53 / 79
フルシュターゼの町編
10
しおりを挟む
とある日のとあるお茶会にて。
「本日はお招きくださり、ありがとうございます。お久しゅうございます、アグリューシャ様」
「ブロウガンからいつお戻りに?」
「ええ、本当にお久し振りね。つい先日戻ったばかりよ。みなさんもお変わりがないようで何よりだわ」
最終学年の年から二年の留学をしていたアグリューシャ。留学先のブロウガン王国から戻り、学園で親しかった者たちを招いて茶会を開いた。
「思いの外、学ぶことがたくさんあったのよ。みなさんより一年デビューが遅れたけれど、これからもよろしくね」
デビュタント自体は一旦帰国して済ませていたが、まだ社交界には出ていないアグリューシャ。
「もちろんですわ!」
「アグリューシャ様がいらっしゃれば、社交界も楽しくなりますわね」
「まあ、お上手」
学友たちの賛辞に微笑む。
「本当のことですもの」
「その通りですわ。留学先のお話し、たくさん聞かせてくださいませ」
「ふふ、もちろんよ。でもその前に、あなたたちに聞きたいことがあるの」
「聞きたいこと、ですか」
「どのようなことでしょう」
「ディレイガルドのご当主様って、そんなに美しいの?」
学友たちが顔を見合わせる。
「ええ、ええ、それはもう!」
「噂などあてにならないと思っておりましたが、ねえ?」
「そうそう、そうなんですのよ。反対の意味であてになりませんでしたわ」
「噂以上、いえ、ご当主を目の当たりにしましたら噂など、こーんなにちっぽけなものですわ。想像以上の美しさですわ、アグリューシャ様」
頬を染め、口々にディレイガルドの容姿を褒めちぎる学友を見て、アグリューシャは期待した。
「それほどなの?」
アグリューシャの喉がゴクリと鳴った。
「それはもう、言葉では表せませんわ」
「あのお姿を見て倒れなかった者はおりません」
「必ず一度は倒れますわよね」
はしゃぐ学友たちの言葉に、アグリューシャは何かを考え込むように、扇を広げて口元を隠した。
「奥方様を溺愛していらっしゃると言う噂も、本当なの?」
アグリューシャが言うと、学友たちはさらに顔を赤くして頷いた。
「本当に、とてもとても愛していらっしゃいますわ」
「あのお姿を見ると、冷酷だの残酷だのという噂が嘘のよう」
「あの、リカリエット王国のことや、オーシャニア家のことがございましたけれど、ねえ?」
学友たちは、リカリエットの惨劇は見ていない。自分たちの両親に引きずられるようにして会場を後にした。オーシャニア家のことは、やり取りを実際目の当たりにはしたが、言葉の応酬だけであったため、残酷さが今一理解できていなかった。
アグリューシャも両親から常々ディレイガルドのことは聞いている。留学している間も、逐一家からディレイガルドの報告がされていたので、もしかしたらここにいる者たちよりも、余程詳しく色々な出来事を知っているだろう。
「ですが今、王都を離れていらっしゃるのですよね」
その言葉を発した学友を見る。
「王都を?」
留学から戻ったばかりで忙しなかったため、直近の動きについてまでまだ両親と話が出来ていなかった。両親からの情報だけでなく、周囲からの情報も欲しかったため、留学から戻ってすぐ茶会が開けるよう準備をお願いしてはいた。そこから情報を得られると両親も考えていたのかも知れない。そして、その情報を得て、どう動くのかまで、両親は見たかったのだろう。
「ひと月の休暇で、ご遊覧されているとか」
「どちらへ行かれたのかしら」
「詳しくは。ですが、フルシュターゼに滞在されると伺ったような」
「リスフォニアの?」
「はい」
「ねえ、みなさん」
アグリューシャはニッコリと笑った。
アルシレイス公爵家に逆らえる者など、この場にはいない。
*つづく*
「本日はお招きくださり、ありがとうございます。お久しゅうございます、アグリューシャ様」
「ブロウガンからいつお戻りに?」
「ええ、本当にお久し振りね。つい先日戻ったばかりよ。みなさんもお変わりがないようで何よりだわ」
最終学年の年から二年の留学をしていたアグリューシャ。留学先のブロウガン王国から戻り、学園で親しかった者たちを招いて茶会を開いた。
「思いの外、学ぶことがたくさんあったのよ。みなさんより一年デビューが遅れたけれど、これからもよろしくね」
デビュタント自体は一旦帰国して済ませていたが、まだ社交界には出ていないアグリューシャ。
「もちろんですわ!」
「アグリューシャ様がいらっしゃれば、社交界も楽しくなりますわね」
「まあ、お上手」
学友たちの賛辞に微笑む。
「本当のことですもの」
「その通りですわ。留学先のお話し、たくさん聞かせてくださいませ」
「ふふ、もちろんよ。でもその前に、あなたたちに聞きたいことがあるの」
「聞きたいこと、ですか」
「どのようなことでしょう」
「ディレイガルドのご当主様って、そんなに美しいの?」
学友たちが顔を見合わせる。
「ええ、ええ、それはもう!」
「噂などあてにならないと思っておりましたが、ねえ?」
「そうそう、そうなんですのよ。反対の意味であてになりませんでしたわ」
