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ばんがいへん
えるさまのおしごと
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使い潰せる召使いが欲しい。
そうだ、悪魔を召喚しよう。
エリアスト・カーサ・ディレイガルドは、世界屈指の大企業の御曹司。多忙を極めているはずなのだが、エリアストはつまらなかった。毎日同じことの繰り返し。会議に視察に商談交渉接待。誰がやってもいいはずなのだが、エリアストが対応すると早くて確実だと父親から言われる。だから何だと思うのだが、他にやることもないのでとりあえず大人しく言うことを聞いているが、日に日に仕事量が増えていた。楽しいと思えれば良かったのだが、エリアストは、このルーティンに嫌気がさしていた。
ちなみにだが、エリアストの仕事をルーティンとは言わない。確かに仕事は会議や視察などなのだが、すべて内容が異なり、かつ複雑。それを、大きな括りで考え、ルーティンだと言ってしまえるその頭脳は計り知れない。そして頭の良すぎる人の考えは、凡人には理解出来ないのも仕方がないことと言えた。
やりたいことも未だ見つからないので、現状を自身でなんとかしようと考えた結果、悪魔召喚というなかなか楽しい発想に行き着いた。
多忙の合間を縫って召喚に必要な情報を集める。
そしていよいよその日が来た。
悪魔なんて本当にいるのだろうか。まあいたらとにかく現状を何とかさせよう。何か凄いモノが出て来て、世界を混沌に陥れるとか滅ぼすとかになっても、それはそれで面白そうだ。
そんな軽い気持ちで召喚に必要な準備を調えた。
「これで、血を垂らせば良いのか」
エリアストは躊躇いもなく指先を切り、魔方陣に血を落とす。すると、陣が光り出し、部屋が真っ白に染まった。エリアストは眩しさに目を閉じ、暫くして収まった光に、ゆっくり目を開けた。陣は光ったままだ。しかし、その陣の真ん中には、人影があった。
「ふむ。成功か。本当にいたのだな、悪魔というものは」
「呼び出したのはおまえか」
悪魔がそう言った。
「誰に向かって口をきいている」
エリアストは悪魔にアイアンクロウをした。
「いだだだだだだっ。ちょ、何この人間!躊躇いもなく悪魔に触れるとか!正気?!」
「名を名乗れ」
悪魔を従属させるには名が必要らしい。
「わかった、わかったから手ぇ離して!お願いします!」
エリアストが手を離すと、悪魔は涙目になりながら左手で顔を撫でた。
「うう、悪魔に痛みを与えるってどういうことだよ。普通の人間には無理なんだからね」
「名・を・名・乗・れ」
「ララです!」
ブチブチ愚痴を言っていると、エリアストの圧ある声が降ってきた。悪魔は背筋を伸ばしてそう名乗った。
「その右手に抱いているのは何だ」
ララの抱き締めているものを指す。するとララは隠すようにギュッとそれを抱き抱えた。
「この子はダメ」
「私が呼び出したのだ。それも私のだろう」
ララがキッとエリアストを睨みつけた。
「悪魔は一人で充分だろ。さっさと願いを言いなよ」
「だから誰に口をきいているんだ貴様」
頬を引っ張られ、ララは涙目で、すみません!と謝った。すると。
「ふにゅ」
ララが抱いている者が声を出した。その愛らしい声に、エリアストの意識が向く。もぞもぞとララの腕の中で動く様に、何だか目が離せない。
「にゅ。おねえしゃま。おはようごじゃいまふ」
目を擦りながら、まだ覚醒しきらないままにララの腕の中で可愛らしく挨拶をした。そしてキョロキョロと辺りを見回す。エリアストと目が合った。
「あ、あの、お、おはよう、ございます?」
寝起きを見られて恥ずかしそうに挨拶をするもう一人に、エリアストは全身に衝撃を受けた。エリアストはすかさずもう一人の手を取ると、その甲にくちづけた。
「おまえの名は、何と言う」
手から唇を離さないまま問うエリアストに、もう一人は顔を真っ赤にしながら戸惑う。
「アリス!名乗っちゃダメだよ!」
おまえが名乗ってしまったではないか、と言うエリアストの心の内はとりあえず口には出さずに、アリス自ら名乗るのを待つ。
「名を知られたら一生隷属させられる!アリスは名乗っちゃダメだからね!」
アリスは困ったように眉を下げた。
「あの、お姉様。すみません、既にお姉様がわたくしを呼んでいらっしゃいます」
「ああっ?!」
ララは青ざめた。何てことをしてしまったのだろう。名前さえ知られなければ、願いを叶えさえすれば帰れたのに。頭を抱えるララに、アリスは大丈夫ですよ、と優しく声をかける。
お姉様と呼ぶからには妹なのだろう。姉より余程落ち着いている。
「召喚主様でいらっしゃいますね。わたくし、アリスと申します。何なりとご命令くださいませ」
エリアストはくちづけていた手を自分へと引っ張る。
「あ」
アリスがエリアストの胸にすっぽりと収まった。
