では、復讐するか

らがまふぃん

文字の大きさ
上 下
24 / 33

最終話 予期せぬ出会い

しおりを挟む
寮の荷物を引き払い、玄関を出る。
「ノヴァ、本当に世話になったな」
門へと歩きながら、リスランが微笑む。
ただの編入生と思わせるため、ノヴァは学園寮で生活をしていた。朝食と夕食は寮内の食堂を利用するため、情報収集にももってこいだったということもある。様々な噂話から私生活まで垣間見えて、実に多種多様な情報が得られた。
何人かの貴族の、脅しのネタになる内容もいくつか仕入れられたので、何かの役に立つかもしれない。
「いや。もう最後は自爆だったからな。怒らせて自白を誘導させれば早かったな」
空を仰ぎ、手間を取らせやがって、と言うように、べ、と舌を出す。
「結果論だ。おまえの協力なしでは、まだ解決を見なかった。さすがだ、ノヴァ」
そんな子どもらしい仕草にリスランは思わず笑いながら、その頭をくしゃりと撫でる。
従兄上あにうえ、それは今までのことがあったから、私はやるべきことを絞り込めたんだ。初期段階で呼ばれていたら、こうはいかなかった」
「それでも、ノヴァの観察眼はさすがだよ。私も報告書ではなくその場で見たかったなあ」
フィスランが残念そうに笑った。
「いや、本当にほぼ自爆だったんだ。人の扱いは難しい」
ノヴァとしては、もっと違う形での決着をつけたかったようだ。ちょっとふくれた、向上心の塊の従弟が、年相応に見えて可愛い。

「ところで」
ノヴァは、自分たちの近くで草取りをしている二人の用務員に向かって声をかけた。

「何をしておられるのですか、皇帝陛下」

「「は?」」
突然のその言葉に、リスランとフィスランは、理解が出来ずに間の抜けた声を出す。
声をかけられた用務員は慌てたように、深く被った帽子をますます深く被り、口元を覆うタオルをさらに引き上げて目まで隠した。
「え?いやいやいやいや、チガイマスヨ」
不自然に高い声がする。

「皇妃陛下もです」

「ち、違うわよ?わたくし、ノンちゃんとは初めましてよ?」
小柄な用務員の方も、鎌を振り回しながら慌てているが、発言が。
「おまえっ、ノンをノンちゃんなんて言ったら私たちだとバレるだろうっ」
顔が完全に隠れて前も見えない状態の用務員が、下手なフォローをする。
「の、ノンちゃんなんて言ってませんから、人違いですっ」
こっちの用務員も下手な言い訳をする。
「迎えに来てくれたのかと思ったのですが」
ノヴァがそう言うと、
「そうなのよっ!迎えに来たのよ~、ノンちゃんっ」
「ほ~れ、おまえのじぃじが迎えに来たぞぉ!さあ帰ろうすぐ帰ろうたった今帰ろう!」
帽子とタオルをはぎ取って、ノヴァに抱きついた。

その顔は、間違いなく皇帝と皇妃だった。
そこにはいつものような、切り裂かれるような緊張感も、息苦しいまでの重圧感もない。
あれほどのものを持ちながら、それをすっかり消し去って、ただの用務員になりすますことが出来ることが、恐ろしい。
何より、変装をして他国にまで乗り込んでくるほどノヴァへの思い入れが強いことに、二人の王子は衝撃を受ける。

「ありがとうございます。いつこちらへ?昨日はいなかったですよね?」
「ああ、昨晩着いてな。寮に忍び込んでノンに添い寝しようと思ったが」
「わたくしが止めたのよ。ノンちゃんの生まれた国で騒ぎになることをしてはダメだって」
ノンちゃんが生まれた国ではなかったら何をしでかしていたのだろう、という素朴な疑問をいだいてはいけない。
「そうしてくれると助かります」
通常運転のノヴァ。これがノヴァにとっての日常なのだろう。
「で、折角だからノンを驚かそうと思ったが、あっさりバレたな。ノンの愛を感じるなあ」
「ホント、ノンちゃんったらじぃじばぁば孝行なんだから」
キャッキャとはしゃぐ五十過ぎの艶男アデオス艶女アデージョ
「やっと昨日決着がついたのだろう?さあ帰ろうすぐ帰ろうたった今帰ろう!」
ノヴァを連行しにかかる。

「そうですね。ですが、もう少し待ってください、じぃじ、ばぁば」

こう呼ぶと、皇帝と皇妃は何でも言うことを聞いてくれると知っている。
「わかった、待つ待つ。だがどうした?」
狙い通り、頷きながらデレる皇帝と皇妃。
「国王陛下と王妃陛下にご挨拶をしてから発ちます」
「なるほど、そうか。ではワシらも一緒に行くぞ。からな」
「もう、ちゃんとご挨拶が出来て本当にいい子ね、は」

