美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛

らがまふぃん

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番外編

囚われの身の上 3

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 アリスは王女付の女官にょかんであった。王女は思い込みが激しく、しばし周囲を辟易へきえきとさせていた。それでもアリスは根気強く王女に付き合っていたのだが。
 「なんだ、バカなのか、この女は。よくこれで王族が務まる」
 アリスを膝の上で抱き締め、資料をめくりながらアリスの話を聞いていたエリアストは呆れた。
 王女には四人の護衛騎士がいる。その中でも、一番のお気に入りがいて、四六時中自分の側に置いていた。その護衛騎士が非番の日は、王女の機嫌がかんばしくない。
 その騎士が非番の日、業務連絡を伝え忘れていたと登城した際、その伝言を、偶々たまたま通りかかったアリスにお願いをした。王女付きの女官のため、もちろん仕事で話すことはままある。だが、彼が非番の日にわざわざ登城し、アリスと話していたのを目撃していた者たちがいた。その中で、それを王女に伝えるという余計なお節介を焼いた人物により、王女はアリスとお気に入りの護衛騎士がいい仲になっていると思ったらしい。ただの業務連絡の中でのささやかな世間話。それに微笑んだことも一因らしい。よくもそんな事細かに伝えたものだ。明らかに王女の癇癪かんしゃくを誘った、アリスへの嫌がらせだ。
 王族に付く者は嫉妬の対象になり易い。例えそれが癇癪持ちの出来損ないのお付きであっても。いや、そんな王族だからこそ、操りやすく、見る者によっては魅力的なのだろう。そんな足の引っ張り合いに巻き込まれたアリス。最終的には、自分のことをわらっていたと言い出す始末。護衛騎士はそれに付き合わされた被害者であり、すべての原因はアリスにあると喚き散らし、どうにも収集がつかなくなった。ディレイガルド監獄以外認めない、王家を、王女である自分を侮辱したのだから当然だ、と譲らなかったそうだ。さらには、自分の騎士ものを誘惑した、処刑しろ、とまで言い出したという。
 「くだらん。だがまあいい」
 抱き締めるアリスの髪に、顔中に、キスの雨を降らせる。
 「私のもとにおまえを贈って・・・くれたんだ。なあ、アリス」
 真っ赤になって恥ずかしそうに目を潤ませるアリスの唇に、くちづける。
 「その点だけは褒めてやろう」
 崩れたアリスの髪をほどく。さらさらと黒髪が流れた。
 エリアストは、王家へのプレゼント・・・・・の構想が出来た。
 ここに送るには、王の許可がいる。王が王女の我儘を認めたということだ。女性をこの監獄へ送ると言うことが、どういうことかわかっていたはずだ。さぞファナトラタ家は絶望したことだろう。
 それでいい。
 その絶望が深ければ深いほど、私に感謝する。私との婚約を認めざるを得ない。
 アリスを私に捧げるしかない。
 いや、何があっても認める以外の選択肢などないがな。
 「帰るぞ、アリス」
 アリスを抱き締めたまま立ち上がる。
 「で、ですが、わたくしは」
 何かを言おうとするアリスの唇を、自分のそれで塞ぐ。
 「おまえは私のものだと言っただろう」
 エリアストは笑う。
 「それに、おまえが言ったではないか」
 アリスは僅かに首をかしげる。
 「たわむれではなくおまえを望むのならば、正当な手順を踏めと」
 アリスは目を見開く。自分と結ばれるなど、夢にも思わない。家格が違いすぎる。そして、罪人に手を出したら家格をおとしめてしまう。結婚なんてあり得ないからそう言ったまでだ。
 「エル様、それは」
 「おまえは何も心配せずとも良い」
 髪を一房手に取ると、ゆっくり、アリスにわからせるようにくちづける。エリアストが何を望むのか。アリスは何に望まれたのか。わからせるように、くちづける。
 アリスの瞳が切なそうに揺れた。
 「おまえは私のものだ」
 するりと頬を撫でると、優しくくちづけた。
 左腕に座らせ、顔を自分の肩口に寄せるようにさせる。自身の帽子をアリスに目深に被らせ、顔を隠す。
 「今後おまえを見ていいのは私だけだ」



 囚人たちが収容される部屋の扉を開けると、囚人たちは、帽子を外したエリアストに目を奪われる。美しいエリアストを見て、そして抱えられる人を見る。先程の新入り、高位貴族のご令嬢ではないのか。なぜ、エリアストの帽子で顔を隠し、エリアストが抱えているのだろう。するとエリアストは、サーベルを思い切り壁に打ちつけた。サーベルで打ったとは思えない破壊音が響き、ボロ、と壁が一部崩れる。監獄の壁が一部とはいえ崩れるなんて、あり得ない。恐ろしい。囚人たちは何事かと青ざめ、震え上がる。
 「全員後ろを向け。壁を見るんだ」
 囚人たちは一斉に後ろを向く。
 「私が出るまでそのままだ。破った者は四肢を切り落とし目をえぐる」
 囚人たちは言われてもいないのに、その吐息すら聞いてはいけないと思い、耳を塞ぐ。それを見て、エリアストは囚人たちの檻の前を、アリスを抱えたまま歩く。アリスの美しい髪が、エリアストの歩調に合わせて揺れる様は、星が流れているようにキラキラとして幻想的だ。その光景を見ることは誰にも出来ないが。
 折角久々の女。それもとびっきり上玉のご令嬢血統。それなのに。
 エリアストは扉の向こうに、そのとびっきりを連れて行ってしまった。
 扉を出る直前、
 「令嬢の姿を見たな。忘れろ。そうしないと、貴様らの目を抉らねばならなくなる」
 そう言って。
 「矯正監きょうせいかんも、人間だったんだな」
 誰かが呟いた。


 *4へつづく*

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