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10 ラストチャンス
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「え?」
聞こえた言葉が信じられず、コノアを振り返る。相変わらず変わらない表情と冷たい瞳。けれどそこに、一瞬、感情が滲んだように見えた。ほんの一瞬。
垣間見えた感情は、気のせいかもしれない。
だって、そんなはずないわ。私とコノアは、お友だち、だもの。気のせいよ。
何か言おうとして、何を言えばいいのかわからず見つめていると、
「キミの不注意で、本当に間違いないんだな?」
と、念押しをするコノアに、スウィーディーは目を丸くした後、間違いないよ、と言いながら、クスリと笑った。
「リスラン様たちもそうだけど、コノアも同じだね」
「何?」
スウィーディーの言葉に、コノアは僅かに片眉を上げる。
「リスラン様たちもね、私がよくトラブルに巻き込まれているからかな。本当かって、間違いないのかって、何度も聞いてくるの。私が誰かを庇って嘘をついているんじゃないかって思っているみたい」
困ったように眉を下げて言葉を続ける。
「えへへ。そんなことないのにね。私がうまく馴染めないせいで、トラブルになっているだけなのにね」
あたしは常識のない娘。貴族の振る舞いから外れた、異端の娘。
あたしはバカだからわからない。
どうすればみんなのようになれるのか。
あたしはバカだから、こういう風にしか出来ない。
こうすることでしか、あの人を守る術を、知らない。
みんなのように、同じように、紛れてしまえたら、何も考えなくて済んだのに。
だからあたしはバカなんだ。
だからあたしは、みんなのように、なれないのよ。
あの人を守りたいと思った時点で、あたしはもう、他の人とは、みんなと同じにはなれなかったんだ。
俯いてしまったスウィーディーに、コノアはポツリと零す。
「キミは、どうしたい?」
その言葉に、先程の言葉が蘇る。
“では、復讐するか。”
聞き間違いではなかったのかと、スウィーディーは、逸る気持ちを抑えるように、両手を自身の胸に置いて、コノアを、見つめる。
美しい深い緑の瞳が、自分の言葉を待っている。
望んでも、いいの?
スウィーディーは、コクリと唾を飲み込むと、震える声で告げる。
「リスラン様を、取り戻したい」
やっと、絞り出すように紡いだ言葉だというのに、コノアは容赦なく追撃する。
「それだけ?」
スウィーディーの心臓が、ますますうるさくなる。
あんなに優しかったリスラン様。王族に次ぐ地位というだけでリスラン様を振り回し、困らせ続けた、清楚なフリをした狡猾なお嬢様、ユセフィラ様。
このままユセフィラ様を、リスラン様の隣にいさせていいの?
このまま、王太子妃に、王妃に、国母にさせて、いいの?
迷いを断ち切るように、スウィーディーはブンブンと首を振る。そして意を決したように、思いを吐き出した。
「リスラン様の笑顔を奪った、ユセフィラ様に、思い知らせたいっ」
それなのに、コノアはその考えを甘いと言うかのように、追撃の手を緩めない。
「ふうん。死んで欲しいの?」
サラリと過激なことを口にするコノアに、スウィーディーは慌てた。
「そっ、そこまでは考えていないわよ!ただ」
「ただ?」
迷うように視線を彷徨わせた後、ちょっとした悪戯を思いついたような、そんな顔でスウィーディーは言った。
「悔しがる顔が、見られれば、いい、かな」
このままではいけない。せめてみんなの、ユセフィラ様を見る目を厳しく出来れば。
いえ、それでは甘いのかもしれない。
「ユセフィラ様を、このまま、王太子妃に、王妃に、国母にさせては、大変なことになるわ。
だから、リスラン様から引き離すきっかけになれば。
そうすれば、リスラン様が、また楽しそうに笑える日々が戻ってくるかもしれない」
「なるほど、ねぇ」
何かを考えるようにしながら、コノアはまた歩き出した。スウィーディーの横をすり抜ける。その背中に、スウィーディーは声をかけた。
「ねえ、コノアは、どうして、私に協力してくれるの?」
「していない」
コノアは振り返らない。
不器用な人。
スウィーディーはそっと笑った。
*つづく*
聞こえた言葉が信じられず、コノアを振り返る。相変わらず変わらない表情と冷たい瞳。けれどそこに、一瞬、感情が滲んだように見えた。ほんの一瞬。
垣間見えた感情は、気のせいかもしれない。
だって、そんなはずないわ。私とコノアは、お友だち、だもの。気のせいよ。
何か言おうとして、何を言えばいいのかわからず見つめていると、
「キミの不注意で、本当に間違いないんだな?」
と、念押しをするコノアに、スウィーディーは目を丸くした後、間違いないよ、と言いながら、クスリと笑った。
「リスラン様たちもそうだけど、コノアも同じだね」
「何?」
スウィーディーの言葉に、コノアは僅かに片眉を上げる。
「リスラン様たちもね、私がよくトラブルに巻き込まれているからかな。本当かって、間違いないのかって、何度も聞いてくるの。私が誰かを庇って嘘をついているんじゃないかって思っているみたい」
困ったように眉を下げて言葉を続ける。
「えへへ。そんなことないのにね。私がうまく馴染めないせいで、トラブルになっているだけなのにね」
あたしは常識のない娘。貴族の振る舞いから外れた、異端の娘。
あたしはバカだからわからない。
どうすればみんなのようになれるのか。
あたしはバカだから、こういう風にしか出来ない。
こうすることでしか、あの人を守る術を、知らない。
みんなのように、同じように、紛れてしまえたら、何も考えなくて済んだのに。
だからあたしはバカなんだ。
だからあたしは、みんなのように、なれないのよ。
あの人を守りたいと思った時点で、あたしはもう、他の人とは、みんなと同じにはなれなかったんだ。
俯いてしまったスウィーディーに、コノアはポツリと零す。
「キミは、どうしたい?」
その言葉に、先程の言葉が蘇る。
“では、復讐するか。”
聞き間違いではなかったのかと、スウィーディーは、逸る気持ちを抑えるように、両手を自身の胸に置いて、コノアを、見つめる。
美しい深い緑の瞳が、自分の言葉を待っている。
望んでも、いいの?
スウィーディーは、コクリと唾を飲み込むと、震える声で告げる。
「リスラン様を、取り戻したい」
やっと、絞り出すように紡いだ言葉だというのに、コノアは容赦なく追撃する。
「それだけ?」
スウィーディーの心臓が、ますますうるさくなる。
あんなに優しかったリスラン様。王族に次ぐ地位というだけでリスラン様を振り回し、困らせ続けた、清楚なフリをした狡猾なお嬢様、ユセフィラ様。
このままユセフィラ様を、リスラン様の隣にいさせていいの?
このまま、王太子妃に、王妃に、国母にさせて、いいの?
迷いを断ち切るように、スウィーディーはブンブンと首を振る。そして意を決したように、思いを吐き出した。
「リスラン様の笑顔を奪った、ユセフィラ様に、思い知らせたいっ」
それなのに、コノアはその考えを甘いと言うかのように、追撃の手を緩めない。
「ふうん。死んで欲しいの?」
サラリと過激なことを口にするコノアに、スウィーディーは慌てた。
「そっ、そこまでは考えていないわよ!ただ」
「ただ?」
迷うように視線を彷徨わせた後、ちょっとした悪戯を思いついたような、そんな顔でスウィーディーは言った。
「悔しがる顔が、見られれば、いい、かな」
このままではいけない。せめてみんなの、ユセフィラ様を見る目を厳しく出来れば。
いえ、それでは甘いのかもしれない。
「ユセフィラ様を、このまま、王太子妃に、王妃に、国母にさせては、大変なことになるわ。
だから、リスラン様から引き離すきっかけになれば。
そうすれば、リスラン様が、また楽しそうに笑える日々が戻ってくるかもしれない」
「なるほど、ねぇ」
何かを考えるようにしながら、コノアはまた歩き出した。スウィーディーの横をすり抜ける。その背中に、スウィーディーは声をかけた。
「ねえ、コノアは、どうして、私に協力してくれるの?」
「していない」
コノアは振り返らない。
不器用な人。
スウィーディーはそっと笑った。
*つづく*
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