「噂以上、いえ、ご当主を目の当たりにしましたら噂など、こーんなにちっぽけなものですわ。想像以上の美しさですわ、アグリューシャ様」
頬を染め、口々にディレイガルドの容姿を褒めちぎる学友を見て、アグリューシャは期待した。
「それほどなの?」
アグリューシャの喉がゴクリと鳴った。
「それはもう、言葉では表せませんわ」
「あのお姿を見て倒れなかった者はおりません」
「必ず一度は倒れますわよね」
はしゃぐ学友たちの言葉に、アグリューシャは何かを考え込むように、扇を広げて口元を隠した。
「奥方様を溺愛していらっしゃると言う噂も、本当なの?」
アグリューシャが言うと、学友たちはさらに顔を赤くして頷いた。
「本当に、とてもとても愛していらっしゃいますわ」
「あのお姿を見ると、冷酷だの残酷だのという噂が嘘のよう」
「あの、リカリエット王国のことや、オーシャニア家のことがございましたけれど、ねえ?」
学友たちは、リカリエットの惨劇は見ていない。自分たちの両親に引きずられるようにして会場を後にした。オーシャニア家のことは、やり取りを実際目の当たりにはしたが、言葉の応酬だけであったため、残酷さが今一理解できていなかった。
アグリューシャも両親から常々ディレイガルドのことは聞いている。留学している間も、逐一家からディレイガルドの報告がされていたので、もしかしたらここにいる者たちよりも、余程詳しく色々な出来事を知っているだろう。
「ですが今、王都を離れていらっしゃるのですよね」
その言葉を発した学友を見る。
「王都を?」
留学から戻ったばかりで忙しなかったため、直近の動きについてまでまだ両親と話が出来ていなかった。両親からの情報だけでなく、周囲からの情報も欲しかったため、留学から戻ってすぐ茶会が開けるよう準備をお願いしてはいた。そこから情報を得られると両親も考えていたのかも知れない。そして、その情報を得て、どう動くのかまで、両親は見たかったのだろう。
「ひと月の休暇で、ご遊覧されているとか」
「どちらへ行かれたのかしら」
「詳しくは。ですが、フルシュターゼに滞在されると伺ったような」
「リスフォニアの?」
「はい」
「ねえ、みなさん」
アグリューシャはニッコリと笑った。
アルシレイス公爵家に逆らえる者など、この場にはいない。
*つづく*
76
お気に入りに追加
548
あなたにおすすめの小説

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。

王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
【本編完結・番外編不定期更新】
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます

皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。

関係を終わらせる勢いで留学して数年後、犬猿の仲の狼王子がおかしいことになっている
百門一新
恋愛
人族貴族の公爵令嬢であるシェスティと、獣人族であり六歳年上の第一王子カディオが、出会った時からずっと犬猿の仲なのは有名な話だった。賢い彼女はある日、それを終わらせるべく(全部捨てる勢いで)隣国へ保留学した。だが、それから数年、彼女のもとに「――カディオが、私を見ないと動機息切れが収まらないので来てくれ、というお願いはなんなの?」という変な手紙か実家から来て、帰国することに。そうしたら、彼の様子が変で……?
※さくっと読める短篇です、お楽しみいだたけましたら幸いです!
※他サイト様にも掲載
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない
鈴宮(すずみや)
恋愛
孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。
しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。
その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?

【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!
高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。
7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。
だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。
成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。
そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る
【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる