上 下
43 / 78
リカリエット王国編

幕間 ~夜更かし~

しおりを挟む
 微睡まどろみの中をたゆたう。
 幸せな温もりに包まれている。ずっとこうしていたいと、その温もりに擦り寄る。すると、その温もりがより熱を持ち、強く包み込んだ。息が出来ないほどの苦しさに、微睡みから目覚める。
 「えるさま」
 アリスは幸せの正体を見て、嬉しさから顔を綻ばせた。
 「起こしてしまった。すまない、エルシィ」
 申し訳なさそうに眉を下げるエリアストが可愛らしい。
 何年経っても愛しさが失せることはなく、ますます積もっていくばかり。たくさんの幸せを惜しげもなく与えてくれる愛しい人。
 「いいえ。おはようございます、エル様」
 「いや、まだ夜は明けていない、エルシィ」
 少し目を見開いた後、苦笑するように言うエリアストに、少し周囲を見回す。
 「まあ。本当。暗いですわね」
 「もう少し眠るといい、エルシィ」
 大きな優しい手が、慈しむように頭を撫でてくれた。どうしようもなく幸せ。
 「あの、エル様」
 明日、と言うか、もう今日になるか。エリアストは一ヶ月の休暇に入る。二週間と言われていたが、延長させたと言っていた。エリアストの職場の人たちには申し訳ないが、とても嬉しい。そんな時間に余裕があるせいか、少し、ワガママを言ってみたくなった。
 「エル様がお疲れではないようでしたら、あの、少し、このまま、お話ししませんか」
 エリアストの腕に包まれながら、おずおずとエリアストを見上げる。何だか眠れそうにない。エリアストが疲れていないなら、たまには夜更かしをして語り合ってみたい。とりとめない話を、また眠りにつくまで。
 「ああ、ああ。もちろん、エルシィの気が済むまで話をしよう」
 「ふふ。わたくしの気が済むまでですか。それではずっと眠れませんよ、エル様」
 これほど愛し愛される存在に出会えた奇跡に、アリスは感謝をした。

*~*~*~*~*

 アリスを抱き締めて眠る心地よさは、どんな安らぎにも例えられない。
 アリスの柔らかな体を感じ、アリスの匂いを感じ、アリスの吐息を感じ、アリスの存在を五感すべてで感じる。この幸せを、何と言うのだろう。
 アリスが身動みじろいだことに気付き、目が覚めた。いやだ、離れないでくれ。そう思い、アリスを逃がすまいと腕に力を入れようとした。
 何ということだ。
 「アリス」
 吐息で愛しい人の名を呼ぶ。
 より、アリスが自分に擦り寄ってくれたのだ。なんて幸せ。なんて愛しい。
 ああ、このまま一つの存在になれたらいいのに。そうすれば、なんの憂いもなくなる。ずっとずっと、離れることなく一緒にいられるのに。溶け合うように抱き締める。すると、アリスがゆっくり目覚めた。
 「えるさま」
 微睡みから目覚めた愛らしい声が呼ぶ。そしてひどく嬉しそうに顔を綻ばせてくれた。
 「起こしてしまった。すまない、エルシィ」
 謝りつつ、その笑顔を見せてもらえた悦びが全身を包む。
 「いいえ。おはようございます、エル様」
 「いや、まだ夜は明けていない、エルシィ」
 そう言うと、アリスは僅かに首を巡らせた。
 「まあ。本当。暗いですわね」
 本当になんて可愛い存在だろう。
 「もう少し眠るといい、エルシィ」
 優しく頭を撫でる。アリスはとろけるように目を細めた。あまりの愛しさに固まってしまう。そしてさらに。
 「あの、エル様」
 ちらりと上目遣いをされた。なんだこれ。私をどうしたいんだ、エルシィ。
 「エル様がお疲れではないようでしたら、あの、少し、このまま、お話ししませんか」
 お話し、だと?
 ぐぅっ。そんな純真な目で見つめられてしまっては私の欲望をぶつけることなど出来ないっ。鎮まれ煩悩!
 「ああ、ああ。もちろん、エルシィの気が済むまで話をしよう」
 「ふふ。わたくしの気が済むまでですか。それではずっと眠れませんよ、エル様」
 天使なのか小悪魔なのかわからん、エルシィ!


