
セレスティナも消えた。
「だって」
怖いのだ。あの一途さが。あんなに想ってもらえるようなもの、自分は何も持っていない。
「なにも、ないんだ。カナン」
だから、どうか。
おまえに相応しい愛を、見つけて欲しい。
せめて、おまえの最期のときは、私が迎えに行くから。
*後編につづく*
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