「私と結婚しよう、アリス」
「ふえ?」
「一生大事にする。ずっと一緒にいてくれ、アリス」
「あ、あの、それが、ご命令ですか?」
「違う。アリスの意志で私の側にいてくれ。アリスが結婚してもいいと思えるまで待つ。生涯かけて、その気にさせる。絶対に離さない。だから早く私の側にいてもいいと思ってくれ」
「ふええ?」
「少しは手伝ってよーっ」
エリアストの執務室。ララの嘆きがこだまする。
誰も側に置くことがなかったエリアスト。それが突然秘書と紹介された美女ライラ(偽名)。社員たちは、婚約者だと噂した。誰にも表情を動かすことのないエリアストが、ライラには口角を上げることがあることも、噂に信憑性を持たせた。
「おまえなんぞ使い潰したって心が痛まん」
「痛める心ないよね?絶対ないよね?」
悪魔よりも悪魔らしい召喚主に、ララは涙目で訴える。
「あの、わたくしにも出来るようでしたら、手伝わせてください、エル様」
エリアストはアリスを誰にも見せたくない。けれど常に一緒にいたい。そう言うと、アリスが信じられないことを提案してくれた。エリアストの影に隠れられると言うのだ。だからこうして人目がなくなると、すぐにアリスを呼び出して抱き締める。
「アリスは優しいな。もちろんアリスに出来ないことはないが、あれはアレでも出来ること。アリスにはアリスにしか出来ないことをやってもらう」
「はい、何なりと申しつけてくださいませ、エル様」
「こうして私に癒しを与え続けてくれ。私から離れてはダメだ。私以外に目を向けずに、私だけを見てくれ、アリス」
顔中にくちづけるエリアスト。アリスは真っ赤になってエリアストの頬を両手で押さえる。
「は、恥ずかしいので、お止めくださいませ、エル様」
そんな恥じらいも、ますますエリアストの欲に火を着けるとも知らずに。
「ああ、なんて愛おしい。アリス、アリス」
頬を押さえる両手を掴み、机に押し倒す。
「もーっ。イチャイチャは見えないところでやってよっ。なんでこんなに仕事があるんだよーっ」
「そのくらいも熟せないとは無能か貴様」
邪魔をされて若干イラつくエリアストに、ララは泣いた。
「この主、人間じゃないよ。絶対人間じゃない。魔王様だってもっと優しいよ」
ほとほとと涙を落とすララに構うことなく、アリスを思いきり愛でるエリアスト。
悪魔召喚。
今までで一番いい、いや、比ぶべくもない素晴らしい仕事をしたな。
*おしまい*
次話はフルシュターゼ編第9話で挨拶に訪れたケーシー家に、何が起きたか、の話です。
そうだ、悪魔を召喚しよう。
エリアスト・カーサ・ディレイガルドは、世界屈指の大企業の御曹司。多忙を極めているはずなのだが、エリアストはつまらなかった。毎日同じことの繰り返し。会議に視察に商談交渉接待。誰がやってもいいはずなのだが、エリアストが対応すると早くて確実だと父親から言われる。だから何だと思うのだが、他にやることもないのでとりあえず大人しく言うことを聞いているが、日に日に仕事量が増えていた。楽しいと思えれば良かったのだが、エリアストは、このルーティンに嫌気がさしていた。
ちなみにだが、エリアストの仕事をルーティンとは言わない。確かに仕事は会議や視察などなのだが、すべて内容が異なり、かつ複雑。それを、大きな括りで考え、ルーティンだと言ってしまえるその頭脳は計り知れない。そして頭の良すぎる人の考えは、凡人には理解出来ないのも仕方がないことと言えた。
やりたいことも未だ見つからないので、現状を自身でなんとかしようと考えた結果、悪魔召喚というなかなか楽しい発想に行き着いた。
多忙の合間を縫って召喚に必要な情報を集める。
そしていよいよその日が来た。
悪魔なんて本当にいるのだろうか。まあいたらとにかく現状を何とかさせよう。何か凄いモノが出て来て、世界を混沌に陥れるとか滅ぼすとかになっても、それはそれで面白そうだ。
そんな軽い気持ちで召喚に必要な準備を調えた。
「これで、血を垂らせば良いのか」
エリアストは躊躇いもなく指先を切り、魔方陣に血を落とす。すると、陣が光り出し、部屋が真っ白に染まった。エリアストは眩しさに目を閉じ、暫くして収まった光に、ゆっくり目を開けた。陣は光ったままだ。しかし、その陣の真ん中には、人影があった。
「ふむ。成功か。本当にいたのだな、悪魔というものは」
「呼び出したのはおまえか」
悪魔がそう言った。
「誰に向かって口をきいている」
エリアストは悪魔にアイアンクロウをした。
「いだだだだだだっ。ちょ、何この人間!躊躇いもなく悪魔に触れるとか!正気?!」
「名を名乗れ」
悪魔を従属させるには名が必要らしい。
「わかった、わかったから手ぇ離して!お願いします!」
エリアストが手を離すと、悪魔は涙目になりながら左手で顔を撫でた。
「うう、悪魔に痛みを与えるってどういうことだよ。普通の人間には無理なんだからね」
「名・を・名・乗・れ」
