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日常編

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 「エルシィ、今日は茶会だったな。何時くらいに戻る」
 朝目覚めるとすぐ、エリアストはアリスを抱き締めていた腕にさらに力を入れて、ピッタリとくっつきながら言った。
 「そ、ん、エル、んん」
 聞いておいて話をさせる気がないのか、ついばむように何度もくちづける。
 「ん、よ、んぅ」
 「四時か」
 遅いな、と不満そうに、今度は深くくちづける。
 アリスが出掛ける日はいつもこうだ。茶会のときは一段と酷い。厳選して出欠を決めてはいるが、どこに何が潜んでいるかわからないからだ。厳選しているにも関わらず、三回に一回くらいの頻度でトラブルが起きる。茶会禁止の法案を本気で考えたほどだ。
 「今日は私が迎えに行く。それまで無事でいてくれ、エルシィ」
 戦地におもむく恋人への言葉のようだ。確かに茶会は女の戦場でもあるが。
 「エル様が、来てくださるのですか」
 花がほころぶような笑顔を見せたアリスに、エリアストは止まれなくなった。
 朝食の時間が、いつもよりかなり遅くなった。

*~*~*~*~*

 ティスティア伯爵家のお茶会。
 「あなたよりもわたくしの方が遙かに美しいわ。エリアスト様の隣に並んでも遜色ないでしょう。さっさとエリアスト様を解放なさっていただけませんこと?」
 デビュタントを迎えたばかりであろう子女たちがアリスに近付くと、その内の一人がそう告げた。
 共に学園生活を送った者たちと談笑していたアリス。先日、エリアストが街に取りに行ってくれた贈り物のネックレスを、みんなが感嘆の息と共に褒め称えていた時だ。アリスたちは子女たちを見た。バスターチェ家の末の娘だった。アリスと談笑していた者たちの顔色が変わる。すぐにバスターチェ伯爵夫人を呼びに数人が走る。
 取り巻きの子女たちもクスクスと嗤っている。格上の相手にこの物言い、完全にアリスを下に見ている。アリスの子どもとの方が余程歳が近い。そんな人々まで魅了するエリアストの美貌が恐ろしい。
 しかしアリスは穏やかに告げる。
 「そうですわね。バスターチェ様はとても美しいです。ですが、それが何だというのでしょう」
 声は・・穏やか。アリスはニッコリと笑う。
 「旦那様はわたくしを望んでくださり、わたくしも旦那様を望みました。わたくしの旦那様を名前でお呼びになったことは聞かなかったことにいたします。二度目はありません」
 アリスを囲む子女たちは気圧けおされる。儚く感じるこの夫人の、どこにそんな熱が宿っていたのか。
 「な、なんですのっ。そんな脅しに屈するとでも?エリア」
 バシン。
 名を呼ぼうとした途端、アリスが閉じた扇を自身の左の手のひらに打ちつけた。
 アリスの笑みが消えている。
 子女たちは思わず後退あとじさる。
 「二度目はない、と申しました。聞こえませんでしたか」
 こんなこと日常茶飯事。自分が強くならねば、エリアストの負担ばかりが増してしまう。アリスの一番は、エリアスト。自分で自分を守ることが、エリアストを守ることに繋がる。誰に何を言われてもいい。いい人になりたいのではない。大切な人を、守れる人間でいたい。



*つづく*
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