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番外編

体育祭

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 同じ学園に通っていたら、というどうしようもないアホなお話です。
 なにも考えずにお読みください。


*~*~*~*~*


 「さあ今年もやって参りました体育祭!実況を務めますのは私、ディレイガルド公爵家当主です!たくさんの血と汗を流してくださいねー!」
 良く晴れた秋空の下、紅白対抗体育祭が幕を開けた。
 「最初の種目はお馴染み玉入れ!最初に持ってくる種目じゃないなあ。さあ張り切って詰め込んでね!」
 ボソリと呟かれたものも、マイクを持っていれば拾ってしまう。とりあえずみんな気にせず配置につく。
 審判のかけ声と共に、一斉に競技が開始された。
 「ディレイガルド!この勝負は私がもらったよ!これでMVP取ってアリス嬢に褒めてもらうんだから!」
 「おおーっと、大量の玉を抱えたララ殿下!凄まじいスピードで籠に目がけて投げています!だが残念!コントロールが悪すぎる!」
 「殿下!もういいから玉拾って!オレがやった方がマシ!」
 「ここで見かねたシャール隊長からのストップがかかる!さあ、対する紅組はー?!」
 「面倒だな。もっと低ければ楽なんだがな」
 決して大きくはないエリアストの声に、籠を支える二人の肩が揺れた。そーっと籠が斜めになっていく。
 「あーっ!ずるいぞ、卑怯者め!」
 ララがエリアストに向かって玉を投げる。ノーコンなので当たらない。手当たり次第投げるララに、シャールの罵声が飛ぶ。
 「殿下バカなの?!玉なくなっちゃうじゃん!次やったらバリカンで逆モヒカンにするから!」
 ちなみに逆モヒカンとは、モヒカンは頭の真ん中の髪を残すのに対し、その反対、真ん中のみを剃る。落ち武者っぽくなる。
 そうして無情にも終了の笛が鳴った。
 「あっはっはっは!数えるまでもなく紅の勝ちだねえ。籠いっぱいだ。さあ、どっちが勝ったかな?!」
 だから聞こえてるって。というみんなの心のツッコミは置いておく。当然軍配は紅。
 「さあお次は綱引きだよ!甘やかされたお貴族様には縄を持つことすら出来ないよね!平民たちの独壇場だ!普段見せ場なんてないから今回ばかりは輝いちゃうよ!準備はいいかな?!」
 余計な言葉だらけだ。競技に入る前から意気消沈しちゃってるよ。何とか気を取り直してスタート。
 エリアストが玉入れを口実に、疲れたとアリスに抱きついて英気を養っている間に、綱引きはまたも紅に軍配が上がる。
 「次は障害物競走だよ!なんと今回この種目!我らがアリス嬢が出場です!まさかアリス嬢が怪我をするようなことはないよね?絶対安全だよねぇ?」
 まさかの実況からの脅し。アリスのコースから障害物が取り除かれていく。ディレイガルド家の使用人や護衛という名の影たちが、アリスのコースを花道のように囲っていく。エリアストがアリスの手を取るエスコート付だ。そして謎の拍手喝采。白組の一部からブーイング。
 「なんでだよー!アリス嬢はいいとしてこれじゃあ競技にならないじゃないかー!」
 「殿下。世は無常なのです」
 「今そんな話してないよ、レンフィ!」
 「殿下ー、無駄無駄無駄無駄。目の前のことを粛々と熟しましょーや。応援です。レンフィー殿がんばー」
 「まあまー、ぱあぱー」
 「ここで白組サイドから紅組へのエールが送られたぞー!」
 「マアル!私も!私も頑張るから!私にも!」
 ヨシュアが懸命にアピールする。
 「まあまー、ぱあぱー、にーたまー」
 「ふぐうっ、ついでのようだがいい!頑張る!マアルに勝利を!ぎゃわー!」
 ネットの下をくぐり抜けるところで、ヨシュアの悲鳴。
 「おお、これはヨシュア殿下大変だー!地面にはびしが敷き詰められているぞ!さあ、たくさんの血を流すがいい!」
 「なんで私のところだけー?!」
 何と言うことはない。先に辿り着いた者たちが、撒き菱を空いているコースへ追いやった結果だ。つまりヨシュアはビリ。
 「まあ、公の場で大きく口を開けるなどはしたない。ナイフとフォークをお持ちなさい」
