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番外編

いい日、無事、旅立ち

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らがまふぃん投稿開始一周年記念 第一弾
アルファポリス様にて投稿させていただき、みなさまに支えられながら活動して早一年。楽しく活動出来たことは、優しく見守ってくださるみなさまのおかげです。これからもほそぼそ頑張って参りますので、これまで同様、温かい目で見守って、お付き合いくださいませ。

本編とはまったく関係ないお話しです。


*∽*∽*∽*∽*


 「何だこれは」
 ある日のこと。
 目覚めて部屋から出ようとすると、ドアの隣に、見慣れないドアがあった。何の飾りもない、真っ白なドア。いや、ドアと言うには不可解だ。開けるためのノブがない。試しに触れてみるが、変化はない。ノックをするように叩いてみても、引き戸のようにスライドさせようとしても、何も起きない。
 ふむ、とエリアストは僅かに考えると、ドアを容赦なく蹴った。ドアは見事に粉砕され、ようやくその向こう側を見せた。だが、オーロラのようなものが揺らめいていて、結局その奥が見えない。
 破壊音に、部屋の外に控えていた護衛が部屋に入る。
 「あるじ、如何しましたっ」
 エリアストが立つ眼前に、得体の知れないオーロラ揺らめく空間。護衛がエリアストとその空間の間に立つ。
 「丁度いい。おまえ、この先に何があるか見て来い」
 「主、これはどこから?」
 「知らん。部屋を出ようとして見つけた」
 護衛は頷くと、エリアストをその空間から離してロープを持って来た。自身の腹をロープで縛り、反対の端を柱に縛りつけると、それではいってきます、と躊躇うことなくオーロラに突っ込んで行った。ディレイガルドの護衛は勇者である。
 と。
 一瞬で護衛が戻って来た。酷く顔色が悪い。
 「何があった」
 「あ、主、これは、不可抗力です」
 崩れ落ちる護衛を見下ろす。
 「時間はこちらとしては一瞬だったが、おまえは向こうにどのくらいいた」
 「私も、一瞬です」
 「ロープを貸せ」
 護衛はロープを外してエリアストを同じように縛りながら、おずおずと伝える。
 「あの、主、本当に、不可抗力、ですから」
 エリアストは護衛を睨むと、自身もオーロラへと入っていった。
 ………
 ……
 …
 護衛の反応から確信はあった。だが。
 「アイツ、殺すか」
 ボソリと不穏な言葉を呟くエリアストを、真っ赤な顔で見つめたまま動けないでいるエリアストの最愛。レースをたっぷりと使用した可愛らしい白のネグリジェで、ベッドから下りようとしているところで固まっている。
 どうやらオーロラの向こうは、アリスの部屋だったようだ。振り返ると、姿見からロープが延びている。エリアストはロープを外すと、アリスに近付いた。
 「おはよう、エルシィ」
 何事もないかのように、通常通りのエリアスト。アリスは混乱しつつ、挨拶を返す。
 「お、おは、おはよう、ございます?える、さま?」
 クリッと首を傾げるアリス。はねた前髪がひょこっと揺れた。可愛すぎて、エリアストは膝から崩れ落ちた。
 「ひええええ?エル様、大丈夫ですかっ」
 「あ、ああ、たぶん」
 慌てて裸足のまま駆け寄るアリス。膝をついてエリアストを支えるように手を添えると、その手をエリアストは握った。
 「大丈夫、大丈夫だ、エルシィ」
 エリアストは困ったように笑うと、立ち上がってアリスをお姫様抱っこする。そのままアリスをベッドに連れて行くと、淵に座らせた。小さな足を取ると、その甲にそっとくちづけた。アリスは真っ赤になって口をパクパクさせるが、あまりのことに言葉が出ない。足を見られるのは、それほどまでに恥ずかしいことなのだ。そこに口づけられるなど、もうどうしていいかわからない。そんなアリスの足に、スリッパを履かせた。
 「心配させた。すまない、ありがとう、エルシィ」
