49 / 68
結婚編
10
しおりを挟む
「あらあらどこの子でしょうね」
レンフィがすかさず女の子を抱き上げた。しかし女の子はアリスの手を離さない。レンフィは笑顔を保ちながら握った手を離そうとする。だが女の子の握る手にはますます力が入る。
「なんだ。暗殺者かこの子どもは」
エリアストの発言に、ララたちの頬が引きつる。その時だ。
「マアル、そこにいたのか」
目元に泣きぼくろのある、甘い顔立ちの青年が近付いて来た。
「やあ、すまないね。乳母の所から逃げ出してしまったようだ」
微笑みながら金の髪を揺らす男は、主賓の一人、カラフスト国の第三王子ヨシュアだった。
「にいたま」
舌っ足らずにヨシュアを呼ぶが、アリスの手を離さない。
「これはこれは、クロバレイス王女殿下にディレイガルド殿。姪がご迷惑をおかけしました。ああ、ファナトラタ嬢、申し訳ない。どうも姪はあなたが気に入ったようだ。迷惑でなければ乳母の待つ控え室まで一緒に」
「迷惑極まりない」
ヨシュアの言葉を遮って、主賓にストレートに伝えるエリアスト。ヨシュアの笑顔にヒビが入る。通常であれば、かしこまりました、で終わる話だ。断られたことなんてない。
「えー、と?私はファナトラタ嬢に言っているのだが?」
エリアストの無言の圧に、ヨシュアがたじろぐ。王族に、況して他国にいてこんな扱いをされたことなど、未だかつて一度もない。それはそうだ。外交問題になりかねない。更に言えば、エリアストたちのために、遠路はるばるここまで来ている。それだというのに。
不穏な空気を破ったのは、やはりアリスだ。
「エル様、マアル様を抱っこしてあげてください。レンフィ様、マアル様をエル様に」
アリスの言葉に周りが驚く。
「ちょ、アリス嬢、ディレイガルドに渡して大丈夫?」
誰もが思う。何をするわけでもないだろうが、何かが不安だ。
「さあエル様、レンフィ様から」
「ふむ」
「で、では、お願い、いたします」
恐る恐る渡すレンフィ。受け取ったエリアストは、荷物を抱えるように小脇に抱えた。
「ふふ、エル様ったら。こうですわ」
相変わらずマアルはアリスの手を離す気配のない中、アリスは上手に誘導して、エリアストの片腕にマアルをちょこんと座らせることに成功した。
「これで控え室まで参りましょう」
乳母の所へ連れて行ってくれるようで、ヨシュアは安心した。
「ファナトラタ嬢、感謝する。よかったらお茶でもいかがかな」
無事控え室に着くと、ヨシュアがそんなことを言う。エリアストから冷気が漂う。
「いいわけないだろう」
「ディレイガルド殿、先程からキミには言っていないんだよ。私は公賓だよ?無礼が過ぎるんじゃないかな」
「礼を重んじるに値しない者に礼を繕う意味は何だ。おまえが礼儀がなっていない」
「だあ」
「みろ、子どももそうだと言っている」
「いや、ディレイガルド、それは違うんじゃないかな」
「え、嘘。マアル、私、無礼じゃないよね?ディレイガルド殿だよね、無礼は?」
マアルは欠伸をして目を擦る。
「え?マアル?にいたま無礼じゃないよね?」
「ぶ」
「子どもにはわかっているようだな」
ヨシュアはガクリと膝をつく。
いやいや、何をしているんだこの人たちは。
「アリスを選んで連れて来させるだけはある」
「ぱぱ」
全員がエリアストとマアルを見た。エリアストが口の片端をあげて笑っている。
「ふむ。見る目があるな、マアル」
「あい」
あれ?この子、もしかして本当にわかってる?
「ずるい!私だってまだパパなんて言われたことないのに!」
「おまえは天才だな。その歳で序列がわかるんだな。そうだ。父様と母様は一番尊ぶ存在だ」
「あい」
ずるいずるいと滂沱の悔し涙を流すヨシュアに、追い打ちをかけるエリアスト。ヨシュアは床に伏せて泣いている。どれだけ姪バカなんだ。
「待って、ディレイガルド殿。どうすれば私もパパと呼んでもらえるか教えて欲しい」
「知るか」
「そこを何とか。ね、私とディレイガルド殿の仲じゃないか」
各国には楽しい人がたくさんいるんだな、とアリスは思った。
エル様に、たくさんお友だちが出来そうです。
*小話を挟んで最終話につづく*
エル様の「父様と母様は一番尊ぶ存在だ」の発言に違和感しかないのはなぜでしょう。
レンフィがすかさず女の子を抱き上げた。しかし女の子はアリスの手を離さない。レンフィは笑顔を保ちながら握った手を離そうとする。だが女の子の握る手にはますます力が入る。
「なんだ。暗殺者かこの子どもは」
エリアストの発言に、ララたちの頬が引きつる。その時だ。
「マアル、そこにいたのか」
目元に泣きぼくろのある、甘い顔立ちの青年が近付いて来た。
「やあ、すまないね。乳母の所から逃げ出してしまったようだ」
微笑みながら金の髪を揺らす男は、主賓の一人、カラフスト国の第三王子ヨシュアだった。
「にいたま」
舌っ足らずにヨシュアを呼ぶが、アリスの手を離さない。
