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番外編
まだ知らぬ感情
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お気に入り登録500を超えたことに、多大なる感謝を込めて、一話お届けいたします。
本当にありがとうございます。少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
エリアストとアリスが婚約を結んだばかりの頃の話です。
激甘?エル様ではありません。初期の狂気を孕んだエル様、登場です。ご注意ください。
*∽*∽*∽*∽*
「ファナトラタ家のアリス嬢だろ、それ」
馬車に乗っていたエリアストは、街を歩いていた子息たちのその言葉を捉えた。
先日婚約を結んだ人の名が聞こえた。
アリス、と言ったか。私のものの名を勝手に呼んだのか、あの者。
御者に馬車を止める合図を出す。
陽の落ちる時間が早くなった時季。学園が終わって少ししか経っていないが、もう辺りは薄闇に包まれている。馬車を降りたエリアストは、愚か者の声を探す。と、少し離れたところから、その声を捉えた。
声の方を振り返ると、そこには三人の子息がいた。エリアストは子息たちを見据えた。
三人の話は続いている。思春期特有の、少々色事に染まった会話。
エリアストは背後から一人を路地裏へ蹴り飛ばし、残る二人の襟首を掴んで同じ路地裏へとブン投げた。
これは、知る者の限られた話。
ぐちゃり
粘度の高い血液が、エリアストの拳に一瞬糸を引いた。殴り続けたソレは、もう顔の判別は出来ない。疾うに、息絶えていた。ようやく気が済んだのか、エリアストは立ち上がる。顔面、特に口は原形など止めておらず、喉も潰され、男性器の辺りも夥しい血が広がる無惨な死体が三体。
「私のものを穢した報いだ」
アリスを、妄想とはいえ色事を口にしたことは、到底赦せるものではない。その命を差し出すのは当然である。
最後に相手をしていた男の腹を蹴り上げ、エリアストは去った。
被害者は、学園の生徒三名。
孤児院へ行っていたアリスを見かけた一人が、惹かれたようだ。どこの令嬢かわからなかった生徒は、友人にその令嬢の特徴を伝え尋ねると、一人が知っていた。それが、アリス・コーサ・ファナトラタだと。
これが、三人の命運を分けた。
思春期の男子特有の話も交えながら、アリスとの妄想を口にしてしまったのだ。貴族として、誰が聞いているかわからない公共の場では慎むべき話のはずだが、辺りは既に街灯が灯る薄闇の頃。気持ちが緩んでしまったのだろう。大きな声ではなかったが、五感の異常に優れたエリアストの耳に届いてしまった。
不幸な偶然が重なったのだ。
誰が聞いているともしれない場所でそんな話をしなければ。
アリスを誰も知らなければ。
そもそもそこに、エリアストがいなければ。
起こることのなかった、凄惨な事件。
しかし、この事件がエリアストによるものだと知る者はいない。
ディレイガルドが動いたからだ。
アリスの耳に、入れないために。
まだ、ディレイガルドを受け入れるには、酷だと思えたからに他ならない。
………
……
…
「エル様、お迎えありがとうございます」
まだ、少々緊張気味のアリスが丁寧に頭を下げる。
エリアストが学園の日は、それが終わってからアリスを迎えに来て、共にディレイガルド邸で過ごす。それが、婚約を結んでからの約束事だった。
「エル様、本日は何かございましたか?」
アリスの心配そうな瞳がエリアストを見つめる。
「何故そう思う」
「いつもと、お迎えのお時間が違いましたので。それに、制服ではなく着替えていらっしゃるものですから、勝手ながら、心配しておりました」
言葉の意味がわからず、エリアストはジッとアリスを見ながら尋ねる。
「心配?おまえが?何故」
アリスは困ったように笑う。
「いつもと違うことがあれば、何かあったのかと。エル様に何事もないなら良いのです」
