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アクア連合国編 *見守り?*
中編
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「ねぇ、なんでレイ、泣いてるの」
マンティコアを抑えていたゼダが、反発する力が急になくなって前のめりになった。わけがわからなくて見ると、マンティコアが伏せている。耳が倒れ、尻尾を足の間に挟み、小さくなって震え、怯えているのだ。突然現れた、得体の知れない男の出現に。
呆然とする仲間たちに気付かず、レイはルナと呼んだ男に抱きついた。
「わー!すごいよルナ!ルナすごい!助けてくれてありがとう!」
ルナは優しくレイの頭を撫でた。仲間たちは、“ルナ”という存在は知っていた。よくレイが話をするからだ。名前からして女性だと思っていた。そして、聞いている感じだと絶世の美女を想像してしまっていた。ゆえに驚く。男性であり、しかも平凡な容姿に。だが、見た目の想像は違っていたが、なるほど。非常に不思議な空気を纏っている。レイの話に相違はなかった。
「アレ?アレがレイを泣かせた原因?」
縮こまるマンティコアにチラリと視線をやると、マンティコアはビクリと大きく体を揺らした。
「ふ~ん?ああ、なるほど」
ルナは何かに納得すると、マンティコアに左の手のひらを向けた。すると、ズリズリとルナの方に引き寄せられる。マンティコアは抵抗を試みているようだが無駄だった。そうして猫を掴み上げるように、首の後ろを掴み上げて観察する。大きめのライオンほどの体を、猫のように扱う膂力に、レイはキラキラした目で見ていたが、仲間たちは引きつっている。
「これならまあまあかな」
そう言うと、マンティコアは一瞬光った後、皮だけになった。みんな驚きすぎて言葉が出ない。
「そこの白いの。これあげる」
別に見た目の特徴が白いわけではない。白魔法使いとわかっての呼び方だろう。ルナはシファを見てその皮を差し出した。
おずおずと近付き、とりあえずお礼を言って受け取ると、皮だと思っていたモノは、一枚のローブだった。
「魔法攻撃無効とは言わないけど、結構耐性あるよ。物理攻撃も、魔法攻撃ほどじゃないけど耐性がある。今使ってる装備よりはマシだよ」
効果にギョッとする。マシどころではない。
装備について、攻撃に対して五十%以上のダメージを減らせるモノには耐性を謳って良い。それ以下は軽減と表記する。耐性の装備は滅多に出回らない。魔物を素材としているのだが、そのレベルと質、そしてそれを作る職人の腕で決まる。そもそもそのレベルの魔物を狩れる冒険者が希少なのだ。自分の装備は耐性まではいかない、三十%軽減程度だ。それでも出回っている物の中ではかなり高級品だ。
余談だが、街に戻って鑑定してもらった結果、魔法攻撃耐性九十五%、物理攻撃耐性八十二%と出た時、鑑定士共々卒倒した。尋常ではない数値もそうだが、通常、火や水など、属性に対する攻撃の耐性や軽減になる。全属性の耐性など、神話級の装備となるのだ。
「か、軽い」
おまけにこのローブ、驚くほど軽い。
「ああ、レイのパーティーだからね、そんな野暮ったい見た目はダメだな」
ルナがそう言うと、またローブが一瞬光った。マンティコアの色だったものが、真っ白なものへ変わる。縁取りとして、金糸の美しい刺繍が施されていた。ローブを止める胸元は非常に美しく鞣された黒革のベルトで、金具はきっと純金だろう。
誰も何も言えない中、レイだけがルナを褒めちぎっている。本能で生きるレイは、いいものはいい、悪いものは悪いとはっきりしているため、嘘や虚飾がない。だからレイの言葉は気持ちがいい。
「そうだレイ。渡したいものがあって会いに来たんだよ」
そう言ってルナから渡されたものは、銀色のブレスレットだ。親指の爪ほどの水晶のようなものが付いていた。
「古龍の涙っていうお守りだよ。常に身につけてね。身体機能が上がるとかそういうのはないけど、一度だけだけど、死を回避出来るから」
はい?
