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フルシュターゼの町編

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 フルシュターゼは、星の降る町として密かに有名だった。
 星が降るとはどういうことかと、噂を聞きつけた者たちが一目見ようと訪れる。時々高貴な身分の者も混じり始めたため、リスフォニア伯に町の者が嘆願し、高級宿を建てることとなった。町の景観にそぐわなかったため、自然の多い広大な土地に、大きくはないが、美しい宿が二棟出来た。それが二年前だ。
 貴族を相手にするのだ。従業員も徹底的に洗練された者でなくてはならない。直接客を相手にする者は、貴族の中でも家督を継げない者が雇用されている。接客は任されていない職でも、声をかけられることもないわけではないので、徹底した教育の施された地元民を配置していた。
 この宿の最大宿泊者数は二家族。一家族に一棟が提供される。滅多に二棟が埋まる日はないが、それぞれの棟は離れているため、貴族同士で顔を合わせることはない。
 「すごく、緊張する」
 本日から暫く滞在予定の貴族を思い、一人が胃の付近を押さえる。
 「失敗は赦されない。命で償うしかない」
 諦念の様相を見せる従業員たち。そんな従業員たちに、支配人は苦笑する。
 「気持ちはわかりますよ。ですが、いつも通りです。いつも通りやれば失敗はありません。日々の研鑽を、自分の努力を認めてあげてください」
 白髪を綺麗に後ろに撫で付け、片眼鏡モノクルの目を細めて穏やかに話す支配人の言葉に、従業員たちは自然と肩の力が抜ける。
 リスフォニア前当主の家令を勤め上げた、モリノ・レストーニア。前当主が鬼籍に入ると、自分の息子に現当主の家令を任せて引退した人物だ。非常に切れ者で、彼のお陰でリスフォニアの今があると言っても過言ではない。この密かに注目を集める星降る町のイメージも、彼の仕事だ。最近の仕事で言えば、この高級宿建設の陣頭指揮も執ってきた。毎日埋まるわけではない部屋だが、維持費はもちろん、貴族の性格と、赤字にならないギリギリの経営を考え、二棟とした。
 「ディレイガルド公爵様御一行の一番の注意点は、何度も申し上げておりますが、奥様です。奥様には決して関わってはいけません」
 これだけ聞くと、ディレイガルド夫人、つまりアリスがやべえ人物に聞こえる。
 「公爵様の逆鱗に触れてはなりません。万が一奥様に話しかけられたら、必要最低限のことのみお答えしなさい。いいですね」
 従業員たちは、はい、と緊張の面持ちで返事をした。
 「知っている者も多いでしょうが、公爵様は本当にお美しい。そのご尊顔を拝見賜れるこの機会、大いに喜びましょう。ああ、倒れないように気を付けてくださいね。社交界でも倒れる者が後を絶たないので」
 ふふ、と笑う。
 「基本は私が対応します。みなさんが、そこから何かを学び取っていただければ重畳ちょうじょうですね」


*つづく*
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