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ディレイガルド事変編
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“アリス・コーサ・ファナトラタに戻れ。”
二通目の怪文書に、エリアストは執務室の机を破壊した。凍てつく空気を放つエリアストに、オルガサレスも護衛たちも身を縮める。
「何故また届く」
探せと言ったはずだ。一週間もあった。何をしていた。
言葉にしないそれらを、全員が理解している。
国内すべての郵便局にディレイガルド家の者を配置し、過去ひと月に渡る膨大な記録をチェックし、その間ディレイガルド宛に持ち込まれたものもすべてを改めた。そのため、すぐに解決をみると思っていたのだ。だが、怪しい家も業者もない。改めた中にも、どこにも怪文書はなかった。
それなのに、怪文書は届いた。
消印を見ると、一通目とは違う局のもの。だが、王都内の消印なのだ。どういうことか。見落としでもしたのだろうか。局に持ち込まれたものすべて、配置した人員が直接ディレイガルドに持ち帰っている。そうなると、ディレイガルドに届く郵便物は、人員を配置しなかった国外のもののみのはずなのだ。それなのに、届いた怪文書は、あろうことかこの王都内の消印のもの。全員が青ざめる。
ただでさえ、解決までの五日間は疾うに過ぎている。
「私に、エルシィを、この手に、かけさせるつもりか」
僅かでも、アリスと離れる可能性を秘める怪文書の存在が、殺気を抑えられないほど憎い。アリスを、何よりも大切なアリスを、自身の手にかけなくてはならなくなる可能性のあるこの出来事が、酷く恐ろしい。
そんなことになるのなら、いっそのこと。
我慢を、やめようか。
アリスを閉じ込めてしまおう。誰にも見せず、誰も見せず、鎖に繋いで。昼も夜もなく愛を囁き、狂うほどに求めよう。ああ、いや、ダメだ。閉じ込めるなんて出来ない。太陽の下で笑って欲しい。月の光に照らされて、微笑んでくれ。だから、この国を、この世界を、灰燼に帰そう。何もない世界で、二人きり。誰にも邪魔されず、何にも煩わされず。飽くことなく二人抱き合い、朽ちていく。肉も骨も交わり、土に還る。二人共に、土に還る。
「ああ、とてもいい考えだ」
先程までの殺気が鳴りを潜め、うっそりと笑うエリアストが、何か良からぬことを考えているようで恐ろしかった。
すると。
「旦那様、大丈夫ですか?」
穏やかな声に振り返ると、最愛がそこにいた。
「エルシィ!」
アリスの頬が上気し、息が上がっている。
エリアストの執務室は扉が常に開かれている。いつでもアリスが訪ねてこられるように、その姿を一瞬でも早く見たいために。
「旦那様のお部屋の方から大きな音がしましたので」
温室で摘んだ花を、サロンに活けていたはずだ。そんなに遠いところから、急いで駆けつけてくれたと言うことか。
「まあ、机が。旦那様、どこかお怪我はされてんんっ」
エリアストはアリスを抱え込み、覆い被さるようにアリスの唇を塞ぐ。
部屋にいた者たちは急ぎ扉を閉めて部屋を後にし、エリアストとアリスを二人きりにした。
*つづく*
二通目の怪文書に、エリアストは執務室の机を破壊した。凍てつく空気を放つエリアストに、オルガサレスも護衛たちも身を縮める。
「何故また届く」
探せと言ったはずだ。一週間もあった。何をしていた。
言葉にしないそれらを、全員が理解している。
国内すべての郵便局にディレイガルド家の者を配置し、過去ひと月に渡る膨大な記録をチェックし、その間ディレイガルド宛に持ち込まれたものもすべてを改めた。そのため、すぐに解決をみると思っていたのだ。だが、怪しい家も業者もない。改めた中にも、どこにも怪文書はなかった。
それなのに、怪文書は届いた。
消印を見ると、一通目とは違う局のもの。だが、王都内の消印なのだ。どういうことか。見落としでもしたのだろうか。局に持ち込まれたものすべて、配置した人員が直接ディレイガルドに持ち帰っている。そうなると、ディレイガルドに届く郵便物は、人員を配置しなかった国外のもののみのはずなのだ。それなのに、届いた怪文書は、あろうことかこの王都内の消印のもの。全員が青ざめる。
ただでさえ、解決までの五日間は疾うに過ぎている。
「私に、エルシィを、この手に、かけさせるつもりか」
僅かでも、アリスと離れる可能性を秘める怪文書の存在が、殺気を抑えられないほど憎い。アリスを、何よりも大切なアリスを、自身の手にかけなくてはならなくなる可能性のあるこの出来事が、酷く恐ろしい。
そんなことになるのなら、いっそのこと。
我慢を、やめようか。
アリスを閉じ込めてしまおう。誰にも見せず、誰も見せず、鎖に繋いで。昼も夜もなく愛を囁き、狂うほどに求めよう。ああ、いや、ダメだ。閉じ込めるなんて出来ない。太陽の下で笑って欲しい。月の光に照らされて、微笑んでくれ。だから、この国を、この世界を、灰燼に帰そう。何もない世界で、二人きり。誰にも邪魔されず、何にも煩わされず。飽くことなく二人抱き合い、朽ちていく。肉も骨も交わり、土に還る。二人共に、土に還る。
「ああ、とてもいい考えだ」
先程までの殺気が鳴りを潜め、うっそりと笑うエリアストが、何か良からぬことを考えているようで恐ろしかった。
すると。
「旦那様、大丈夫ですか?」
穏やかな声に振り返ると、最愛がそこにいた。
「エルシィ!」
アリスの頬が上気し、息が上がっている。
エリアストの執務室は扉が常に開かれている。いつでもアリスが訪ねてこられるように、その姿を一瞬でも早く見たいために。
「旦那様のお部屋の方から大きな音がしましたので」
温室で摘んだ花を、サロンに活けていたはずだ。そんなに遠いところから、急いで駆けつけてくれたと言うことか。
「まあ、机が。旦那様、どこかお怪我はされてんんっ」
エリアストはアリスを抱え込み、覆い被さるようにアリスの唇を塞ぐ。
部屋にいた者たちは急ぎ扉を閉めて部屋を後にし、エリアストとアリスを二人きりにした。
*つづく*
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