 アリスのあまりの可愛さに膝をついたエリアストを心配し、裸足で駆け寄ってくれたのだ。嬉しいなんてものではない。破顔するエリアストに、アリスも真っ赤な顔のまま、嬉しそうに笑った。
 「ええと、エル様。ところでどのようにこちらへいらしたのでしょう。鏡から出てきたように見えましたが」
 少し落ち着いた頃、隣に座って髪を撫で続けているエリアストに、尤もな疑問を投げかける。エリアストは、ああ、と事の次第を話した。
 「あの、もしかしたら、わたくしの願いが、神様に通じたのかもしれませんわ、エル様」
 「願い?」
 思い当たることがあったようで、アリスはそんなことを口にした。
 神にすら狙われるのか。この愛らしさ、神に狙われるのは当然だ。私としたことが、迂闊だった。チッ。神のヤツを滅ぼすか。
 最愛の願いを叶えようとする神は敵、とエリアストは認定したようだ。
 だが。
 「こちらです、エル様」
 嬉しそうにエリアストの手を引くアリスに、エリアストの暴走する思いも一瞬で霧散した。
 アリスの部屋の側にある木。その窓から見える位置に、鳥の巣があった。
 「ああ、ここからだとよく見えるな、エルシィ」
 以前アリスを迎えに来たとき、馬車に乗る前にアリスに手を引かれ、木の下から見たことはあった。鳥の巣作りの様子から雛がかえったことまで、アリスは嬉しそうに話をしていた。
 鳥の分際でエルシィの心を奪うとはいい度胸だ。
 ゴオッと嫉妬の炎が燃え上がったが、アリスの悲しむ顔は見たくないので、凄く我慢をして鳥には手を出さないでいたエリアスト。
 「はい。その雛たちが、今日明日にも巣立ちそうなのです。その時を、エル様と見守ることが出来たら、と思っておりましたの」
 それが、まさかこんな風に役立つとは。
 まだ早朝の時間。アリスの部屋に訪れ、アリスと共に、穏やかな時間を共有する至福。二人窓辺に寄り添い、ゆっくりと時間が流れる。
 「あ」
 アリスの小さな声がした。
 嫉妬をしつつもその可愛さ故、一生懸命巣を見つめるアリスを愛おしげに見つめていたエリアストも、その声に視線を巣に移す。
 懸命に羽を広げ、羽ばたきを繰り返し。
 そして、今。
 力強く飛び出した。
 一羽、また一羽。全部で六羽、すべてが大空へと羽ばたいた。
 黒い点になり、やがて見えなくなるまで、アリスは見つめ続けた。
 「行ってしまいました。みんな、無事でいて欲しいですね、エル様」
 淋しそうに笑うアリスを、優しく抱き締めた。
 「ああ、そうだな、エルシィ」
 頭にくちづけを落とすと、アリスがエリアストを見上げた。
 「エル様と巣立ちを見ることが出来て、とても嬉しいです」
 ずっと見守ってきた、淋しくもあり嬉しくもある新しい門出に、最愛の人と立ち会えた。それが、アリスはとても幸せだった。
 「エルシィ」
 抱き締めながら髪を撫で、額に、頬に、くちづけを落とす。
 「願い事があるなら、どんなことでも叶えよう」
 耳元で囁き、そこにも唇を押し当てる。
 「だから、神などに願わず、私に願ってくれ、エルシィ」
 至近で見つめ合い、ゆっくりと唇を重ねた。


余談
 アリスの寝起きとネグリジェ姿を不可抗力で見てしまった護衛。
 ディレイガルド影養成訓練所に戻され、二ヶ月間、訓練内容の二倍を熟すよう課せられる。
 理不尽にも涙をのんで耐え忍ぶ護衛たちの未来は、それでも明るい。



*おしまい*

らがまふぃん一周年記念にお付き合いくださり、ありがとうございます。
活動を始めて一年。長いようなあっという間だったような。
みなさまのおかげで、充実した一年を送ることが出来ました。
本当にありがとうございました。
第二弾は、明日R5.10/30 美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛 にてお届け予定です。
これからも、どうぞよろしくお願いいたします。
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