「ララです!」
ブチブチ愚痴を言っていると、エリアストの圧ある声が降ってきた。悪魔は背筋を伸ばしてそう名乗った。
「その右手に抱いているのは何だ」
ララの抱き締めているものを指す。するとララは隠すようにギュッとそれを抱き抱えた。
「この子はダメ」
「私が呼び出したのだ。それも私のだろう」
ララがキッとエリアストを睨みつけた。
「悪魔は一人で充分だろ。さっさと願いを言いなよ」
「だから誰に口をきいているんだ貴様」
頬を引っ張られ、ララは涙目で、すみません!と謝った。すると。
「ふにゅ」
ララが抱いている者が声を出した。その愛らしい声に、エリアストの意識が向く。もぞもぞとララの腕の中で動く様に、何だか目が離せない。
「にゅ。おねえしゃま。おはようごじゃいまふ」
目を擦りながら、まだ覚醒しきらないままにララの腕の中で可愛らしく挨拶をした。そしてキョロキョロと辺りを見回す。エリアストと目が合った。
「あ、あの、お、おはよう、ございます?」
寝起きを見られて恥ずかしそうに挨拶をするもう一人に、エリアストは全身に衝撃を受けた。エリアストはすかさずもう一人の手を取ると、その甲にくちづけた。
「おまえの名は、何と言う」
手から唇を離さないまま問うエリアストに、もう一人は顔を真っ赤にしながら戸惑う。
「アリス!名乗っちゃダメだよ!」
おまえが名乗ってしまったではないか、と言うエリアストの心の内はとりあえず口には出さずに、アリス自ら名乗るのを待つ。
「名を知られたら一生隷属させられる!アリスは名乗っちゃダメだからね!」
アリスは困ったように眉を下げた。
「あの、お姉様。すみません、既にお姉様がわたくしを呼んでいらっしゃいます」
「ああっ?!」
ララは青ざめた。何てことをしてしまったのだろう。名前さえ知られなければ、願いを叶えさえすれば帰れたのに。頭を抱えるララに、アリスは大丈夫ですよ、と優しく声をかける。
お姉様と呼ぶからには妹なのだろう。姉より余程落ち着いている。
「召喚主様でいらっしゃいますね。わたくし、アリスと申します。何なりとご命令くださいませ」
エリアストはくちづけていた手を自分へと引っ張る。
「あ」
アリスがエリアストの胸にすっぽりと収まった。
「私と結婚しよう、アリス」
「ふえ?」
「一生大事にする。ずっと一緒にいてくれ、アリス」
「あ、あの、それが、ご命令ですか?」
「違う。アリスの意志で私の側にいてくれ。アリスが結婚してもいいと思えるまで待つ。生涯かけて、その気にさせる。絶対に離さない。だから早く私の側にいてもいいと思ってくれ」
「ふええ?」
「少しは手伝ってよーっ」
エリアストの執務室。ララの嘆きがこだまする。
誰も側に置くことがなかったエリアスト。それが突然秘書と紹介された美女ライラ(偽名)。社員たちは、婚約者だと噂した。誰にも表情を動かすことのないエリアストが、ライラには口角を上げることがあることも、噂に信憑性を持たせた。
「おまえなんぞ使い潰したって心が痛まん」
「痛める心ないよね?絶対ないよね?」
悪魔よりも悪魔らしい召喚主に、ララは涙目で訴える。
「あの、わたくしにも出来るようでしたら、手伝わせてください、エル様」
エリアストはアリスを誰にも見せたくない。けれど常に一緒にいたい。そう言うと、アリスが信じられないことを提案してくれた。エリアストの影に隠れられると言うのだ。だからこうして人目がなくなると、すぐにアリスを呼び出して抱き締める。
「アリスは優しいな。もちろんアリスに出来ないことはないが、あれはアレでも出来ること。アリスにはアリスにしか出来ないことをやってもらう」
「はい、何なりと申しつけてくださいませ、エル様」
「こうして私に癒しを与え続けてくれ。私から離れてはダメだ。私以外に目を向けずに、私だけを見てくれ、アリス」
顔中にくちづけるエリアスト。アリスは真っ赤になってエリアストの頬を両手で押さえる。
「は、恥ずかしいので、お止めくださいませ、エル様」
そんな恥じらいも、ますますエリアストの欲に火を着けるとも知らずに。
「ああ、なんて愛おしい。アリス、アリス」
頬を押さえる両手を掴み、机に押し倒す。
「もーっ。イチャイチャは見えないところでやってよっ。なんでこんなに仕事があるんだよーっ」
「そのくらいも熟せないとは無能か貴様」
邪魔をされて若干イラつくエリアストに、ララは泣いた。
「この主、人間じゃないよ。絶対人間じゃない。魔王様だってもっと優しいよ」
ほとほとと涙を落とすララに構うことなく、アリスを思いきり愛でるエリアスト。
悪魔召喚。
今までで一番いい、いや、比ぶべくもない素晴らしい仕事をしたな。
*おしまい*
次話はフルシュターゼ編第9話で挨拶に訪れたケーシー家に、何が起きたか、の話です。
応援ありがとうございます!
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