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リカリエット王国編
幕間 ~夜更かし~
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微睡みの中をたゆたう。
幸せな温もりに包まれている。ずっとこうしていたいと、その温もりに擦り寄る。すると、その温もりがより熱を持ち、強く包み込んだ。息が出来ないほどの苦しさに、微睡みから目覚める。
「えるさま」
アリスは幸せの正体を見て、嬉しさから顔を綻ばせた。
「起こしてしまった。すまない、エルシィ」
申し訳なさそうに眉を下げるエリアストが可愛らしい。
何年経っても愛しさが失せることはなく、ますます積もっていくばかり。たくさんの幸せを惜しげもなく与えてくれる愛しい人。
「いいえ。おはようございます、エル様」
「いや、まだ夜は明けていない、エルシィ」
少し目を見開いた後、苦笑するように言うエリアストに、少し周囲を見回す。
「まあ。本当。暗いですわね」
「もう少し眠るといい、エルシィ」
大きな優しい手が、慈しむように頭を撫でてくれた。どうしようもなく幸せ。
「あの、エル様」
明日、と言うか、もう今日になるか。エリアストは一ヶ月の休暇に入る。二週間と言われていたが、延長させたと言っていた。エリアストの職場の人たちには申し訳ないが、とても嬉しい。そんな時間に余裕があるせいか、少し、ワガママを言ってみたくなった。
「エル様がお疲れではないようでしたら、あの、少し、このまま、お話ししませんか」
エリアストの腕に包まれながら、おずおずとエリアストを見上げる。何だか眠れそうにない。エリアストが疲れていないなら、たまには夜更かしをして語り合ってみたい。とりとめない話を、また眠りにつくまで。
「ああ、ああ。もちろん、エルシィの気が済むまで話をしよう」
「ふふ。わたくしの気が済むまでですか。それではずっと眠れませんよ、エル様」
これほど愛し愛される存在に出会えた奇跡に、アリスは感謝をした。
*~*~*~*~*
アリスを抱き締めて眠る心地よさは、どんな安らぎにも例えられない。
アリスの柔らかな体を感じ、アリスの匂いを感じ、アリスの吐息を感じ、アリスの存在を五感すべてで感じる。この幸せを、何と言うのだろう。
アリスが身動いだことに気付き、目が覚めた。いやだ、離れないでくれ。そう思い、アリスを逃がすまいと腕に力を入れようとした。
何ということだ。
「アリス」
吐息で愛しい人の名を呼ぶ。
より、アリスが自分に擦り寄ってくれたのだ。なんて幸せ。なんて愛しい。
ああ、このまま一つの存在になれたらいいのに。そうすれば、なんの憂いもなくなる。ずっとずっと、離れることなく一緒にいられるのに。溶け合うように抱き締める。すると、アリスがゆっくり目覚めた。
「えるさま」
微睡みから目覚めた愛らしい声が呼ぶ。そしてひどく嬉しそうに顔を綻ばせてくれた。
「起こしてしまった。すまない、エルシィ」
謝りつつ、その笑顔を見せてもらえた悦びが全身を包む。
「いいえ。おはようございます、エル様」
「いや、まだ夜は明けていない、エルシィ」
そう言うと、アリスは僅かに首を巡らせた。
「まあ。本当。暗いですわね」
本当になんて可愛い存在だろう。
「もう少し眠るといい、エルシィ」
優しく頭を撫でる。アリスは蕩けるように目を細めた。あまりの愛しさに固まってしまう。そしてさらに。
「あの、エル様」
ちらりと上目遣いをされた。なんだこれ。私をどうしたいんだ、エルシィ。
「エル様がお疲れではないようでしたら、あの、少し、このまま、お話ししませんか」
お話し、だと?
ぐぅっ。そんな純真な目で見つめられてしまっては私の欲望をぶつけることなど出来ないっ。鎮まれ煩悩!
「ああ、ああ。もちろん、エルシィの気が済むまで話をしよう」
「ふふ。わたくしの気が済むまでですか。それではずっと眠れませんよ、エル様」
天使なのか小悪魔なのかわからん、エルシィ!