 パンがぶら下がっているゾーンで、レンフィは顔をしかめる。手でパンを外すと、椅子とテーブルも用意させ、優雅に食す。
 「さすが王女付きの女官!所作が美しいですね。そういう競技ではありませんが、淑女のかがみということで認めましょう」
 レンフィの行動に、他の競技者も、食べなきゃダメ?かな?と席についてお口をもぐもぐ。やっと辿り着いたヨシュアもさすが王族。美しく食した。
 ちなみにアリスとエリアストはとっくにゴールをして、優雅にティータイム中だ。
 最後の障害は紙に書かれたお題のものを持ってゴールだ。
 「殿下、共にいらしてください」
 ララを連れてゴールをしたレンフィのお題は、大切な人、だった。
 他の者たちもわらわらとお題を求めて散っていく。ヨシュアのお題は。
 「ファナトラタ嬢、一緒に」
 「貴様の国はこの国との戦争を希望か」
 ブリザードが吹き荒れた。
 「ひえええええ、だ、だって、お題、当てはまる、知らない」
 泣きながらヨシュアは片言で伝える。
 お題を見て、エリアストは考える。
 「では私が行こう」
 「え゛?!」
 ヨシュアはエリアストを連れてゴールをした。お題を審判に見せると、審判は何度かエリアストとお題を見てしまう。
 「ご、ゴール、です」
 認められた。認めないわけにはいかないだろう。認めたくなくとも。
 穏やかな人
 お題にはそう書かれていた。
 着々と競技は進む。
 「なんか血にまみれなくてつまらないなあ。次はもっと刺激的な、あ、私がプロデュースしよう。そうすれば血湧き肉躍る体育祭になるな」
 マイクを切ろう。マイクを切ろう、ディレイガルド公爵よ。そして血湧き肉躍るのは恐らくあなただけでしょう。やる側はやべーことにしかならない。絶対。
 そして最後の種目となった。
 「泣いても笑っても最後だよー!種目はカクテルリレー!男女混合四人一組のリレーだよ!このリレーは特別仕様!一位を取ったチームには女神からの祝福が待っている!女神はもちろん、我らがアリス嬢!!さあ、女神の祝福を受け取れる幸運の持ち主は誰だ?!」
 紅白各二チームずつのカクテルリレー。白組の一組、アンカーはエリアスト。
 ゆったり歩くエリアストを追い抜くことを誰が出来よう。いいや、誰にも出来はしない。もしもエリアストのチームより順位が上だった場合、アンカーは全力で逆走しなくては。
 ゴクリ。
 最早リレーをやる意味がわからない。
 「さあ女神から出場選手にひと言!アリス嬢、お願いします!」
 「エル様、がんばってください」
 「はーい、ありがとうございましたー!」
 ファナトラタ嬢…。
 いろいろ複雑だった。
 「アリス嬢!私にも!私にもー!」
 ララがブンブンと手を振る。アリスはその手にそっと振り返した。
 「わーい!これでディレイガルドをこてんぱんだよ!」
 最後の競技が始まった。
 実質エリアストとララの一騎打ち。二人は同時にバトンを受け取る。しかしエリアストはバトンの受け渡しがわからず立ち止まったまま受け取る。
 「あ、あの、お願いいたします」
 第三走者が捧げるようにエリアストに渡した。
 「ははーん、お先だよー、ディレイガルドー!」
 「ふむ。これを持って走れば良いのだな」
 「はい、お願いいたします」
 エリアストは前を行くララを見た。
 「何人たりとも私の前は走らせん!」
 ギラリと目を光らせたエリアスト。信じられない速度でララに迫る。
 「ひぎゃっ?!怖あっ!」
 ララが涙目で飛び上がる。
 「エルシィは誰にも渡さん!!」
 そのままゴールをぶっちぎり、実況席のアリスのところに突っ込んだ。
 ひとつも息切れをしていないエリアストがアリスを抱きしめながらゆらりとディレイガルド公爵の前に立つ。
 「父上。アリスの隣に座っているのは感心しませんね」
 「ええ?隣もダメなの?」
 「出来れば視界に入らないでください」
 「ひどいな、この息子」
 紅組の圧勝で、体育祭は幕を閉じた。


 *おしまい*

 次話は 江戸時代風 のパロディーになります。
 よろしかったらお付き合いください。
 ちなみにパンを食べるマナーとして、ナイフとフォークは使いません。
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