 仕切り直しの晩餐会は無事終わり、翌日から一ヶ月の長期休暇をもぎ取ったエリアスト。それに合わせるように、アリスも慈善活動などはお休みだ。子どもたちを連れて、ゆっくり長期の旅行に行く。国内でまだ行っていない絶景を見に行く。数年前にその噂を耳にしていたが、少々距離があるため、なかなか機会に恵まれなかった。
 昨日の晩餐会で、エリアストがディアンに一ヶ月の休暇に変更を求めたため、本来二週間の予定で行こうと思っていた場所だけではなく、噂の場所へも行くこととなった。そのため追加の準備が必要となり、今日は一日ゆっくり過ごせる。準備をするみんなには申し訳ないが、楽しみで仕方がない。そんな思いと時間の余裕からか、アリスはエリアストと夜更かしをしてみたのだった。



*おしまい*

 次が最終章となります。旅行先で巻き起こるあれこれのお話しです。最後までお付き合いくださるととても嬉しくありがたいです。よろしくお願いいたします。
 
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

外では氷の騎士なんて呼ばれてる旦那様に今日も溺愛されてます

刻芦葉
恋愛
王国に仕える近衛騎士ユリウスは一切笑顔を見せないことから氷の騎士と呼ばれていた。ただそんな氷の騎士様だけど私の前だけは優しい笑顔を見せてくれる。今日も私は不器用だけど格好いい旦那様に溺愛されています。

政略結婚だけど溺愛されてます

紗夏
恋愛
隣国との同盟の証として、その国の王太子の元に嫁ぐことになったソフィア。 結婚して1年経っても未だ形ばかりの妻だ。 ソフィアは彼を愛しているのに…。 夫のセオドアはソフィアを大事にはしても、愛してはくれない。 だがこの結婚にはソフィアも知らない事情があって…?! 不器用夫婦のすれ違いストーリーです。

再会したスパダリ社長は強引なプロポーズで私を離す気はないようです

星空永遠
恋愛
6年前、ホームレスだった藤堂樹と出会い、一緒に暮らしていた。しかし、ある日突然、藤堂は桜井千夏の前から姿を消した。それから6年ぶりに再会した藤堂は藤堂ブランド化粧品の社長になっていた!?結婚を前提に交際した二人は45階建てのタマワン最上階で再び同棲を始める。千夏が知らない世界を藤堂は教え、藤堂のスパダリ加減に沼っていく千夏。藤堂は千夏が好きすぎる故に溺愛を超える執着愛で毎日のように愛を囁き続けた。 2024年4月21日 公開 2024年4月21日 完結 ☆ベリーズカフェ、魔法のiらんどにて同作品掲載中。

【完結】婚約者が好きなのです

maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。 でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。 冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。 彼の幼馴染だ。 そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。 私はどうすればいいのだろうか。 全34話(番外編含む) ※他サイトにも投稿しております ※1話〜4話までは文字数多めです 注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

夫が私に魅了魔法をかけていたらしい

綺咲 潔
恋愛
公爵令嬢のエリーゼと公爵のラディリアスは2年前に結婚して以降、まるで絵に描いたように幸せな結婚生活を送っている。 そのはずなのだが……最近、何だかラディリアスの様子がおかしい。 気になったエリーゼがその原因を探ってみると、そこには女の影が――? そんな折、エリーゼはラディリアスに呼び出され、思いもよらぬ告白をされる。 「君が僕を好いてくれているのは、魅了魔法の効果だ。つまり……本当の君は僕のことを好きじゃない」   私が夫を愛するこの気持ちは偽り? それとも……。 *全17話で完結予定。

【完結】溺愛婚約者の裏の顔 ~そろそろ婚約破棄してくれませんか~

瀬里
恋愛
(なろうの異世界恋愛ジャンルで日刊7位頂きました)  ニナには、幼い頃からの婚約者がいる。  3歳年下のティーノ様だ。  本人に「お前が行き遅れになった頃に終わりだ」と宣言されるような、典型的な「婚約破棄前提の格差婚約」だ。  行き遅れになる前に何とか婚約破棄できないかと頑張ってはみるが、うまくいかず、最近ではもうそれもいいか、と半ばあきらめている。  なぜなら、現在16歳のティーノ様は、匂いたつような色香と初々しさとを併せ持つ、美青年へと成長してしまったのだ。おまけに人前では、誰もがうらやむような溺愛ぶりだ。それが偽物だったとしても、こんな風に夢を見させてもらえる体験なんて、そうそうできやしない。  もちろん人前でだけで、裏ではひどいものだけど。  そんな中、第三王女殿下が、ティーノ様をお気に召したらしいという噂が飛び込んできて、あきらめかけていた婚約破棄がかなうかもしれないと、ニナは行動を起こすことにするのだが――。  全7話の短編です 完結確約です。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

処理中です...