「いつもと違うことがあると、おまえは心配をするのか」
「わたくしだけではございませんわ。大抵の方は、大切な存在を常に気にかけております」
柔らかく微笑むアリスの言葉に、エリアストの心臓がざわめく。
「大切な、存在」
アリスの言葉を口に乗せると、一層心臓がざわめいた。
じわじわと全身に広がる何かにエリアストが戸惑っていると、アリスが目を見開いた。
「まあ、エル様、お怪我をされていますわ」
慌ててハンカチを取り出し、エリアストの耳の下にあてようとするアリスのその手を掴んだ。力加減が上手く出来ないエリアストは、ギチリと握り締めてしまう。
「ぃあっ」
ハンカチが落ちる。それを気にすることなく、エリアストは掴んだアリスの手を見つめ、アリスを見つめた。
「この程度でも、おまえは壊れてしまうのか」
アリスから射貫くような視線を外さず、赤くなったそこに、舌を這わせる。
ふるり
アリスは震えた。
「おまえは、脆い。少し、力の加減を間違えたら、おまえは」
そこまで言って、エリアストは眉を顰めた。アリスのいない未来など、想像もしたくない。
「エル様。わたくしは、エル様と生きていくのです」
エリアストの全身が、ザワリと粟立つ。
「ふたり、共に歩むのです」
体が勝手に動いていた。
腕の中に、アリスを閉じ込めている。
身動ぐアリスに、この程度の力さえアリスには強いのだ、と少し力を緩めると、アリスは体の力を抜いた。身を委ねられた心地よさに、やはりエリアストの全身が粟立つのだ。それが、温かい感情であることにはまだ気付けないでいるが、確実にエリアストの心を揺さぶっていく。
「お怪我をされているのかと。血が付いております」
腕の中で、アリスのくぐもった声がする。
「怪我などしていない。これは、愚か者の血だ。おまえは私のものだ。私以外に触れるなど、況して愚か者に触れることなど赦さん」
腕を解き、アリスの顎を上げさせると、その唇に喰らいついた。片手で後頭部を、もう片手で腰を抱き、逃がさない。
唇を重ねるアリスの真っ赤な顔に、満足そうに目を細める。
全身を支配する、名もわからない感情は、悪くない。いや、心地よい。この感覚は、アリスが側にいるだけで得られる。
触れれば、もっと強くなる。
この感情の名を、遠くない未来に知ることが出来るのだろう。
アリスさえ、側にいれば。
「ああ、エルシィ。」
ようやく離れた唇が、アリスを呼ぶ。アリスは力が入らずエリアストにもたれかかったまま、弱々しくエリアストを見上げる。
「そう。ふたりで、共に、生きよう。アリス」
アリスの短い髪を一房掬い、誓いのようにくちづける。
アリスは、その手にそっと自身の手を重ねた。
「はい。ずっと、一緒です、エル様」
再びふたりの唇が重なった。
*おしまい*
こうしてアリスの行動、言動を見て、エリアストは成長していきます。
残酷さは変わりませんが、アリス絡みでだけは、いろいろ思考を巡らせ、衝動的な感情さえ抑え込んでいく青年へと成長していったのです。
ちなみに路地裏での犯行は、人に見られないようにしたためではありません。蹴り飛ばした先が路地裏だっただけです。
また機会がありましたら、エル様の成長過程のお話が書ければと思っております。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
本当にありがとうございます。少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
エリアストとアリスが婚約を結んだばかりの頃の話です。
激甘?エル様ではありません。初期の狂気を孕んだエル様、登場です。ご注意ください。
*∽*∽*∽*∽*
「ファナトラタ家のアリス嬢だろ、それ」
馬車に乗っていたエリアストは、街を歩いていた子息たちのその言葉を捉えた。
先日婚約を結んだ人の名が聞こえた。
アリス、と言ったか。私のものの名を勝手に呼んだのか、あの者。
御者に馬車を止める合図を出す。
