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結婚編
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「あらあらどこの子でしょうね」
レンフィがすかさず女の子を抱き上げた。しかし女の子はアリスの手を離さない。レンフィは笑顔を保ちながら握った手を離そうとする。だが女の子の握る手にはますます力が入る。
「なんだ。暗殺者かこの子どもは」
エリアストの発言に、ララたちの頬が引きつる。その時だ。
「マアル、そこにいたのか」
目元に泣きぼくろのある、甘い顔立ちの青年が近付いて来た。
「やあ、すまないね。乳母の所から逃げ出してしまったようだ」
微笑みながら金の髪を揺らす男は、主賓の一人、カラフスト国の第三王子ヨシュアだった。
「にいたま」
舌っ足らずにヨシュアを呼ぶが、アリスの手を離さない。
「これはこれは、クロバレイス王女殿下にディレイガルド殿。姪がご迷惑をおかけしました。ああ、ファナトラタ嬢、申し訳ない。どうも姪はあなたが気に入ったようだ。迷惑でなければ乳母の待つ控え室まで一緒に」
「迷惑極まりない」
ヨシュアの言葉を遮って、主賓にストレートに伝えるエリアスト。ヨシュアの笑顔にヒビが入る。通常であれば、かしこまりました、で終わる話だ。断られたことなんてない。
「えー、と?私はファナトラタ嬢に言っているのだが?」
エリアストの無言の圧に、ヨシュアがたじろぐ。王族に、況して他国にいてこんな扱いをされたことなど、未だかつて一度もない。それはそうだ。外交問題になりかねない。更に言えば、エリアストたちのために、遠路はるばるここまで来ている。それだというのに。
不穏な空気を破ったのは、やはりアリスだ。
「エル様、マアル様を抱っこしてあげてください。レンフィ様、マアル様をエル様に」
アリスの言葉に周りが驚く。
「ちょ、アリス嬢、ディレイガルドに渡して大丈夫?」
誰もが思う。何をするわけでもないだろうが、何かが不安だ。
「さあエル様、レンフィ様から」
「ふむ」
「で、では、お願い、いたします」
恐る恐る渡すレンフィ。受け取ったエリアストは、荷物を抱えるように小脇に抱えた。
「ふふ、エル様ったら。こうですわ」
相変わらずマアルはアリスの手を離す気配のない中、アリスは上手に誘導して、エリアストの片腕にマアルをちょこんと座らせることに成功した。
「これで控え室まで参りましょう」
乳母の所へ連れて行ってくれるようで、ヨシュアは安心した。
「ファナトラタ嬢、感謝する。よかったらお茶でもいかがかな」
無事控え室に着くと、ヨシュアがそんなことを言う。エリアストから冷気が漂う。
「いいわけないだろう」
「ディレイガルド殿、先程からキミには言っていないんだよ。私は公賓だよ?無礼が過ぎるんじゃないかな」
「礼を重んじるに値しない者に礼を繕う意味は何だ。おまえが礼儀がなっていない」
「だあ」
「みろ、子どももそうだと言っている」
「いや、ディレイガルド、それは違うんじゃないかな」
「え、嘘。マアル、私、無礼じゃないよね?ディレイガルド殿だよね、無礼は?」
マアルは欠伸をして目を擦る。
「え?マアル?にいたま無礼じゃないよね?」
「ぶ」
「子どもにはわかっているようだな」
ヨシュアはガクリと膝をつく。
いやいや、何をしているんだこの人たちは。
「アリスを選んで連れて来させるだけはある」
「ぱぱ」
全員がエリアストとマアルを見た。エリアストが口の片端をあげて笑っている。
「ふむ。見る目があるな、マアル」
「あい」
あれ?この子、もしかして本当にわかってる?