「これはこれは、クロバレイス王女殿下にディレイガルド殿。姪がご迷惑をおかけしました。ああ、ファナトラタ嬢、申し訳ない。どうも姪はあなたが気に入ったようだ。迷惑でなければ乳母の待つ控え室まで一緒に」
「迷惑極まりない」
ヨシュアの言葉を遮って、主賓にストレートに伝えるエリアスト。ヨシュアの笑顔にヒビが入る。通常であれば、かしこまりました、で終わる話だ。断られたことなんてない。
「えー、と?私はファナトラタ嬢に言っているのだが?」
エリアストの無言の圧に、ヨシュアがたじろぐ。王族に、況して他国にいてこんな扱いをされたことなど、未だかつて一度もない。それはそうだ。外交問題になりかねない。更に言えば、エリアストたちのために、遠路はるばるここまで来ている。それだというのに。
不穏な空気を破ったのは、やはりアリスだ。
「エル様、マアル様を抱っこしてあげてください。レンフィ様、マアル様をエル様に」
アリスの言葉に周りが驚く。
「ちょ、アリス嬢、ディレイガルドに渡して大丈夫?」
誰もが思う。何をするわけでもないだろうが、何かが不安だ。
「さあエル様、レンフィ様から」
「ふむ」
「で、では、お願い、いたします」
恐る恐る渡すレンフィ。受け取ったエリアストは、荷物を抱えるように小脇に抱えた。
「ふふ、エル様ったら。こうですわ」
相変わらずマアルはアリスの手を離す気配のない中、アリスは上手に誘導して、エリアストの片腕にマアルをちょこんと座らせることに成功した。
「これで控え室まで参りましょう」
乳母の所へ連れて行ってくれるようで、ヨシュアは安心した。
「ファナトラタ嬢、感謝する。よかったらお茶でもいかがかな」
無事控え室に着くと、ヨシュアがそんなことを言う。エリアストから冷気が漂う。
「いいわけないだろう」
「ディレイガルド殿、先程からキミには言っていないんだよ。私は公賓だよ?無礼が過ぎるんじゃないかな」
「礼を重んじるに値しない者に礼を繕う意味は何だ。おまえが礼儀がなっていない」
「だあ」
「みろ、子どももそうだと言っている」
「いや、ディレイガルド、それは違うんじゃないかな」
「え、嘘。マアル、私、無礼じゃないよね?ディレイガルド殿だよね、無礼は?」
マアルは欠伸をして目を擦る。
「え?マアル?にいたま無礼じゃないよね?」
「ぶ」
「子どもにはわかっているようだな」
ヨシュアはガクリと膝をつく。
いやいや、何をしているんだこの人たちは。
「アリスを選んで連れて来させるだけはある」
「ぱぱ」
全員がエリアストとマアルを見た。エリアストが口の片端をあげて笑っている。
「ふむ。見る目があるな、マアル」
「あい」
あれ?この子、もしかして本当にわかってる?
「ずるい!私だってまだパパなんて言われたことないのに!」
「おまえは天才だな。その歳で序列がわかるんだな。そうだ。父様と母様は一番尊ぶ存在だ」
「あい」
ずるいずるいと滂沱の悔し涙を流すヨシュアに、追い打ちをかけるエリアスト。ヨシュアは床に伏せて泣いている。どれだけ姪バカなんだ。
「待って、ディレイガルド殿。どうすれば私もパパと呼んでもらえるか教えて欲しい」
「知るか」
「そこを何とか。ね、私とディレイガルド殿の仲じゃないか」
各国には楽しい人がたくさんいるんだな、とアリスは思った。
エル様に、たくさんお友だちが出来そうです。
*小話を挟んで最終話につづく*
エル様の「父様と母様は一番尊ぶ存在だ」の発言に違和感しかないのはなぜでしょう。
137
お気に入りに追加
686
あなたにおすすめの小説
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい
棗
恋愛
婚約者には初恋の人がいる。
王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。
待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。
婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。
従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。
※なろうさんにも公開しています。
※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。
ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。
ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も……
※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。
また、一応転生者も出ます。