陽の落ちる時間が早くなった時季。学園が終わって少ししか経っていないが、もう辺りは薄闇に包まれている。馬車を降りたエリアストは、愚か者の声を探す。と、少し離れたところから、その声を捉えた。
声の方を振り返ると、そこには三人の子息がいた。エリアストは子息たちを見据えた。
三人の話は続いている。思春期特有の、少々色事に染まった会話。
エリアストは背後から一人を路地裏へ蹴り飛ばし、残る二人の襟首を掴んで同じ路地裏へとブン投げた。
これは、知る者の限られた話。
ぐちゃり
粘度の高い血液が、エリアストの拳に一瞬糸を引いた。殴り続けたソレは、もう顔の判別は出来ない。疾うに、息絶えていた。ようやく気が済んだのか、エリアストは立ち上がる。顔面、特に口は原形など止めておらず、喉も潰され、男性器の辺りも夥しい血が広がる無惨な死体が三体。
「私のものを穢した報いだ」
アリスを、妄想とはいえ色事を口にしたことは、到底赦せるものではない。その命を差し出すのは当然である。
最後に相手をしていた男の腹を蹴り上げ、エリアストは去った。
被害者は、学園の生徒三名。
孤児院へ行っていたアリスを見かけた一人が、惹かれたようだ。どこの令嬢かわからなかった生徒は、友人にその令嬢の特徴を伝え尋ねると、一人が知っていた。それが、アリス・コーサ・ファナトラタだと。
これが、三人の命運を分けた。
思春期の男子特有の話も交えながら、アリスとの妄想を口にしてしまったのだ。貴族として、誰が聞いているかわからない公共の場では慎むべき話のはずだが、辺りは既に街灯が灯る薄闇の頃。気持ちが緩んでしまったのだろう。大きな声ではなかったが、五感の異常に優れたエリアストの耳に届いてしまった。
不幸な偶然が重なったのだ。
誰が聞いているともしれない場所でそんな話をしなければ。
アリスを誰も知らなければ。
そもそもそこに、エリアストがいなければ。
起こることのなかった、凄惨な事件。
しかし、この事件がエリアストによるものだと知る者はいない。
ディレイガルドが動いたからだ。
アリスの耳に、入れないために。
まだ、ディレイガルドを受け入れるには、酷だと思えたからに他ならない。
………
……
…
「エル様、お迎えありがとうございます」
まだ、少々緊張気味のアリスが丁寧に頭を下げる。
エリアストが学園の日は、それが終わってからアリスを迎えに来て、共にディレイガルド邸で過ごす。それが、婚約を結んでからの約束事だった。
「エル様、本日は何かございましたか?」
アリスの心配そうな瞳がエリアストを見つめる。
「何故そう思う」
「いつもと、お迎えのお時間が違いましたので。それに、制服ではなく着替えていらっしゃるものですから、勝手ながら、心配しておりました」
言葉の意味がわからず、エリアストはジッとアリスを見ながら尋ねる。
「心配?おまえが?何故」
アリスは困ったように笑う。
「いつもと違うことがあれば、何かあったのかと。エル様に何事もないなら良いのです」
「いつもと違うことがあると、おまえは心配をするのか」
「わたくしだけではございませんわ。大抵の方は、大切な存在を常に気にかけております」
柔らかく微笑むアリスの言葉に、エリアストの心臓がざわめく。
「大切な、存在」
アリスの言葉を口に乗せると、一層心臓がざわめいた。
じわじわと全身に広がる何かにエリアストが戸惑っていると、アリスが目を見開いた。
「まあ、エル様、お怪我をされていますわ」
慌ててハンカチを取り出し、エリアストの耳の下にあてようとするアリスのその手を掴んだ。力加減が上手く出来ないエリアストは、ギチリと握り締めてしまう。
「ぃあっ」
ハンカチが落ちる。それを気にすることなく、エリアストは掴んだアリスの手を見つめ、アリスを見つめた。
「この程度でも、おまえは壊れてしまうのか」
アリスから射貫くような視線を外さず、赤くなったそこに、舌を這わせる。
ふるり
アリスは震えた。
「おまえは、脆い。少し、力の加減を間違えたら、おまえは」
そこまで言って、エリアストは眉を顰めた。アリスのいない未来など、想像もしたくない。