「ずるい!私だってまだパパなんて言われたことないのに!」
「おまえは天才だな。その歳で序列がわかるんだな。そうだ。父様と母様は一番尊ぶ存在だ」
「あい」
ずるいずるいと滂沱の悔し涙を流すヨシュアに、追い打ちをかけるエリアスト。ヨシュアは床に伏せて泣いている。どれだけ姪バカなんだ。
「待って、ディレイガルド殿。どうすれば私もパパと呼んでもらえるか教えて欲しい」
「知るか」
「そこを何とか。ね、私とディレイガルド殿の仲じゃないか」
各国には楽しい人がたくさんいるんだな、とアリスは思った。
エル様に、たくさんお友だちが出来そうです。
*小話を挟んで最終話につづく*
エル様の「父様と母様は一番尊ぶ存在だ」の発言に違和感しかないのはなぜでしょう。
レンフィがすかさず女の子を抱き上げた。しかし女の子はアリスの手を離さない。レンフィは笑顔を保ちながら握った手を離そうとする。だが女の子の握る手にはますます力が入る。
「なんだ。暗殺者かこの子どもは」
エリアストの発言に、ララたちの頬が引きつる。その時だ。
「マアル、そこにいたのか」
目元に泣きぼくろのある、甘い顔立ちの青年が近付いて来た。
「やあ、すまないね。乳母の所から逃げ出してしまったようだ」
微笑みながら金の髪を揺らす男は、主賓の一人、カラフスト国の第三王子ヨシュアだった。
「にいたま」
舌っ足らずにヨシュアを呼ぶが、アリスの手を離さない。
「これはこれは、クロバレイス王女殿下にディレイガルド殿。姪がご迷惑をおかけしました。ああ、ファナトラタ嬢、申し訳ない。どうも姪はあなたが気に入ったようだ。迷惑でなければ乳母の待つ控え室まで一緒に」
「迷惑極まりない」
ヨシュアの言葉を遮って、主賓にストレートに伝えるエリアスト。ヨシュアの笑顔にヒビが入る。通常であれば、かしこまりました、で終わる話だ。断られたことなんてない。
「えー、と?私はファナトラタ嬢に言っているのだが?」
エリアストの無言の圧に、ヨシュアがたじろぐ。王族に、況して他国にいてこんな扱いをされたことなど、未だかつて一度もない。それはそうだ。外交問題になりかねない。更に言えば、エリアストたちのために、遠路はるばるここまで来ている。それだというのに。
不穏な空気を破ったのは、やはりアリスだ。
「エル様、マアル様を抱っこしてあげてください。レンフィ様、マアル様をエル様に」
アリスの言葉に周りが驚く。
「ちょ、アリス嬢、ディレイガルドに渡して大丈夫?」
誰もが思う。何をするわけでもないだろうが、何かが不安だ。
「さあエル様、レンフィ様から」
「ふむ」
「で、では、お願い、いたします」
恐る恐る渡すレンフィ。受け取ったエリアストは、荷物を抱えるように小脇に抱えた。
「ふふ、エル様ったら。こうですわ」
相変わらずマアルはアリスの手を離す気配のない中、アリスは上手に誘導して、エリアストの片腕にマアルをちょこんと座らせることに成功した。
「これで控え室まで参りましょう」
乳母の所へ連れて行ってくれるようで、ヨシュアは安心した。
「ファナトラタ嬢、感謝する。よかったらお茶でもいかがかな」
無事控え室に着くと、ヨシュアがそんなことを言う。エリアストから冷気が漂う。
「いいわけないだろう」
「ディレイガルド殿、先程からキミには言っていないんだよ。私は公賓だよ?無礼が過ぎるんじゃないかな」
「礼を重んじるに値しない者に礼を繕う意味は何だ。おまえが礼儀がなっていない」
「だあ」
「みろ、子どももそうだと言っている」
「いや、ディレイガルド、それは違うんじゃないかな」
「え、嘘。マアル、私、無礼じゃないよね?ディレイガルド殿だよね、無礼は?」
マアルは欠伸をして目を擦る。
「え?マアル?にいたま無礼じゃないよね?」
「ぶ」
「子どもにはわかっているようだな」
ヨシュアはガクリと膝をつく。
いやいや、何をしているんだこの人たちは。
「アリスを選んで連れて来させるだけはある」
「ぱぱ」
全員がエリアストとマアルを見た。エリアストが口の片端をあげて笑っている。
「ふむ。見る目があるな、マアル」
「あい」
あれ?この子、もしかして本当にわかってる?
「ずるい!私だってまだパパなんて言われたことないのに!」
「おまえは天才だな。その歳で序列がわかるんだな。そうだ。父様と母様は一番尊ぶ存在だ」
「あい」
ずるいずるいと滂沱の悔し涙を流すヨシュアに、追い打ちをかけるエリアスト。ヨシュアは床に伏せて泣いている。どれだけ姪バカなんだ。
「待って、ディレイガルド殿。どうすれば私もパパと呼んでもらえるか教えて欲しい」
「知るか」
「そこを何とか。ね、私とディレイガルド殿の仲じゃないか」
各国には楽しい人がたくさんいるんだな、とアリスは思った。
エル様に、たくさんお友だちが出来そうです。
*小話を挟んで最終話につづく*
エル様の「父様と母様は一番尊ぶ存在だ」の発言に違和感しかないのはなぜでしょう。
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