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ばんがいへん
Dahlia ー後編ー
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二人、森をゆっくり散策している。デュイエは緊張のあまり、汗が止まらない。
「デュイエ様は、婚約なさっていますの」
ダリアの言葉に、一瞬理解が追いつかなかったが、すぐに首を振って否定する。
「あ、いえ、自分は、こんななので、その、なかなか、踏み出せずに、おります、です」
しどろもどろと答えるデュイエの顔を、ダリアが覗き込む。
「五つも年が下は嫌ですか。わたくしが結婚できる歳になる頃には、デュイエ様は二十三。お待ちになれませんか」
もういっそのこと、意識を失いたかった。結婚?この美しい人と、平々凡々な自分が?
「あと四年以上もお待たせしてしまうのは忍びないです。お父様に誠心誠意お願いして参ります。十五で婚姻できるよう法を変えてくださるように」
「ままままま、待って、待ってくださいっ」
話がとんでもない方向に行きそうなので、とりあえず止める。深呼吸を繰り返し、立ち止まると、ダリアを見た。
「あ、あなた様は、まだ、これからたくさんの出会いを、なさるでしょう。こんな、私など、つまらないだけの、男など、あなた様のお名に、傷を、つけて、しまうでしょう」
「もう一度、聞きましょう。五つも年が下は嫌ですか。わたくしが結婚できる歳になる頃には、あなたは二十三。お待ちになれませんか」
デュイエの言葉に返事をせず、ダリアは同じ質問を繰り返した。
「な、なぜ、私、なのですか」
「わたくしの質問が先ですが、それにお答えすれば、わたくしの質問にお答えいただけるのですか」
「う、あ、は、はい」
「正直申しまして、理由はわかりません。一目見て、あなただ、と思ったのです。そうとしか申し上げられないのです」
これでは答えになりませんか、と僅かに眉を下げるダリアに、デュイエは困り果てた。
こんなにも美しい人が、自分を見初めるなんて。況して、公爵家。それも筆頭の。からかわれているのではないだろうか。本当に自分は、取り立てて言えるようなことなど何もない。
「わ、たし、は、本当に、つまらない、男なのです」
ダリアは黙って聞いた。
「学園でも、目立ったところもなく、いても、いなくても、変わらない、存在でした」
ダリアを真っ直ぐに見つめる。からかわれているのではない、と、本当はわかっている。その、ダリアの目は、何故かわからないけれど、本当に自分を、愛しいと思ってくれていると、はっきりわかる。
「あなた様の、年齢は、その、き、気に、なりません。本当です。ただ、その」
そこまで言って、デュイエは言葉に詰まった。ダリアは急かすこともせず、ただデュイエの言葉を待った。暫くして、デュイエは覚悟を決めたのだろう。顔を真っ赤にさせながら、ダリアに言った。
「私は、次男で、継げる爵位も、ありません」
しどろもどろになりながら、デュイエは頑張る。
「ですので、兄の、補佐をしながら、独り身で、生きていこうと、思っておりました」
不器用に、言葉を紡いでいく。
「文官に、なれるほどの、頭もなく、武官に、なれるほど、武芸に、秀でても、おりません」
不甲斐ない自分を隠すことなく曝け出す。
「きっと、私は、あなた様に、苦労を、かけてしまう。あの、で、ですので」
断られそうだ、とダリアは思った。
デュイエはギュッと目を瞑り、
「法を、変えるのは、ご容赦ください」
ぺこりと頭を下げた。
法を変えたところで、嫁いでもらう気はないということか。
「あ、あなた様が、成人するまでに、わ、私が、あなた様に、その」
後が続かない。
ダリアは溜め息を堪える。出会うのが早すぎたか。成人するまでに自分に興味を持てたら考える、とでも言われるのだろう。
デュイエはやがて意を決して、ダリアを真っ直ぐに見つめた。
「あなた様に、ふ、相応しく、なれるよう、努力する時間を、く、ください、ませんか」
まさかの肯定。ダリアは目を丸くした後、デュイエに抱きついた。デュイエは慌てる。
「ディレイガルド令嬢様っ」
「ディア」
ダリアはデュイエを見上げる。
「ディアと、お呼びください」
蕩けるような笑顔に、デュイエはますます顔を赤くする。
「っ、でぃ、でぃあ、様」
ダリアの両手がデュイエの頬を包むと、そのまま引き寄せた。
そっと唇が重なった。
「羨ましいね、ディア」
エリアストもライリアストも、言ってしまえばディレイガルドの血は、みんな生涯を共にする者がわかった。わかる故、出会えなかった者は、生涯独身であった。必ず出会えるわけではないが、かなりの確率で出会えている。
「私は出会えないかも知れないから、たくさん子どもを産んで、ディア」
そして養子としてディレイガルドに迎え入れたい。しかしダリアは首を振る。
「ノアにわたくしの唯一がわかったのならわたくしにもわかるわ。二人で見つけられないことはない。出会えない、という気もしないわ。何となく、だけれど、学園で出会う気がするの」
*おしまい*
次話はエル様が世界を救うかどうかわからないファンタジー前後編をお届けします。
「デュイエ様は、婚約なさっていますの」
ダリアの言葉に、一瞬理解が追いつかなかったが、すぐに首を振って否定する。
「あ、いえ、自分は、こんななので、その、なかなか、踏み出せずに、おります、です」
しどろもどろと答えるデュイエの顔を、ダリアが覗き込む。
「五つも年が下は嫌ですか。わたくしが結婚できる歳になる頃には、デュイエ様は二十三。お待ちになれませんか」
もういっそのこと、意識を失いたかった。結婚?この美しい人と、平々凡々な自分が?
「あと四年以上もお待たせしてしまうのは忍びないです。お父様に誠心誠意お願いして参ります。十五で婚姻できるよう法を変えてくださるように」
「ままままま、待って、待ってくださいっ」
話がとんでもない方向に行きそうなので、とりあえず止める。深呼吸を繰り返し、立ち止まると、ダリアを見た。
「あ、あなた様は、まだ、これからたくさんの出会いを、なさるでしょう。こんな、私など、つまらないだけの、男など、あなた様のお名に、傷を、つけて、しまうでしょう」
「もう一度、聞きましょう。五つも年が下は嫌ですか。わたくしが結婚できる歳になる頃には、あなたは二十三。お待ちになれませんか」
デュイエの言葉に返事をせず、ダリアは同じ質問を繰り返した。
「な、なぜ、私、なのですか」
「わたくしの質問が先ですが、それにお答えすれば、わたくしの質問にお答えいただけるのですか」
「う、あ、は、はい」
「正直申しまして、理由はわかりません。一目見て、あなただ、と思ったのです。そうとしか申し上げられないのです」
これでは答えになりませんか、と僅かに眉を下げるダリアに、デュイエは困り果てた。
こんなにも美しい人が、自分を見初めるなんて。況して、公爵家。それも筆頭の。からかわれているのではないだろうか。本当に自分は、取り立てて言えるようなことなど何もない。
「わ、たし、は、本当に、つまらない、男なのです」
ダリアは黙って聞いた。
「学園でも、目立ったところもなく、いても、いなくても、変わらない、存在でした」
ダリアを真っ直ぐに見つめる。からかわれているのではない、と、本当はわかっている。その、ダリアの目は、何故かわからないけれど、本当に自分を、愛しいと思ってくれていると、はっきりわかる。
「あなた様の、年齢は、その、き、気に、なりません。本当です。ただ、その」
そこまで言って、デュイエは言葉に詰まった。ダリアは急かすこともせず、ただデュイエの言葉を待った。暫くして、デュイエは覚悟を決めたのだろう。顔を真っ赤にさせながら、ダリアに言った。
「私は、次男で、継げる爵位も、ありません」
しどろもどろになりながら、デュイエは頑張る。
「ですので、兄の、補佐をしながら、独り身で、生きていこうと、思っておりました」
不器用に、言葉を紡いでいく。
「文官に、なれるほどの、頭もなく、武官に、なれるほど、武芸に、秀でても、おりません」
不甲斐ない自分を隠すことなく曝け出す。
「きっと、私は、あなた様に、苦労を、かけてしまう。あの、で、ですので」
断られそうだ、とダリアは思った。
デュイエはギュッと目を瞑り、
「法を、変えるのは、ご容赦ください」
ぺこりと頭を下げた。
法を変えたところで、嫁いでもらう気はないということか。
「あ、あなた様が、成人するまでに、わ、私が、あなた様に、その」
後が続かない。
ダリアは溜め息を堪える。出会うのが早すぎたか。成人するまでに自分に興味を持てたら考える、とでも言われるのだろう。
デュイエはやがて意を決して、ダリアを真っ直ぐに見つめた。
「あなた様に、ふ、相応しく、なれるよう、努力する時間を、く、ください、ませんか」
まさかの肯定。ダリアは目を丸くした後、デュイエに抱きついた。デュイエは慌てる。
「ディレイガルド令嬢様っ」
「ディア」
ダリアはデュイエを見上げる。
「ディアと、お呼びください」
蕩けるような笑顔に、デュイエはますます顔を赤くする。
「っ、でぃ、でぃあ、様」
ダリアの両手がデュイエの頬を包むと、そのまま引き寄せた。
そっと唇が重なった。
「羨ましいね、ディア」
エリアストもライリアストも、言ってしまえばディレイガルドの血は、みんな生涯を共にする者がわかった。わかる故、出会えなかった者は、生涯独身であった。必ず出会えるわけではないが、かなりの確率で出会えている。
「私は出会えないかも知れないから、たくさん子どもを産んで、ディア」
そして養子としてディレイガルドに迎え入れたい。しかしダリアは首を振る。
「ノアにわたくしの唯一がわかったのならわたくしにもわかるわ。二人で見つけられないことはない。出会えない、という気もしないわ。何となく、だけれど、学園で出会う気がするの」
*おしまい*
次話はエル様が世界を救うかどうかわからないファンタジー前後編をお届けします。
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