では、復讐するか

らがまふぃん

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番外編

それぞれの婚約者話 アサト×ネルヴィス

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「ユセフィラ様のこと、なんですけど、ちょっと、気になることがあって」
階段での事件後、生徒会室にてスウィーディーがそう言った。話の内容は、ユセフィラがコノアことノヴァへ懸想しているのではないかというもの。
「もしこれが本当だったら、リスラン様に対して酷い裏切りだと思うんです」
その話を聞いたリスランの周囲の温度が、かなり下がり、これ以上何も言わせないために、
「報告、ご苦労」
と、リスランは椅子ごと背を向けて話を終えた。
「わかっていると思うが、他言無用だ、オプト嬢」
スウィーディーの妄想に真実味を持たせるため、アサトがそう言ったことが、リスランの周囲の温度をさらに下げた。
みんなで相談して、スウィーディーを否定しないようにすると決めていたのだ。肯定もしないが、どうとでも解釈出来る行動を心がけている。
今回の発言は、スウィーディーには真実味を、他方では、王太子の婚約者のことで根も葉もないことを騒ぐならおまえの身が危うくなるぞ、という注意喚起を。
だから、アサトの行動は正しい。
しかし、正しいことが正しいとは限らない。

アサト。おまえの婚約者ネルヴィス嬢に、実はおまえがセロリが苦手だとバラしてやる。覚悟しておけ。


*~*~*~*~*


「セロリ、頑張って克服しましょう!」

努力家の婚約者、ネルヴィス。大抵のことは努力と根性で何とかなると考えている、脳筋的一面を持つ侯爵令嬢。
アサトは頬を思い切りひくつかせた。
「る、ルヴィ?どこで、それを?」
ルヴィはネルヴィスの愛称だ。プライベートでは互いを愛称で呼んでいる。
「殿下から伺いました。アス様の苦手を克服出来ないかなー、とぼやいていたので。チラチラわたくしを見ながら仰るものですから、聞いて欲しいのかと思い伺ったら、アス様、セロリが苦手だと」

クソ王太子!前髪だけなくなれ!

アスことアサトが内心毒いていると、ネルヴィスはニッコリ笑って言った。
「一週間後にお会いするとき、訓練しましょうね」
大切な婚約者との交流会が、まさかの苦手克服の試練の場になろうとは。
「恨むぞ、リスラン様っ」

………
……


約束の一週間後。
婚約者との交流会として設けられた時間。
いつもであれば待ち遠しい時間であったが、今日は違う。もちろん、ネルヴィスとゆっくり語らえることは嬉しいし楽しい。
けれど今日は、試練が待ち受けているのだ。
努力家の彼女が、どこまで諦めずに迫ってくるのか。
終わりなき試練を思い、胃に穴が空くどころか、溶けてなくなるのではないかと思うほど憂鬱になった。

ネルヴィスの用意してきた、目の前に広がる料理たち。
大切な婚約者が作ってきてくれた料理を、口にしないという選択肢があるはずもない。だが、なかなか手をつけられずにいる。
「頑張って、アス様。努力と根性で大抵は何とかなりますよ」
両手で拳を作り、胸の前で少し上下させながら応援するネルヴィス。若干涙目になりながら、ようやくアサトはギュッと目を瞑って最初のひとくちを口に入れた。
口に入れて、驚きに目を開く。
「たべ、られ、る」
そういえば、あの独特のニオイがない。本当に入っているのか疑わしいほど、どこにもセロリの要素がないのだ。
「ね?努力すれば何とかなるものです」
エヘン、と胸を張る婚約者を、呆然と見る。
「いや、これは、私が努力をしたのではないだろう」
少しして、ようやくそう口にした。
「私が、食べられるよう、キミが、工夫を、努力を、してくれたから」
まだまだ婚約者のことを理解していなかった自分を恥じる。
ニコニコと嬉しそうなネルヴィスに、アサトの頬も自然と緩む。
「ありがとう、ルヴィ」
「いえいえ。苦手なものが入っているとわかっていて、それでも口にしようと努力されたことは、大きな一歩ですよ、アス様」

敵わない。

アサトは心の底から嬉しそうに笑った。
「キミの苦手なものは何だ」
この一週間、仕事でリスランとのやり取りをしながら、手が滑ったとリスランの足の爪先に分厚い本を落としたり、足が滑ったとリスランの足の爪先に分厚い本を落としたり、頭が滑ったとリスランの足の爪先に分厚い本を落としたりしたが、今日この後の仕事からは止めてあげようと思った。
「頭が滑ったって何?!」
涙目でガイアスに抱きつくリスランを、シュリが呆れた目で見るのも昨日まで。
仕方がないからこの辺りで赦してやろう。
アサトの言葉に、ネルヴィスは大きな目をさらに大きくしてパチパチとまたたかせる。
アサトは、ちょいちょいと愛しい婚約者殿の頬を、指で優しくくすぐる。

「共に努力をして、乗り越えないか、ルヴィ」



*おしまい*

刺繍って言われたらどうするんだろう。
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