みんな目が点になった。
死を回避出来るなんて、神話級のアイテムじゃないか。無邪気に喜んでいるレイが、ものすごく大物に見える。やめて、みんなの分はないの、とか言わないで。そんなものホイホイ渡せるものじゃないから。一個しかなかったんだ、ごめんねとか言わせないで。ただで受け取ってるレイが異常だ。
「それはないけど、違うものなら渡せるよ」
「ホントッ?わーい、ありがとー!」
そう言ってルナが渡してきたものの一部は下記をご参照下さい。
剣→何の金属か不明。金属かも不明。落としただけで柄まで地面に刺さったよ。
盾→何の金属か不明。金属かも不明。軽くぶつかっただけで岩が大破したよ。
杖→何の材質か不明。天鵞絨のような手触り。通常の三分の一の魔力で魔法が出たよ。
鞄→噂のマジックバッグ。容量不明。中からやべー魔物の死体が大量に出て来たよ。
靴→浮かんでる。浮かんでるよ。
服→なんか光ってる。なんか光ってるよ。
その他指輪やらブレスレットやら守護の加護がかかった装飾品諸々。
ゴクリ。
みんなから変な汗が出ている。
「忘れたけど、一応何かしらの属性と、その属性の耐性は付与されてたはずだけど、違うものの方がよかったら言ってね。探してくるから」
ゴクゴクリ。
「あ、鞄に入ってる魔物は素材で使えるかなって突っ込んでおいたけど、いらなかったら捨てて構わないよ」
ゴッキューン。
みんなが地面に平伏した。
「ルナ様、もう、これで充分でございます。もう、本当に、申し訳ございません」
属性が付与されたものは、付与職人と各工房の職人の技を持って生み出すことは出来る。付与した属性の軽減も、その性質上付いてくる。だが、耐性までのものを付随させることは極めて困難だ。職人たちが、何年もかけてひとつ、生み出せるかどうかというものだ。
加護付きのものは、神々の祝福を受けた品。一生に一度でも拝めたら幸運という希少さである。
ルナとレイが首を傾げている。価値がわからないって怖い!
*後編につづく*
マンティコアを抑えていたゼダが、反発する力が急になくなって前のめりになった。わけがわからなくて見ると、マンティコアが伏せている。耳が倒れ、尻尾を足の間に挟み、小さくなって震え、怯えているのだ。突然現れた、得体の知れない男の出現に。
呆然とする仲間たちに気付かず、レイはルナと呼んだ男に抱きついた。
「わー!すごいよルナ!ルナすごい!助けてくれてありがとう!」
ルナは優しくレイの頭を撫でた。仲間たちは、“ルナ”という存在は知っていた。よくレイが話をするからだ。名前からして女性だと思っていた。そして、聞いている感じだと絶世の美女を想像してしまっていた。ゆえに驚く。男性であり、しかも平凡な容姿に。だが、見た目の想像は違っていたが、なるほど。非常に不思議な空気を纏っている。レイの話に相違はなかった。
「アレ?アレがレイを泣かせた原因?」
縮こまるマンティコアにチラリと視線をやると、マンティコアはビクリと大きく体を揺らした。
「ふ~ん?ああ、なるほど」
ルナは何かに納得すると、マンティコアに左の手のひらを向けた。すると、ズリズリとルナの方に引き寄せられる。マンティコアは抵抗を試みているようだが無駄だった。そうして猫を掴み上げるように、首の後ろを掴み上げて観察する。大きめのライオンほどの体を、猫のように扱う膂力に、レイはキラキラした目で見ていたが、仲間たちは引きつっている。
「これならまあまあかな」
そう言うと、マンティコアは一瞬光った後、皮だけになった。みんな驚きすぎて言葉が出ない。
「そこの白いの。これあげる」
別に見た目の特徴が白いわけではない。白魔法使いとわかっての呼び方だろう。ルナはシファを見てその皮を差し出した。
おずおずと近付き、とりあえずお礼を言って受け取ると、皮だと思っていたモノは、一枚のローブだった。
「魔法攻撃無効とは言わないけど、結構耐性あるよ。物理攻撃も、魔法攻撃ほどじゃないけど耐性がある。今使ってる装備よりはマシだよ」