仕切り直しの晩餐会は無事終わり、翌日から一ヶ月の長期休暇をもぎ取ったエリアスト。それに合わせるように、アリスも慈善活動などはお休みだ。子どもたちを連れて、ゆっくり長期の旅行に行く。国内でまだ行っていない絶景を見に行く。数年前にその噂を耳にしていたが、少々距離があるため、なかなか機会に恵まれなかった。
昨日の晩餐会で、エリアストがディアンに一ヶ月の休暇に変更を求めたため、本来二週間の予定で行こうと思っていた場所だけではなく、噂の場所へも行くこととなった。そのため追加の準備が必要となり、今日は一日ゆっくり過ごせる。準備をするみんなには申し訳ないが、楽しみで仕方がない。そんな思いと時間の余裕からか、アリスはエリアストと夜更かしをしてみたのだった。
*おしまい*
次が最終章となります。旅行先で巻き起こるあれこれのお話しです。最後までお付き合いくださるととても嬉しくありがたいです。よろしくお願いいたします。
幸せな温もりに包まれている。ずっとこうしていたいと、その温もりに擦り寄る。すると、その温もりがより熱を持ち、強く包み込んだ。息が出来ないほどの苦しさに、微睡みから目覚める。
「えるさま」
アリスは幸せの正体を見て、嬉しさから顔を綻ばせた。
「起こしてしまった。すまない、エルシィ」
申し訳なさそうに眉を下げるエリアストが可愛らしい。
何年経っても愛しさが失せることはなく、ますます積もっていくばかり。たくさんの幸せを惜しげもなく与えてくれる愛しい人。
「いいえ。おはようございます、エル様」
「いや、まだ夜は明けていない、エルシィ」
少し目を見開いた後、苦笑するように言うエリアストに、少し周囲を見回す。
「まあ。本当。暗いですわね」
「もう少し眠るといい、エルシィ」
大きな優しい手が、慈しむように頭を撫でてくれた。どうしようもなく幸せ。
「あの、エル様」
明日、と言うか、もう今日になるか。エリアストは一ヶ月の休暇に入る。二週間と言われていたが、延長させたと言っていた。エリアストの職場の人たちには申し訳ないが、とても嬉しい。そんな時間に余裕があるせいか、少し、ワガママを言ってみたくなった。
「エル様がお疲れではないようでしたら、あの、少し、このまま、お話ししませんか」
エリアストの腕に包まれながら、おずおずとエリアストを見上げる。何だか眠れそうにない。エリアストが疲れていないなら、たまには夜更かしをして語り合ってみたい。とりとめない話を、また眠りにつくまで。
「ああ、ああ。もちろん、エルシィの気が済むまで話をしよう」
「ふふ。わたくしの気が済むまでですか。それではずっと眠れませんよ、エル様」
これほど愛し愛される存在に出会えた奇跡に、アリスは感謝をした。
*~*~*~*~*
アリスを抱き締めて眠る心地よさは、どんな安らぎにも例えられない。
アリスの柔らかな体を感じ、アリスの匂いを感じ、アリスの吐息を感じ、アリスの存在を五感すべてで感じる。この幸せを、何と言うのだろう。
アリスが身動いだことに気付き、目が覚めた。いやだ、離れないでくれ。そう思い、アリスを逃がすまいと腕に力を入れようとした。
何ということだ。
「アリス」
吐息で愛しい人の名を呼ぶ。
より、アリスが自分に擦り寄ってくれたのだ。なんて幸せ。なんて愛しい。
ああ、このまま一つの存在になれたらいいのに。そうすれば、なんの憂いもなくなる。ずっとずっと、離れることなく一緒にいられるのに。溶け合うように抱き締める。すると、アリスがゆっくり目覚めた。
「えるさま」
微睡みから目覚めた愛らしい声が呼ぶ。そしてひどく嬉しそうに顔を綻ばせてくれた。
「起こしてしまった。すまない、エルシィ」
謝りつつ、その笑顔を見せてもらえた悦びが全身を包む。
「いいえ。おはようございます、エル様」
「いや、まだ夜は明けていない、エルシィ」
そう言うと、アリスは僅かに首を巡らせた。
「まあ。本当。暗いですわね」
本当になんて可愛い存在だろう。
「もう少し眠るといい、エルシィ」
優しく頭を撫でる。アリスは蕩けるように目を細めた。あまりの愛しさに固まってしまう。そしてさらに。
「あの、エル様」
ちらりと上目遣いをされた。なんだこれ。私をどうしたいんだ、エルシィ。
「エル様がお疲れではないようでしたら、あの、少し、このまま、お話ししませんか」
お話し、だと?
ぐぅっ。そんな純真な目で見つめられてしまっては私の欲望をぶつけることなど出来ないっ。鎮まれ煩悩!
「ああ、ああ。もちろん、エルシィの気が済むまで話をしよう」
「ふふ。わたくしの気が済むまでですか。それではずっと眠れませんよ、エル様」
天使なのか小悪魔なのかわからん、エルシィ!
仕切り直しの晩餐会は無事終わり、翌日から一ヶ月の長期休暇をもぎ取ったエリアスト。それに合わせるように、アリスも慈善活動などはお休みだ。子どもたちを連れて、ゆっくり長期の旅行に行く。国内でまだ行っていない絶景を見に行く。数年前にその噂を耳にしていたが、少々距離があるため、なかなか機会に恵まれなかった。
昨日の晩餐会で、エリアストがディアンに一ヶ月の休暇に変更を求めたため、本来二週間の予定で行こうと思っていた場所だけではなく、噂の場所へも行くこととなった。そのため追加の準備が必要となり、今日は一日ゆっくり過ごせる。準備をするみんなには申し訳ないが、楽しみで仕方がない。そんな思いと時間の余裕からか、アリスはエリアストと夜更かしをしてみたのだった。
*おしまい*
次が最終章となります。旅行先で巻き起こるあれこれのお話しです。最後までお付き合いくださるととても嬉しくありがたいです。よろしくお願いいたします。
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