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番外編
判決
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スウィーディーが刑を言い渡される話です。
残酷な表現、不快な表現あります。
苦手な方はご注意ください。
*∽*∽*∽*∽*
王城の地下には、罪を犯した貴族を、刑が確定するまで収監する牢がある。
それなりに清潔感はあるし、薄暗くはあるが灯りもある。
複数の足音が響く。
その音が止まった鉄格子の前。中には、美しい少女が一人。
「王太子殿下からの沙汰を伝える。ありがたく受け取れ」
王太子リスランの側近候補、アサトが口を開く。
美しい少女、スウィーディーが鉄格子にしがみついた。
「リスラン様に会わせなさいよ!」
すかさずガイアスが鉄格子越しにスウィーディーの喉を締め上げ、苦しさに喘ぐその開かれた口の中に、躊躇いもなく短剣を突っ込んだ。
「次に殿下の名を呼んだら、この口を切り裂く」
ガイアスが短剣を僅かに動かすと、プツリと口の端が切れた。
無口で強面ではあるが、側近候補の中で一番穏やかなガイアスの冷酷さに、さすがのスウィーディーも顔を青くする。
「理解したならゆっくり瞬きを一度しろ」
言った通りの行動を確認し、ガイアスは短剣を退いた。
ズルズルとその場にへたり込む。
切れた口の端から滲む血の味が口の中に広がったが、スウィーディーは何も言えなかった。
「殿下が貴様にかける時間などない」
慈悲の欠片もない、アサトの冷たい声が響く。
「殿下からの沙汰だ。ありがたく聞け。貴様の身勝手な行動により、おまえの生家であるオプト伯爵家は可哀相に、降格だ。男爵位となる」
「はあ?子爵位も飛ばして男爵?まあ騒がせちゃったから家にも責任をってのはわかるけど、降格はないんじゃない?しかもツーランクダウン?あたしが何したって言うのよ!」
自分の理解の範疇を超えると喚き出す彼女に、答える者はいない。
「スウィーディー・オプト。貴様は貴族位剥奪の上、西の砦行きを命じる」
「今後オプト姓を名乗ることは許されん。貴様はもう貴族ではない。言われたことをしっかりやれ。曲解するなよ。言葉通りに受け取れ」
アサトとシュリの言葉に、スウィーディーは血走った目で睨みつけると、膝立ちで再び鉄格子を掴んだ。
「あたしが平民?バッカじゃないの?おまけに西の砦ですって?」
西の砦は、西側の国と戦争をしているわけではない。そもそも西の砦とは、国境にあるものではない。砦の付近は、災害に見舞われやすい場所だ。災害地故、その見張りのために砦を立てた。
災害の多い地は、疫病が蔓延しやすい。
災害のあった地をそのままにしておくと、さらなる災害に繋がる恐れがあるため、元に戻さないといけない。あまりに頻繁に災害に見舞われるので、人を住まわせられない。だが、栄養分を豊富に含んだ泥を運んでも来るので、肥沃な大地となってもいる。
そこで、罪人を災害復興に使い、同時に災害に見舞われないよう整備させることにしたのだ。こうして、西の砦は罪人ひしめく流刑地のようになっていた。
「あたしを誰だと思ってんの?こんなの何かの間違いよ。早くリスラン様を呼ん」
言葉は最後まで続かなかった。続けられなかった。
地下牢に悲鳴が響く。
鉄格子の中で、スウィーディーが口を押さえてのたうち回っている。
ガイアスが握る短剣は、血が滴り落ちていた。
「あーあ。バカだなあ。すぐ言ったこと忘れちゃうんだから」
シュリが嗤う。
「ま、どうせ労働力になんかならないんだ。下の口さえあれば顔なんかどうでもいいからいいけど」
寧ろ、醜女が良い。変に綺麗どころがいると、無駄な諍いが起こる。下手をすれば、女のために殺し合いや暴動にまで発展してしまうから。
「そういう要員のお陰で、ある程度欲が満たされるからな。不満解消に役立つ。貴様のような者でも、しっかり世の中の役に立てるんだ。ありがたいだろう」
「それに、コイツは下手に口が利けない方がいいからね。ガイアス、いい仕事するなあ、ホント」
