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ディレイガルド事変編
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「こんなわたくしにも、皆様に対する接し方と同じようにして下さいました。決してわたくしを貶めず、碌な返事も出来ないわたくしにも、呆れることなく付き合って下さいました。雲の上の存在だというのに、いつもいつも、平等に接して下さいましたっ」
柔らかな声と、柔らかな微笑み。すべての人に向けるものと、同じ眼差し。
「わたくしは、何もありません。何も、何も。ですから、ひとつでいい。たったひとつ、誰にも嗤われない、誇れるものが欲しかった」
毅然と顔を上げ、真っ直ぐにエリアストを見た。
「公爵様はそのお姿もお名前もアリス様を愛する心もっ。何もかもキレイですっ。たくさん、たくさんキレイなものをお持ちですっ」
エリアストは、シズワナの言葉を黙って聞いていた。
「わたくしにも、ひとつくらいキレイなものをくださっても良いではないですかっ」
シズワナの中で、何かが吹っ切れたのだろう。どうせ死ぬのだ。それならば、欲しいものを欲しいと、この世で一番大好きな人を望んで死にたい。
「エルシィを私から奪うということは、私からすべてを奪うということだ。ひとつではない」
エリアストが口を開いた。アリスの腰をさらに引き寄せ、決して離すまいとする。アリスの顔が赤く染まる。
「公爵様の持つもので、一番、キレイなものが欲しかった」
シズワナは、ドレスを握り締め、唇を噛みしめて俯く。
「そう、それは正解だ。エルシィはこの世で一番美しい」
勢いよく顔を上げるシズワナ。
おや?と周囲は思う。
「そうですわ。アリス様は、こんなわたくしにもいつも優しくお声がけくださる天使。紛う事なき女神ですの」
先程までの張り詰めた空気は何だったのだろう。アリス様、お顔を赤くされて、おろおろしております。どうしていいかわからないご様子がお可愛らしい。
「その通りだ。エルシィは貴様らのような有象無象にも慈悲を与える女神だ」
魔王様とあの娘さんの言葉のやり取りに、アリス様、もう首まで真っ赤です。顔を両手で覆う姿のなんと尊いことか。
「キレイなものに囲まれて、ずるいじゃないですか。一番キレイなもの、くれてもいいじゃない」
「もう一度言う。エルシィを私から奪うということは、私からすべてを奪うということだ。ひとつではない」
「公爵様は、地位も名誉も、お金だってあるではないですか。何でも持っているではないですか」
「そんなものがエルシィの代わりになるとでも思っているのか。エルシィの代わりなど、存在しない」
ああああ、アリス様、耐えきれずに魔王様の胸に顔を埋めて隠れてしまいましたよ。魔王様が愛おしそうにその頭にくちづけております。マジで尊い。と言うより、どんな展開だよ。仲間なの。敵対しているの。何なの。それはそれとして、あの令嬢すげぇな。魔王様と渡り合っているよ。逆鱗のはずのアリス様を奪い合っているのに、殺されていないことがマジですげぇ。あれか。アリス様を純粋に女神として崇めているからか。何か、魔王様の何かと通ずるものがあるのか。
「オーシェン家」
そう思っていた時期もありました。
「全員毒を呷れ」
魔王様は、魔王様だったのです。
*最終話へつづく*
柔らかな声と、柔らかな微笑み。すべての人に向けるものと、同じ眼差し。
「わたくしは、何もありません。何も、何も。ですから、ひとつでいい。たったひとつ、誰にも嗤われない、誇れるものが欲しかった」
毅然と顔を上げ、真っ直ぐにエリアストを見た。
「公爵様はそのお姿もお名前もアリス様を愛する心もっ。何もかもキレイですっ。たくさん、たくさんキレイなものをお持ちですっ」
エリアストは、シズワナの言葉を黙って聞いていた。
「わたくしにも、ひとつくらいキレイなものをくださっても良いではないですかっ」
シズワナの中で、何かが吹っ切れたのだろう。どうせ死ぬのだ。それならば、欲しいものを欲しいと、この世で一番大好きな人を望んで死にたい。
「エルシィを私から奪うということは、私からすべてを奪うということだ。ひとつではない」
エリアストが口を開いた。アリスの腰をさらに引き寄せ、決して離すまいとする。アリスの顔が赤く染まる。
「公爵様の持つもので、一番、キレイなものが欲しかった」
シズワナは、ドレスを握り締め、唇を噛みしめて俯く。
「そう、それは正解だ。エルシィはこの世で一番美しい」
勢いよく顔を上げるシズワナ。
おや?と周囲は思う。
「そうですわ。アリス様は、こんなわたくしにもいつも優しくお声がけくださる天使。紛う事なき女神ですの」
先程までの張り詰めた空気は何だったのだろう。アリス様、お顔を赤くされて、おろおろしております。どうしていいかわからないご様子がお可愛らしい。
「その通りだ。エルシィは貴様らのような有象無象にも慈悲を与える女神だ」
魔王様とあの娘さんの言葉のやり取りに、アリス様、もう首まで真っ赤です。顔を両手で覆う姿のなんと尊いことか。
「キレイなものに囲まれて、ずるいじゃないですか。一番キレイなもの、くれてもいいじゃない」
「もう一度言う。エルシィを私から奪うということは、私からすべてを奪うということだ。ひとつではない」
「公爵様は、地位も名誉も、お金だってあるではないですか。何でも持っているではないですか」
「そんなものがエルシィの代わりになるとでも思っているのか。エルシィの代わりなど、存在しない」
ああああ、アリス様、耐えきれずに魔王様の胸に顔を埋めて隠れてしまいましたよ。魔王様が愛おしそうにその頭にくちづけております。マジで尊い。と言うより、どんな展開だよ。仲間なの。敵対しているの。何なの。それはそれとして、あの令嬢すげぇな。魔王様と渡り合っているよ。逆鱗のはずのアリス様を奪い合っているのに、殺されていないことがマジですげぇ。あれか。アリス様を純粋に女神として崇めているからか。何か、魔王様の何かと通ずるものがあるのか。
「オーシェン家」
そう思っていた時期もありました。
「全員毒を呷れ」
魔王様は、魔王様だったのです。
*最終話へつづく*
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