「エル様。わたくしは、エル様と生きていくのです」
エリアストの全身が、ザワリと粟立つ。
「ふたり、共に歩むのです」
体が勝手に動いていた。
腕の中に、アリスを閉じ込めている。
身動ぐアリスに、この程度の力さえアリスには強いのだ、と少し力を緩めると、アリスは体の力を抜いた。身を委ねられた心地よさに、やはりエリアストの全身が粟立つのだ。それが、温かい感情であることにはまだ気付けないでいるが、確実にエリアストの心を揺さぶっていく。
「お怪我をされているのかと。血が付いております」
腕の中で、アリスのくぐもった声がする。
「怪我などしていない。これは、愚か者の血だ。おまえは私のものだ。私以外に触れるなど、況して愚か者に触れることなど赦さん」
腕を解き、アリスの顎を上げさせると、その唇に喰らいついた。片手で後頭部を、もう片手で腰を抱き、逃がさない。
唇を重ねるアリスの真っ赤な顔に、満足そうに目を細める。
全身を支配する、名もわからない感情は、悪くない。いや、心地よい。この感覚は、アリスが側にいるだけで得られる。
触れれば、もっと強くなる。
この感情の名を、遠くない未来に知ることが出来るのだろう。
アリスさえ、側にいれば。
「ああ、エルシィ。」
ようやく離れた唇が、アリスを呼ぶ。アリスは力が入らずエリアストにもたれかかったまま、弱々しくエリアストを見上げる。
「そう。ふたりで、共に、生きよう。アリス」
アリスの短い髪を一房掬い、誓いのようにくちづける。
アリスは、その手にそっと自身の手を重ねた。
「はい。ずっと、一緒です、エル様」
再びふたりの唇が重なった。
*おしまい*
こうしてアリスの行動、言動を見て、エリアストは成長していきます。
残酷さは変わりませんが、アリス絡みでだけは、いろいろ思考を巡らせ、衝動的な感情さえ抑え込んでいく青年へと成長していったのです。
ちなみに路地裏での犯行は、人に見られないようにしたためではありません。蹴り飛ばした先が路地裏だっただけです。
また機会がありましたら、エル様の成長過程のお話が書ければと思っております。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆
何度読み返してもゾクゾクする狂気と一途さにどハマりして2年になるんですね!
これからも更新楽しみにしています。
作者様の益々のご活躍お祈り申し上げます。
とーみこ様、いつもありがとうございます。
長いことお付き合いくださり、嬉しい限りです。
これからもどうか、温かく見守ってくださるとありがたいです。
近頃は、寒暖差が大きくなってきましたね。
どうぞご自愛くださいませ。
とにかく大好きな作品です!
何度も何度も読み返しています。
いつも心にアリス!寝ても覚めてもアリス!そんなエル様と全てを受け入れるアリスが大好き(笑)
エル様の感覚に共感出来ない所ばかりですが、物語と言えどその世界で2人がいつまでも幸せだと良いなと思います。
感想くださり、ありがとうございます。
何度も読んでいただけて、とても嬉しくありがたいです。
私も二人変わらず、幸せな日々を過ごして欲しいと願っております。
頑張って生まれた作品の登場人物を好きだと言っていただけることが、今後の励みになります。
これからも、どうか二人を愛でてくださると嬉しいです。
何度も繰り返し読まさせてもらってます。
新しい続編も読んでますよ☺️
いきなり子供がいてビックリでしたけど
新婚、妊娠とかのところも読みたかったですね。きっと色々あったと想像できたゃうので
よい作品ありがとうございました
感想をいただき、ありがとうございます。
繰り返し読んでいただけて、作者冥利につきます。
続編もお読みいただいているとのことで、大変嬉しいです。
子どもを授かる話は、続編の「ばんがいへん」でお届けする予定です。
現在公開始めました最終章が終わりましたら、「ばんがいへん」となりますので、
これからもよろしくお願いいたします。