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アーリオーリ王国編

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 セドニアは目が離せなかった。
 紹介された双子は、セドニアより五つも下。完成された美を纏う美しすぎる双子。確かにディレイガルド当主の子どもであった。
 何も言えないセドニアに、ディアンが背中を叩く。
 「しっかりしろ。おまえが名乗らんと相手も困るだろう」
 ハッとして、慌ててセドニアは名乗る。
 「大変失礼いたしました。セドニア・サラエ・レイガードです。本日は私事でお手を煩わせてしまい、申し訳ございません」
 丁寧に頭を下げるセドニアに、ノアリアストとダリアも返す。
 「ノアリアスト・カーサ・ディレイガルドにございます。よろしくお願い申し上げます」
 「ダリア・カーサ・ディレイガルドにございます。よろしくお願い申し上げます」
 一足先に留学先から戻ったセドニアと、顔合わせのための席が設けられた。
 エリアストを見たカルセドの顔色は悪い。トラウマが刺激されているのだろう。カルセドの妻は、顔を紅潮させ、チラチラとエリアストを伺っている。そんなエリアストは、ソファに座ってアリスにピッタリと寄り添い、腰に回した手はもちろん離れない。アリスの頭にくちづけながら言った。
 「我が家の者を欲しがるのであれば、武を示していただく」
 エリアストの言葉に、王族は首をかしげる。
 「セドニア様は、ダリアとの婚約を望まれている。我がディレイガルド家とえにしを結びたい者は、強くなくてはなりません」
 ノアリアストが説明をする。
 「ダリアを守れなくてはいけません。ダリアより弱くては意味がありません。ですから、ダリアから剣で一本取らなくてはなりません」
 王族は目を見開く。
 「ダリアを諦めるなら辞退して構いません。ただし、辞退した時点で、ダリアを手に入れるすべは永遠に失われます。諦めないのであれば、一本を取れるまで、何度でも挑んでいただいて構いません。という誓約を結んでいることにします」
 これであれば、婚約者ではないが、婚約者候補という意味に取れなくもない。
 「留学から戻ったら、本格的に始動するというていでいきます。ここまではよろしいでしょうか」
 王族たちは頷きつつ、エリアストたちが気になる。ノアリアストが説明をしている視界の端で、エリアストはアリスの顔中にキスの雨を降らせている。真っ赤になっているアリスが非常に愛らしく可哀相だ。そしてそれに対抗するように、ダリアがアリスに膝枕をしてもらいながらお腹にグリグリと顔をうずめている。何をしているんだ。更に言えば、説明をしながらノアリアストはダリアに何かを投げていた。見ると、オナモミだ。大豆くらいの大きさのトゲトゲの緑のアレ。どこに持っていた。ダリアのドレスについたそれをアリスが取ろうと手を伸ばすと、アリスの柔肌に傷がつくとばかりにエリアストがその手に指を絡めて阻止。そこにもキスの雨を降らせる。本当に何をしているんだ、この人たちは。
 「続けます。その王女が、では諦めてその契約を終わらせろ、と言ってきた場合です。そう言ってくるであろう確率が一番高いので、最低でもダリアがデビュタントを迎えるまでは諦めない、という一文が入っています。これで乗り切ります。誓約反故の場合は、その命をもって償うこと、としています」
 これで少なくとも時間稼ぎは出来る。ダリアのデビュタントまで五年近くある。その王女が、それまで指を咥えて待っているとは思えない。何かしらの強硬手段に出てくるだろう。
 「まあ、五年待つか、セドニア様の首が落ちるかのどちらかしかないので、何を言ってきても無駄ではありますね」
 本気か冗談かわからない表情だ。あれ?本当に首を落とさないよね?え?嘘の誓約だよね?
 「待つ、と言ったら、また別の手を考えたらよろしいかと」
 五年あるのです、何か妙案も浮かびましょう、とノアリアストは言った。
 しかし王族たちは、今回で事は済みそうだと確信に近いものをいだいていた。
 ディレイガルド家を見る。
 オナモミを無言で投げ合う双子。
 誰もが息をすることを忘れるほどの美しい存在。
 絶対にあの王女は、ノアリアストを欲しがるだろう。


*つづく*
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