恋心を封印したら、なぜか幼馴染みがヤンデレになりました?
夕立悠理
恋愛
ずっと、幼馴染みのマカリのことが好きだったヴィオラ。
けれど、マカリはちっとも振り向いてくれない。
このまま勝手に好きで居続けるのも迷惑だろうと、ヴィオラは育った町をでる。
なんとか、王都での仕事も見つけ、新しい生活は順風満帆──かと思いきや。
なんと、王都だけは死んでもいかないといっていたマカリが、ヴィオラを追ってきて……。

(本編完結)無表情の美形王子に婚約解消され、自由の身になりました! なのに、なんで、近づいてくるんですか?
水無月あん
恋愛
本編は完結してます。8/6より、番外編はじめました。よろしくお願いいたします。
私は、公爵令嬢のアリス。ピンク頭の女性を腕にぶら下げたルイス殿下に、婚約解消を告げられました。美形だけれど、無表情の婚約者が苦手だったので、婚約解消はありがたい! はれて自由の身になれて、うれしい! なのに、なぜ、近づいてくるんですか? 私に興味なかったですよね? 無表情すぎる、美形王子の本心は? こじらせ、ヤンデレ、執着っぽいものをつめた、ゆるゆるっとした設定です。お気軽に楽しんでいただければ、嬉しいです。

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

王弟殿下の番様は溺れるほどの愛をそそがれ幸せに…
ましろ
恋愛
見つけた!愛しい私の番。ようやく手に入れることができた私の宝玉。これからは私のすべてで愛し、護り、共に生きよう。
王弟であるコンラート公爵が番を見つけた。
それは片田舎の貴族とは名ばかりの貧乏男爵の娘だった。物語のような幸運を得た少女に人々は賞賛に沸き立っていた。
貧しかった少女は番に愛されそして……え?

婚約破棄寸前だった令嬢が殺されかけて眠り姫となり意識を取り戻したら世界が変わっていた話
ひよこ麺
恋愛
シルビア・ベアトリス侯爵令嬢は何もかも完璧なご令嬢だった。婚約者であるリベリオンとの関係を除いては。
リベリオンは公爵家の嫡男で完璧だけれどとても冷たい人だった。それでも彼の幼馴染みで病弱な男爵令嬢のリリアにはとても優しくしていた。
婚約者のシルビアには笑顔ひとつ向けてくれないのに。
どんなに尽くしても努力しても完璧な立ち振る舞いをしても振り返らないリベリオンに疲れてしまったシルビア。その日も舞踏会でエスコートだけしてリリアと居なくなってしまったリベリオンを見ているのが悲しくなりテラスでひとり夜風に当たっていたところ、いきなり何者かに後ろから押されて転落してしまう。
死は免れたが、テラスから転落した際に頭を強く打ったシルビアはそのまま意識を失い、昏睡状態となってしまう。それから3年の月日が流れ、目覚めたシルビアを取り巻く世界は変っていて……
※正常な人があまりいない話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる