美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん

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ばんがいへん

勇者とは ー後編ー

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 エリアストは、ディアンの説得に渋々嫌々不承不承頷き、ならばとっとと行ってさっさと終わらせてこようと転移してきた。自分が死んだら死んだで後はどうでもいいと。魔王討伐までの冒険譚など、何一つない。人間の城から魔王の城へひとっ飛びだ。
 「あ、あり得ない」
 シャールの呟きにも興味を示さず、エリアストはララの首を掴んで持ち上げた。
 「私の質問に答えろ。先程の話が本当である証拠だ」
 シャールは全身が震えた。
 いつ、自分は抜かれたのだろう。
 背後に庇っていたララを、いとも簡単に捕らえている。
 魔王をあっさり捕らえたことに、仲間であるアイザックたちも驚愕の表情だ。
 人類総出でどうのとか言ってなかっただろうか。あれ。どっちが魔王だったかな。
 「ゆ、勇者殿、それでは魔王殿が話が出来ません」
 アイザックが宙ぶらりんのララを支えながら、エリアストを宥める。
 ええ?このおっさんも、いつの間に?そしてこいつらが勇者の一行?
 もうシャールはガクブルだった。そんなシャールにマアルがよちよちと歩み寄り、慰めるようにその腿をポンポンと叩いた。
 エリアストから解放されたララは、アイザックにしがみついた。
 「うう、ありがとお、ありがとおおぉ。超好きぃ。結婚してぇ」
 アイザックがピシリと固まる。
 「ララ様、物事には順序というものがございます。まずは自己紹介からです」
 レンフィが少々的外れな指摘をした時だ。扉をノックする音がした。
 「失礼いたします。ララ様」
 黒髪の女性が扉を開けた。エリアストたちを見て頭を下げる。
 「これは失礼いたしました。ご来客中でございましたね。出直して参ります」
 下がろうとする女性の手を、いつの間にか目の前にいたエリアストが掴んだ。
 「おまえ、名は何と言う」
 エリアストの顔が、女性の顔に触れそうな程近付く。恐ろしい程の美貌が近付いても、女性に動揺はない。通常運転だ。
 「はい。アリスと申します。ララ様の秘書をしております」
 手を握られたままジッと見つめられ、アリスは困ったように笑う。
 「あの?」
 「ああ、そんなにも愛らしい顔をしてはダメだ、アリス。有象無象が余計に集まってしまう」
 するりとアリスの頬を撫で、やはり目を逸らさない。アリスを見つめたまま、ララに冷たい声が飛ぶ。
 「おい、魔王。貴様暇だな。秘書はいらんだろう」
 アリスを見つめる目は蕩けるように優しい。顔と声がまったく合っていない。
 「へ?」
 エリアストの言葉がわからない。ララは間抜けな声を出した。
 魔物使役の話は何だっただろう。それで詰め寄られていたよね、私。
 「え、と。魔物の話の真偽の件は」
 「これ程愛らしい者が悪い者に仕えるはずがないだろう。馬鹿か貴様」
 すみません。
 「アリス。私はエリアスト。ああ、こんなに重い物を持たせたままですまない」
 十枚程の紙の束をアリスからそっと受け取ると、後方へぶん投げた。シャールの頭に当たる。紙が当たったとは思えない音が鳴り、大きな瘤が出来た。
 嘘、だろ。
 シャールは気を失った。マアルが瘤を治すために、魔法を発動させる。規格外過ぎる出来事に、誰もが息を飲む中、エリアストはアリスを口説く。
 「アリス、アリスの望むことはすべて叶える。私の全力でアリスを幸せにする。安心してすべて私に委ねてくれ」
 「あの、ですが、わたくし、ララ様の秘書官ですので」
 エリアストの絶対零度の瞳がララを見た。
 「アリス!おめでとう!私も結婚するから!この人と!だから、私も引退かなっ」
 アイザックが巻き込まれている。レンフィと意識を取り戻したシャールが全力で拍手をしている。アリスは、まあ、と嬉しそうにララたちを祝福する。
 「では、不束者ですが、よろしくお願いいたします、エリアスト様」
 本当に、どっちが魔王なの。そして何より、アリスが大物過ぎてびっくりだわ。真の魔王ってもしや?
 「ところでさ、私を討伐に来たんでしょ?」
 ララがそう言うと、エリアストは面倒そうに視線を寄越した。
 「ああ。私は死んだことにしておけ。おまえたちも今まで通りでいいだろう」
 怠慢な人間共など放っておけばいい、と言うことらしい。
 「でも、勇者はそれでいいの?魔王を倒せなかったって嗤われちゃうよ」
 「はっ。お優しいことだな。矮小な者共の評価など気にする必要がどこにある」
 さすが魔王様。
 「人間と戦いたくないならおまえが説得しろ。私は忙しい。私を巻き込むな」
 完全に人ごとですね。はい、わかりました。
 「さあアリス、どこに行きたい。早く二人きりになれるところに行こう」
 頭に、顔中にキスの雨を降らせる。照れるアリスのその顔を、見たな、と周囲にキレかけているエリアスト。剣に手をかけ全員を葬ろうとするエリアストを、アリスが微笑みながら止めている。
 そんな混沌カオスの中。ポツリともれる、一つの声。
 「あれ?本当に私、何の役にも立ってない?」
 ヨシュアの声は、誰にも聞かれることはなかった。


*おしまい*

次話はアリスを護衛している影たちの話です。
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