当然、痛みでそれどころではないスウィーディーの耳には、何一つ入っていなかった。
*おしまい*
残酷な表現、不快な表現あります。
苦手な方はご注意ください。
*∽*∽*∽*∽*
王城の地下には、罪を犯した貴族を、刑が確定するまで収監する牢がある。
それなりに清潔感はあるし、薄暗くはあるが灯りもある。
複数の足音が響く。
その音が止まった鉄格子の前。中には、美しい少女が一人。
「王太子殿下からの沙汰を伝える。ありがたく受け取れ」
王太子リスランの側近候補、アサトが口を開く。
美しい少女、スウィーディーが鉄格子にしがみついた。
「リスラン様に会わせなさいよ!」
すかさずガイアスが鉄格子越しにスウィーディーの喉を締め上げ、苦しさに喘ぐその開かれた口の中に、躊躇いもなく短剣を突っ込んだ。
「次に殿下の名を呼んだら、この口を切り裂く」
ガイアスが短剣を僅かに動かすと、プツリと口の端が切れた。
無口で強面ではあるが、側近候補の中で一番穏やかなガイアスの冷酷さに、さすがのスウィーディーも顔を青くする。
「理解したならゆっくり瞬きを一度しろ」
言った通りの行動を確認し、ガイアスは短剣を退いた。
ズルズルとその場にへたり込む。
切れた口の端から滲む血の味が口の中に広がったが、スウィーディーは何も言えなかった。
「殿下が貴様にかける時間などない」
慈悲の欠片もない、アサトの冷たい声が響く。
「殿下からの沙汰だ。ありがたく聞け。貴様の身勝手な行動により、おまえの生家であるオプト伯爵家は可哀相に、降格だ。男爵位となる」
「はあ?子爵位も飛ばして男爵?まあ騒がせちゃったから家にも責任をってのはわかるけど、降格はないんじゃない?しかもツーランクダウン?あたしが何したって言うのよ!」
自分の理解の範疇を超えると喚き出す彼女に、答える者はいない。
「スウィーディー・オプト。貴様は貴族位剥奪の上、西の砦行きを命じる」
「今後オプト姓を名乗ることは許されん。貴様はもう貴族ではない。言われたことをしっかりやれ。曲解するなよ。言葉通りに受け取れ」
アサトとシュリの言葉に、スウィーディーは血走った目で睨みつけると、膝立ちで再び鉄格子を掴んだ。
「あたしが平民?バッカじゃないの?おまけに西の砦ですって?」
西の砦は、西側の国と戦争をしているわけではない。そもそも西の砦とは、国境にあるものではない。砦の付近は、災害に見舞われやすい場所だ。災害地故、その見張りのために砦を立てた。
災害の多い地は、疫病が蔓延しやすい。
災害のあった地をそのままにしておくと、さらなる災害に繋がる恐れがあるため、元に戻さないといけない。あまりに頻繁に災害に見舞われるので、人を住まわせられない。だが、栄養分を豊富に含んだ泥を運んでも来るので、肥沃な大地となってもいる。
そこで、罪人を災害復興に使い、同時に災害に見舞われないよう整備させることにしたのだ。こうして、西の砦は罪人ひしめく流刑地のようになっていた。
「あたしを誰だと思ってんの?こんなの何かの間違いよ。早くリスラン様を呼ん」
言葉は最後まで続かなかった。続けられなかった。
地下牢に悲鳴が響く。
鉄格子の中で、スウィーディーが口を押さえてのたうち回っている。
ガイアスが握る短剣は、血が滴り落ちていた。
「あーあ。バカだなあ。すぐ言ったこと忘れちゃうんだから」
シュリが嗤う。
「ま、どうせ労働力になんかならないんだ。下の口さえあれば顔なんかどうでもいいからいいけど」
寧ろ、醜女が良い。変に綺麗どころがいると、無駄な諍いが起こる。下手をすれば、女のために殺し合いや暴動にまで発展してしまうから。
「そういう要員のお陰で、ある程度欲が満たされるからな。不満解消に役立つ。貴様のような者でも、しっかり世の中の役に立てるんだ。ありがたいだろう」
「それに、コイツは下手に口が利けない方がいいからね。ガイアス、いい仕事するなあ、ホント」
当然、痛みでそれどころではないスウィーディーの耳には、何一つ入っていなかった。
*おしまい*
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