効果にギョッとする。マシどころではない。
装備について、攻撃に対して五十%以上のダメージを減らせるモノには耐性を謳って良い。それ以下は軽減と表記する。耐性の装備は滅多に出回らない。魔物を素材としているのだが、そのレベルと質、そしてそれを作る職人の腕で決まる。そもそもそのレベルの魔物を狩れる冒険者が希少なのだ。自分の装備は耐性まではいかない、三十%軽減程度だ。それでも出回っている物の中ではかなり高級品だ。
余談だが、街に戻って鑑定してもらった結果、魔法攻撃耐性九十五%、物理攻撃耐性八十二%と出た時、鑑定士共々卒倒した。尋常ではない数値もそうだが、通常、火や水など、属性に対する攻撃の耐性や軽減になる。全属性の耐性など、神話級の装備となるのだ。
「か、軽い」
おまけにこのローブ、驚くほど軽い。
「ああ、レイのパーティーだからね、そんな野暮ったい見た目はダメだな」
ルナがそう言うと、またローブが一瞬光った。マンティコアの色だったものが、真っ白なものへ変わる。縁取りとして、金糸の美しい刺繍が施されていた。ローブを止める胸元は非常に美しく鞣された黒革のベルトで、金具はきっと純金だろう。
誰も何も言えない中、レイだけがルナを褒めちぎっている。本能で生きるレイは、いいものはいい、悪いものは悪いとはっきりしているため、嘘や虚飾がない。だからレイの言葉は気持ちがいい。
「そうだレイ。渡したいものがあって会いに来たんだよ」
そう言ってルナから渡されたものは、銀色のブレスレットだ。親指の爪ほどの水晶のようなものが付いていた。
「古龍の涙っていうお守りだよ。常に身につけてね。身体機能が上がるとかそういうのはないけど、一度だけだけど、死を回避出来るから」
はい?
みんな目が点になった。
死を回避出来るなんて、神話級のアイテムじゃないか。無邪気に喜んでいるレイが、ものすごく大物に見える。やめて、みんなの分はないの、とか言わないで。そんなものホイホイ渡せるものじゃないから。一個しかなかったんだ、ごめんねとか言わせないで。ただで受け取ってるレイが異常だ。
「それはないけど、違うものなら渡せるよ」
「ホントッ?わーい、ありがとー!」
そう言ってルナが渡してきたものの一部は下記をご参照下さい。
剣→何の金属か不明。金属かも不明。落としただけで柄まで地面に刺さったよ。
盾→何の金属か不明。金属かも不明。軽くぶつかっただけで岩が大破したよ。
杖→何の材質か不明。天鵞絨のような手触り。通常の三分の一の魔力で魔法が出たよ。
鞄→噂のマジックバッグ。容量不明。中からやべー魔物の死体が大量に出て来たよ。
靴→浮かんでる。浮かんでるよ。
服→なんか光ってる。なんか光ってるよ。
その他指輪やらブレスレットやら守護の加護がかかった装飾品諸々。
ゴクリ。
みんなから変な汗が出ている。
「忘れたけど、一応何かしらの属性と、その属性の耐性は付与されてたはずだけど、違うものの方がよかったら言ってね。探してくるから」
ゴクゴクリ。
「あ、鞄に入ってる魔物は素材で使えるかなって突っ込んでおいたけど、いらなかったら捨てて構わないよ」
ゴッキューン。
みんなが地面に平伏した。
「ルナ様、もう、これで充分でございます。もう、本当に、申し訳ございません」
属性が付与されたものは、付与職人と各工房の職人の技を持って生み出すことは出来る。付与した属性の軽減も、その性質上付いてくる。だが、耐性までのものを付随させることは極めて困難だ。職人たちが、何年もかけてひとつ、生み出せるかどうかというものだ。
加護付きのものは、神々の祝福を受けた品。一生に一度でも拝めたら幸運という希少さである。
ルナとレイが首を傾げている。価値がわからないって怖い!
*後編につづく*
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