ノヴァを挟んで手を繋いでほくほくとする皇帝と皇妃。
世話になった、わたくしたちの、と言っている時点で、二人にとってノヴァはこの国の人間ではなく、自分たち帝国の人間であると主張しているようだった。

「話には聞いていたが」
「もの凄い溺愛ッぷりですね、本当に」
「何があったのだろうな」
「何が、あったのでしょうね」

あまりの変貌ぶりに、二人の王子は挨拶も忘れて、しばらく呆然とその様子を見ていた。
滅多に帰国出来ない従弟に、皇帝たちに溺愛されている理由を未だに聞くことが出来ていない、そういえば。



*おしまい*

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
ありがたいことに、HOTランキング入りをいたしまして、たくさんの方々の目に触れる機会をいただきました。
メンヘラさんをもっとざまぁ的にしたかったのですが、お心を患っていらっしゃったようなので、自爆してしまいました。
人の思い込みって怖いですね。
溺愛のタグは、ノンちゃんへのものではなく、リスラン様からユセフィラ様へのものですよ。ノンちゃんへのものではないですよ、違います。
この作品が、少しでも楽しんでいただけるものとなっていたら嬉しいです。
このあと気まぐれに番外編を投稿いたしますので、気まぐれにお付き合いくださるとありがたいです。
いろんな人が置いてきぼりになっている感がすごい。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

【完結】両親が亡くなったら、婚約破棄されて追放されました。他国に亡命します。

西東友一
恋愛
両親が亡くなった途端、私の家の資産を奪った挙句、婚約破棄をしたエドワード王子。 路頭に迷う中、以前から懇意にしていた隣国のリチャード王子に拾われた私。 実はリチャード王子は私のことが好きだったらしく――― ※※ 皆様に助けられ、応援され、読んでいただき、令和3年7月17日に完結することができました。 本当にありがとうございました。

【完結】妹が欲しがるならなんでもあげて令嬢生活を満喫します。それが婚約者の王子でもいいですよ。だって…

西東友一
恋愛
私の妹は昔から私の物をなんでも欲しがった。 最初は私もムカつきました。 でも、この頃私は、なんでもあげるんです。 だって・・・ね

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

幸せじゃないのは聖女が祈りを怠けたせい? でしたら、本当に怠けてみますね

柚木ゆず
恋愛
『最近俺達に不幸が多いのは、お前が祈りを怠けているからだ』  王太子レオンとその家族によって理不尽に疑われ、沢山の暴言を吐かれた上で監視をつけられてしまった聖女エリーナ。そんなエリーナとレオン達の人生は、この出来事を切っ掛けに一変することになるのでした――

王家に生まれたエリーザはまだ幼い頃に城の前に捨てられた。が、その結果こうして幸せになれたのかもしれない。

四季
恋愛
王家に生まれたエリーザはまだ幼い頃に城の前に捨てられた。

【完結】悪女を押し付けられていた第一王女は、愛する公爵に処刑されて幸せを得る

甘海そら
恋愛
第一王女、メアリ・ブラントは悪女だった。 家族から、あらゆる悪事の責任を押し付けられればそうなった。 国王の政務の怠慢。 母と妹の浪費。 兄の女癖の悪さによる乱行。 王家の汚点の全てを押し付けられてきた。 そんな彼女はついに望むのだった。 「どうか死なせて」 応える者は確かにあった。 「メアリ・ブラント。貴様の罪、もはや死をもって以外あがなうことは出来んぞ」 幼年からの想い人であるキシオン・シュラネス。 公爵にして法務卿である彼に死を請われればメアリは笑みを浮かべる。 そして、3日後。 彼女は処刑された。

逆行転生した侯爵令嬢は、自分を裏切る予定の弱々婚約者を思う存分イジメます

黄札
恋愛
侯爵令嬢のルーチャが目覚めると、死ぬひと月前に戻っていた。 ひと月前、婚約者に近づこうとするぶりっ子を撃退するも……中傷だ!と断罪され、婚約破棄されてしまう。婚約者の公爵令息をぶりっ子に奪われてしまうのだ。くわえて、不貞疑惑まででっち上げられ、暗殺される運命。 目覚めたルーチャは暗殺を回避しようと自分から婚約を解消しようとする。弱々婚約者に無理難題を押しつけるのだが…… つよつよ令嬢ルーチャが冷静沈着、鋼の精神を持つ侍女マルタと運命を変えるために頑張ります。よわよわ婚約者も成長するかも? 短いお話を三話に分割してお届けします。 この小説は「小説家になろう」でも掲載しています。

【完結】悪役令嬢は今日も可愛い 短編完結もの

かのん
恋愛
 悪役令嬢アリサ・リンバースの短編のお話です。  短いお話なので、よければ時間つぶしにどうぞ。    

処理中です...