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フルシュターゼの町編
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とある日のとあるお茶会にて。
「本日はお招きくださり、ありがとうございます。お久しゅうございます、アグリューシャ様」
「ブロウガンからいつお戻りに?」
「ええ、本当にお久し振りね。つい先日戻ったばかりよ。みなさんもお変わりがないようで何よりだわ」
最終学年の年から二年の留学をしていたアグリューシャ。留学先のブロウガン王国から戻り、学園で親しかった者たちを招いて茶会を開いた。
「思いの外、学ぶことがたくさんあったのよ。みなさんより一年デビューが遅れたけれど、これからもよろしくね」
デビュタント自体は一旦帰国して済ませていたが、まだ社交界には出ていないアグリューシャ。
「もちろんですわ!」
「アグリューシャ様がいらっしゃれば、社交界も楽しくなりますわね」
「まあ、お上手」
学友たちの賛辞に微笑む。
「本当のことですもの」
「その通りですわ。留学先のお話し、たくさん聞かせてくださいませ」
「ふふ、もちろんよ。でもその前に、あなたたちに聞きたいことがあるの」
「聞きたいこと、ですか」
「どのようなことでしょう」
「ディレイガルドのご当主様って、そんなに美しいの?」
学友たちが顔を見合わせる。
「ええ、ええ、それはもう!」
「噂などあてにならないと思っておりましたが、ねえ?」
「そうそう、そうなんですのよ。反対の意味であてになりませんでしたわ」
「噂以上、いえ、ご当主を目の当たりにしましたら噂など、こーんなにちっぽけなものですわ。想像以上の美しさですわ、アグリューシャ様」
頬を染め、口々にディレイガルドの容姿を褒めちぎる学友を見て、アグリューシャは期待した。
「それほどなの?」
アグリューシャの喉がゴクリと鳴った。
「それはもう、言葉では表せませんわ」
「あのお姿を見て倒れなかった者はおりません」
「必ず一度は倒れますわよね」
はしゃぐ学友たちの言葉に、アグリューシャは何かを考え込むように、扇を広げて口元を隠した。
「奥方様を溺愛していらっしゃると言う噂も、本当なの?」
アグリューシャが言うと、学友たちはさらに顔を赤くして頷いた。
「本当に、とてもとても愛していらっしゃいますわ」
「あのお姿を見ると、冷酷だの残酷だのという噂が嘘のよう」
「あの、リカリエット王国のことや、オーシャニア家のことがございましたけれど、ねえ?」
学友たちは、リカリエットの惨劇は見ていない。自分たちの両親に引きずられるようにして会場を後にした。オーシャニア家のことは、やり取りを実際目の当たりにはしたが、言葉の応酬だけであったため、残酷さが今一理解できていなかった。
アグリューシャも両親から常々ディレイガルドのことは聞いている。留学している間も、逐一家からディレイガルドの報告がされていたので、もしかしたらここにいる者たちよりも、余程詳しく色々な出来事を知っているだろう。
「ですが今、王都を離れていらっしゃるのですよね」
その言葉を発した学友を見る。
「王都を?」
留学から戻ったばかりで忙しなかったため、直近の動きについてまでまだ両親と話が出来ていなかった。両親からの情報だけでなく、周囲からの情報も欲しかったため、留学から戻ってすぐ茶会が開けるよう準備をお願いしてはいた。そこから情報を得られると両親も考えていたのかも知れない。そして、その情報を得て、どう動くのかまで、両親は見たかったのだろう。
「ひと月の休暇で、ご遊覧されているとか」
「どちらへ行かれたのかしら」
「詳しくは。ですが、フルシュターゼに滞在されると伺ったような」
「リスフォニアの?」
「はい」
「ねえ、みなさん」
アグリューシャはニッコリと笑った。
アルシレイス公爵家に逆らえる者など、この場にはいない。
*つづく*
「本日はお招きくださり、ありがとうございます。お久しゅうございます、アグリューシャ様」
「ブロウガンからいつお戻りに?」
「ええ、本当にお久し振りね。つい先日戻ったばかりよ。みなさんもお変わりがないようで何よりだわ」
最終学年の年から二年の留学をしていたアグリューシャ。留学先のブロウガン王国から戻り、学園で親しかった者たちを招いて茶会を開いた。
「思いの外、学ぶことがたくさんあったのよ。みなさんより一年デビューが遅れたけれど、これからもよろしくね」
デビュタント自体は一旦帰国して済ませていたが、まだ社交界には出ていないアグリューシャ。
「もちろんですわ!」
「アグリューシャ様がいらっしゃれば、社交界も楽しくなりますわね」
「まあ、お上手」
学友たちの賛辞に微笑む。
「本当のことですもの」
「その通りですわ。留学先のお話し、たくさん聞かせてくださいませ」
「ふふ、もちろんよ。でもその前に、あなたたちに聞きたいことがあるの」
「聞きたいこと、ですか」
「どのようなことでしょう」
「ディレイガルドのご当主様って、そんなに美しいの?」
学友たちが顔を見合わせる。
「ええ、ええ、それはもう!」
「噂などあてにならないと思っておりましたが、ねえ?」
「そうそう、そうなんですのよ。反対の意味であてになりませんでしたわ」
「噂以上、いえ、ご当主を目の当たりにしましたら噂など、こーんなにちっぽけなものですわ。想像以上の美しさですわ、アグリューシャ様」
頬を染め、口々にディレイガルドの容姿を褒めちぎる学友を見て、アグリューシャは期待した。
「それほどなの?」
アグリューシャの喉がゴクリと鳴った。
「それはもう、言葉では表せませんわ」
「あのお姿を見て倒れなかった者はおりません」
「必ず一度は倒れますわよね」
はしゃぐ学友たちの言葉に、アグリューシャは何かを考え込むように、扇を広げて口元を隠した。
「奥方様を溺愛していらっしゃると言う噂も、本当なの?」
アグリューシャが言うと、学友たちはさらに顔を赤くして頷いた。
「本当に、とてもとても愛していらっしゃいますわ」
「あのお姿を見ると、冷酷だの残酷だのという噂が嘘のよう」
「あの、リカリエット王国のことや、オーシャニア家のことがございましたけれど、ねえ?」
学友たちは、リカリエットの惨劇は見ていない。自分たちの両親に引きずられるようにして会場を後にした。オーシャニア家のことは、やり取りを実際目の当たりにはしたが、言葉の応酬だけであったため、残酷さが今一理解できていなかった。
アグリューシャも両親から常々ディレイガルドのことは聞いている。留学している間も、逐一家からディレイガルドの報告がされていたので、もしかしたらここにいる者たちよりも、余程詳しく色々な出来事を知っているだろう。
「ですが今、王都を離れていらっしゃるのですよね」
その言葉を発した学友を見る。
「王都を?」
留学から戻ったばかりで忙しなかったため、直近の動きについてまでまだ両親と話が出来ていなかった。両親からの情報だけでなく、周囲からの情報も欲しかったため、留学から戻ってすぐ茶会が開けるよう準備をお願いしてはいた。そこから情報を得られると両親も考えていたのかも知れない。そして、その情報を得て、どう動くのかまで、両親は見たかったのだろう。
「ひと月の休暇で、ご遊覧されているとか」
「どちらへ行かれたのかしら」
「詳しくは。ですが、フルシュターゼに滞在されると伺ったような」
「リスフォニアの?」
「はい」
「ねえ、みなさん」
アグリューシャはニッコリと笑った。
アルシレイス公爵家に逆らえる者など、この場にはいない。
*つづく*
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