59 / 79
フルシュターゼの町編
16
しおりを挟む
「貴様の認識は間違っている。国への貢献も財の潤沢さも、ディレイガルドは他の追随を許さん。単純に財だけで言えば、この国の国家予算の五年分は優に超える」
アルシレイスの目が落ちそうだ。自分たちの調べでは、国家予算の半分程度の財だったからだ。それが、五年分だと?単純計算で?
「目に見えるものをすべてだと思うな。この国の最高位にいてそんなこともわからんとは、実に嘆かわしい」
ディアンはアルシレイスを睨む。
「おまえたちの処遇が決まった。アルシレイス」
アルシレイスの肩が揺れた。
「おまえの家は取り潰しだ」
アルシレイスが、意味がわからない、という目を向ける。
「は、な、何ですと?と、とり、取り、潰し?」
ディアンは、同じことを言わせるなと言うように冷たい目で肯定した。そして固まっている子女たちに向かって、
「おまえたちの家は全員降格」
そう沙汰を下す。子女たちも明らかに動揺している。公爵家に逆らえず、ただついて来ただけだというのに、あんまりではないか。口には出さないが、態度がそう言っている。ディアンは鼻で嗤う。軽薄な気持ちでくっついて来たくせに被害者気取りとは。ディレイガルドを見たい、あわよくばお近づきに、なんて魂胆が透けて見える。もう話は終わりだとばかりに立ち去ろうとしたディアンを止めたのは、もちろんアルシレイス。
「いや、待て、何故だ、何故」
体を怒りに震わせるアルシレイスに、ディアンは溜め息を吐いた。
「ディレイガルドを怒らせるからだ。私は言った。手を出すなと」
「ふざけるな!そんなこと認めん!認めんぞ!」
アルシレイスは真っ赤な顔をして、怒りを全身から迸らせた。
「貴様が認めようが認めまいが決定事項。覆らん」
子どもをあしらうような態度に、ますますアルシレイスは憤慨する。
「ふざけるなふざけるなふざけるな!この犬めが!貴様はディレイガルドの犬だ!何が王族!何が王家!ディレイガルドに尻尾を振る、ただの薄汚い犬ではないか!」
「最期にひとつ、この国の実態を教えてやろう」
不敬どころではないアルシレイスの言葉に、ディアンは静かに言った。見る者が見ればわかる。誰がこの国の主なのか。
「我々王族は、ディレイガルドの駒だよ」
その場の全員がキョトンとした。言っている意味がわからない。アルシレイスなど、王家はディレイガルドの犬だとまで言ったにも拘わらず、だ。頭が、理解しようとしない。何を言われたのだろう。そんな困惑を余所に、ディアンは嗤う。
「不敬罪には問わないよ。なぜならおまえたちの運命は、もう決まっている」
*~*~*~*~*
ディアンがアルシレイスたちと話をしている頃。
「今夜護送が到着するだろう。おまえたちで対応をしろ」
畏まりました、と双子は頭を下げる。ディレイガルドを名乗る者として、このくらいの対応はそつなく熟せなくてはならない。エリアストとアリスは出掛けるため留守にする、という意味であることも同時に理解している。
エリアストは、初めてのことはすべてアリスと二人きりで思い出を共有する。それを邪魔する無粋な輩はここにはいない。二人の子どもとは言え、いや、二人の子どもだからこそ、両親の時間の邪魔をしない。不可侵の領域を、間違えたりしない。
エリアストはそれだけ言うと、席を立った。湯浴みをしているアリスがもうすぐ戻ってくる。その前にエリアストも湯浴みを済ませるためだ。
エリアストが部屋を出ると、双子は話し始めた。
「たくさん実験体が手に入った」
ノアリアストが薄く笑う。
「あの部屋、暫く賑やかになる」
王城の地下部屋を思い、ダリアも薄く笑う。
「リカリエットのあの二人、まだ壊れてないんでしょ」
「壊れてないよ。さすがお父様だ」
「昔やり過ぎて早々に壊したって聞いた。その女が弱すぎたっていうのもあるみたいだけど」
「学園に通っていた頃、お母様を攫ったっていうゴミの」
「拷問にかけて正気を取り戻させたって言うのも凄い」
「私にも出来るかな」
「やってみよう、ディア」
「そうだね。たくさん実験体、いるからね、ノア」
「今日はとても天気がいい。エルシィ、夜は星を見に行こう」
アリスにそう伝えていたので、早めの入浴となった。伝えたときのアリスの反応が可愛すぎた。
「まあっ。はい、はい。参りましょう、参りましょう、エル様」
アリスがキラキラと輝く瞳で喜んでくれた。あまりの可愛さに、エリアストは自身の顔を押さえる。
このまま部屋に閉じ込めてしまいたい。
そんな欲望と葛藤する羽目になった。
*最終話へつづく*
アルシレイスの目が落ちそうだ。自分たちの調べでは、国家予算の半分程度の財だったからだ。それが、五年分だと?単純計算で?
「目に見えるものをすべてだと思うな。この国の最高位にいてそんなこともわからんとは、実に嘆かわしい」
ディアンはアルシレイスを睨む。
「おまえたちの処遇が決まった。アルシレイス」
アルシレイスの肩が揺れた。
「おまえの家は取り潰しだ」
アルシレイスが、意味がわからない、という目を向ける。
「は、な、何ですと?と、とり、取り、潰し?」
ディアンは、同じことを言わせるなと言うように冷たい目で肯定した。そして固まっている子女たちに向かって、
「おまえたちの家は全員降格」
そう沙汰を下す。子女たちも明らかに動揺している。公爵家に逆らえず、ただついて来ただけだというのに、あんまりではないか。口には出さないが、態度がそう言っている。ディアンは鼻で嗤う。軽薄な気持ちでくっついて来たくせに被害者気取りとは。ディレイガルドを見たい、あわよくばお近づきに、なんて魂胆が透けて見える。もう話は終わりだとばかりに立ち去ろうとしたディアンを止めたのは、もちろんアルシレイス。
「いや、待て、何故だ、何故」
体を怒りに震わせるアルシレイスに、ディアンは溜め息を吐いた。
「ディレイガルドを怒らせるからだ。私は言った。手を出すなと」
「ふざけるな!そんなこと認めん!認めんぞ!」
アルシレイスは真っ赤な顔をして、怒りを全身から迸らせた。
「貴様が認めようが認めまいが決定事項。覆らん」
子どもをあしらうような態度に、ますますアルシレイスは憤慨する。
「ふざけるなふざけるなふざけるな!この犬めが!貴様はディレイガルドの犬だ!何が王族!何が王家!ディレイガルドに尻尾を振る、ただの薄汚い犬ではないか!」
「最期にひとつ、この国の実態を教えてやろう」
不敬どころではないアルシレイスの言葉に、ディアンは静かに言った。見る者が見ればわかる。誰がこの国の主なのか。
「我々王族は、ディレイガルドの駒だよ」
その場の全員がキョトンとした。言っている意味がわからない。アルシレイスなど、王家はディレイガルドの犬だとまで言ったにも拘わらず、だ。頭が、理解しようとしない。何を言われたのだろう。そんな困惑を余所に、ディアンは嗤う。
「不敬罪には問わないよ。なぜならおまえたちの運命は、もう決まっている」
*~*~*~*~*
ディアンがアルシレイスたちと話をしている頃。
「今夜護送が到着するだろう。おまえたちで対応をしろ」
畏まりました、と双子は頭を下げる。ディレイガルドを名乗る者として、このくらいの対応はそつなく熟せなくてはならない。エリアストとアリスは出掛けるため留守にする、という意味であることも同時に理解している。
エリアストは、初めてのことはすべてアリスと二人きりで思い出を共有する。それを邪魔する無粋な輩はここにはいない。二人の子どもとは言え、いや、二人の子どもだからこそ、両親の時間の邪魔をしない。不可侵の領域を、間違えたりしない。
エリアストはそれだけ言うと、席を立った。湯浴みをしているアリスがもうすぐ戻ってくる。その前にエリアストも湯浴みを済ませるためだ。
エリアストが部屋を出ると、双子は話し始めた。
「たくさん実験体が手に入った」
ノアリアストが薄く笑う。
「あの部屋、暫く賑やかになる」
王城の地下部屋を思い、ダリアも薄く笑う。
「リカリエットのあの二人、まだ壊れてないんでしょ」
「壊れてないよ。さすがお父様だ」
「昔やり過ぎて早々に壊したって聞いた。その女が弱すぎたっていうのもあるみたいだけど」
「学園に通っていた頃、お母様を攫ったっていうゴミの」
「拷問にかけて正気を取り戻させたって言うのも凄い」
「私にも出来るかな」
「やってみよう、ディア」
「そうだね。たくさん実験体、いるからね、ノア」
「今日はとても天気がいい。エルシィ、夜は星を見に行こう」
アリスにそう伝えていたので、早めの入浴となった。伝えたときのアリスの反応が可愛すぎた。
「まあっ。はい、はい。参りましょう、参りましょう、エル様」
アリスがキラキラと輝く瞳で喜んでくれた。あまりの可愛さに、エリアストは自身の顔を押さえる。
このまま部屋に閉じ込めてしまいたい。
そんな欲望と葛藤する羽目になった。
*最終話へつづく*
81
お気に入りに追加
547
あなたにおすすめの小説

夫が愛人を離れに囲っているようなので、私も念願の猫様をお迎えいたします
葉柚
恋愛
ユフィリア・マーマレード伯爵令嬢は、婚約者であるルードヴィッヒ・コンフィチュール辺境伯と無事に結婚式を挙げ、コンフィチュール伯爵夫人となったはずであった。
しかし、ユフィリアの夫となったルードヴィッヒはユフィリアと結婚する前から離れの屋敷に愛人を住まわせていたことが使用人たちの口から知らされた。
ルードヴィッヒはユフィリアには目もくれず、離れの屋敷で毎日過ごすばかり。結婚したというのにユフィリアはルードヴィッヒと簡単な挨拶は交わしてもちゃんとした言葉を交わすことはなかった。
ユフィリアは決意するのであった。
ルードヴィッヒが愛人を離れに囲うなら、自分は前々からお迎えしたかった猫様を自室に迎えて愛でると。
だが、ユフィリアの決意をルードヴィッヒに伝えると思いもよらぬ事態に……。

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!

【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました
八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます
修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。
その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。
彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。
ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。
一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。
必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。
なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ──
そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。
これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。
※小説家になろうが先行公開です
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

王弟殿下の番様は溺れるほどの愛をそそがれ幸せに…
ましろ
恋愛
見つけた!愛しい私の番。ようやく手に入れることができた私の宝玉。これからは私のすべてで愛し、護り、共に生きよう。
王弟であるコンラート公爵が番を見つけた。
それは片田舎の貴族とは名ばかりの貧乏男爵の娘だった。物語のような幸運を得た少女に人々は賞賛に沸き立っていた。
貧しかった少女は番に愛されそして……え?

皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

最悪なお見合いと、執念の再会
当麻月菜
恋愛
伯爵令嬢のリシャーナ・エデュスは学生時代に、隣国の第七王子ガルドシア・フェ・エデュアーレから告白された。
しかし彼は留学期間限定の火遊び相手を求めていただけ。つまり、真剣に悩んだあの頃の自分は黒歴史。抹消したい過去だった。
それから一年後。リシャーナはお見合いをすることになった。
相手はエルディック・アラド。侯爵家の嫡男であり、かつてリシャーナに告白をしたクズ王子のお目付け役で、黒歴史を知るただ一人の人。
最低最悪なお見合い。でも、もう片方は執念の再会ーーの始まり始まり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる